一章エピローグ "アローン"

目を開けると、ステンドグラス越しの朝日が私を照らしている。

……おかしいな。

私はもう二度と目覚めないはずだったのに。


「アシュリー……!」


名前を呼ばれた、聞き覚えのある声だ。

目を動かすと、そこには私の友達が微笑を浮かべていた。


「……リバティー? なんで……」


彼の顔は乾いた血で汚れているし、傷だらけだった。

私の知らない所で壮絶な経験をしたんだろう。


「来ないでって……言ったのに……」


私は彼に手を伸ばして、少しでも汚れを拭おうとした。


「ああ、ごめん。言う事聞けなかったよ」


心底申し訳なさそうに言うが、謝りたいのは私の方だ。


「……」


そこに転がっているソエラの死体を見て、

私は彼が何をしてくれたのか理解出来た。


……私はもう彼を責めるような真似は出来ない。


「帰ろうか……」


彼は左手を差し出す。

私はその手を取って立ち上がろうとするが……

右足の傷が痛み、片足立ちになってしまった。


「まだ治ってないもんね……せーのっ!」


いつかと同じ様に、彼に背負われる。

しかし、前とは違ってゆっくりとした、優しい歩調だ。

それに服が薄いせいか、彼の体温が伝わってきて暖かい……


「ねえ、リバティー」

「ん?」

「……ありがとう」

「どういたしまして」



「……! アレは……おい! 皆! 帰ってきたぞ!」


僕達が村にたどり着いたのはちょうどお昼頃の事だった。

ずっと待っていたのか、目の下に隈を作った村長が嬉しそうに出迎えてくれる。

……ちょっと悪い事したな。気絶しなければ後数時間は早く帰れたから。


村長は村中に聞こえるように大声で叫び、村人達が一斉に駆け寄ってくる。

そして、僕と背負われたアシュリーを見て、歓声を上げる。


「アシュリーちゃん!」

「無事だったのね……」

「良かった……! 本当に……!」


などなど、色々な声が飛び交う中、村長は僕の目の前に来る。


「リバティー君……その格好は……」


「……ああ、気にしないでください。

この村がホルシド教に害される事はもうありません。

もう、全部終わったんですよ」


「ありがとう……! 私には頭を下げる事しか出来ない……!」


村長は感極まったようで、地面に水滴が落ちる。


「僕が好きでやった事ですから……あのー良ければタオルとか貰えるとありがたいです。あと、アシュリーを休ませられるような場所も」

「もちろん構わないよ、家に来てくれ」

「良かったねアシュリー。久々の実家だよ」

「ん……」


僕達は村長の家に向かう。

その途中で見た村人達の表情は、解放されきった、安堵の顔だった。


「良かったなぁ……救えて」


僕は自分が自由になる事で、

恐怖と脅しで縛られていた他人も解放できた。

なんだか物語の英雄になったような気分だな。



「アシュリー。良いかな?」

「……ん。入って」


村長の家で身なりを綺麗にした僕は、

彼女が寝かせられている部屋の扉をノックした。

返事が聞こえたので入ると、寝巻き姿のアシュリーが景色を見ている。


「いい天気だよね。今日は」

「……ん」

「この後予定とかは有る?」

「……無いよ。死ぬつもりだったし」

「……そっか、そうだよね。

あのさ、約束の事覚えてる?」


そういうと、彼女はこちらに顔を向けてくれた。

ちゃんと覚えててくれたんだ、

僕が事情を全部話したら彼女も話してくれるって約束。


「……ん」

「良かった。じゃあどこから話したものか……」


それから僕は全部話した。

家で酷い扱いだった事、逃げ出した事、つい昨日まで追ってがあった事。


そして、流石にここがゲームの世界だったというのは伏せたけど、

きっかけは前世の記憶だった事も。全てを。


「……ふふっ。前世の記憶がきっかけなんて……冗談みたい」

「これでも結構本気で自分の運命を悲観したんだけどね……前世から不幸だったのかよ! って」

「……本当に色々と頑張ったんだね。それじゃ私の番か」


アシュリーもまた、全てを話してくれた。

ほとんど村長やソエラが語ってくれた内容と同じだったけど、


僕はあくび一つせずに、真剣に聞き続けた。

彼女が自分で、自分から話してくれたという事実が大事だから。


「……これでお互い隠し事は無くなった?」

「そうだね。これからどうする?」


「……足が治ったら、また冒険者でもやる。

ホルシド教のせいで諦めてたけど、Cランク昇格試験とかも受けてみたい」


「いいね! その時は僕にも見学させて欲しいな」

「君は?」


「僕も……しばらくは冒険者として頑張るかな。

まだまだ強くなったり、ダンジョン巡ったりしたいし」


「……私も一緒に行きたい」

「足が治ったらね」


……僕が今彼女にできる事はもうないかな。

できるとしたら大人しく回復を待つ事くらいだろう。


「それじゃ……またお見舞いに来るから」

「……ん。また来てね、リバティー」

「うん。……? あ!?」


そうだった……アシュリーの一言で最も大事なことを思い出した。


「……どうしたの?」

「えっと……実はリバティーって偽名でさ……本当はアローンって名前なんだ」


馴染み過ぎてて忘れてたな……


「……そう。私、友達の本名も知らなかったんだ」

「うん。ごめん……」

「……じゃあこれからアローンって呼んでいい?」

「うん。むしろそうして欲しいかな」


彼女は僕の手を取って、微笑む。


「……明日も明後日も……これからも。よろしく、アローン」

「……よろしく!」


その微笑みは今まで見た彼女の表情で一番輝いてて……

暗かった僕の人生を照らす光のようだった。



一章 縛られない・完


プロットが完成したら二章も始まると思います。

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