第6話 ほんの少し成長

その後何事もなく手伝いを終え、僕達は冒険者ギルドに帰ってきていた。


「29、30。はい、確認できました。こちらが報酬です」

「ん。ありがとうございます」


銀貨を数枚程受け取ったアシュリーは、

休憩スペースの机に突っ伏している僕の方へ来た。


「お疲れ様」

「うん、……疲れた」


アローンの肉体は歳の割に鍛えられている。

お陰で肉体的な辛さは軽い。だが、初めての冒険や実戦に精神が疲れていた。


「今日は家に帰ってゆっくり休んだ方がいい。私も最初はそんな感じだった」

「助言どうも……」


だが残念な事に帰れる家が僕には無いのだ。

どこか宿でも探そう。


「おや、リバティー様。無事に帰ってきましたね」

「どうも」


アシュリーと話していると、受付の女性が声を掛けてきた。


「どうです? 初の冒険は。大変だったでしょう?」

「ええ、まあ……。でも楽しかったですよ」

「ふふ、気丈なんですね。今日はもう休まれるんですか?」

「そうですね。今日はどこかの宿でゆっくりしようと思います」

「それでしたら、ここから少し歩いたところに

『レッドライト』という宿があります」

「なるほど、ありがとうございます」


お礼を言うと、受付さんは「お疲れ様でした」と言いながら去っていった。


「あそこは村への馬車がもう無い時とかに使ったことある。

部屋も広いし、オススメ」

「ずいぶん良い場所らしいね。アシュリーもそこに泊まるの?」

「いや、今日は村に帰るつもり。ある程度お金は稼げたから」

「そっか、じゃあ僕は宿に行くよ」


そう言って立ちあがる。


「そうだ、アシュリー!」


去り際、ギルドの出入口で言い忘れていた事を思い出した。


「忘れ物?」

「いいや。あのさ……君さえ良かったらまた一緒に依頼やろうよ。

仲間はいる方が良いでしょ?」

「……!」


アシュリーは少し驚いたような顔をした後、コクりと頷いた。


「ん。また会おう」

「……よかった。それじゃあね」


そう言うと僕はギルドを出た。

宿に向かいながら考える。

正直、最初は独りで好きにやろうと思ってたけど……

冒険するなら、仲間がいた方が楽しいかもしれない。

事実、今日アシュリーと歩いた道中は楽しかった。


「それじゃあ明日に備える為にも、早めに休むとしますか!」


早速レッドライトに向かって歩き出す。


「ここか……」


職員の女性に教えてもらった通り、少し歩いた先には赤い屋根の建物

「レッドライト」があった。

中に入ってみると、内装は質素だが綺麗に掃除が行き届いていて清潔感がある。


「いらっしゃいませ。お休みになられますか? 休憩されますか?

どちらも100Gになります」


カウンターの女性が話しかけてくる。

……しかし、エタブレで宿屋を利用した時のセリフと一語一句変わらないな。

全国の宿屋に同じマニュアルでも配布されてるのか?


「お休みでお願いします」

「はい、ごゆっくりどうぞ」


僕は一人分の料金を払い、102号室の鍵を受け取った。

宿の部屋は簡素な物だった。

タンスが一つに机と椅子がワンセット。

そしてベッドだ。


「ふぅ……ようやく一息つけた……」


思えば長い一日だった。

転生して、屋敷から飛び出して、隣領まで走って、病人治して金稼いで、

装備整えてアシュリーと冒険して……。

改めて振り返ると、なんだかドッと疲れてきたな……


「……そういえば、宿屋に泊まると全回復するのはRPGのお手本だよな。

ステータスオープン」


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名前:アローン・ハウンド

種族:人間

年齢:13歳

HP:10/20

MP:3/18

腕力:9→10

体力:8→9

魔力:3→4

敏捷:15

頑丈:13

スキル

格闘術Lv2

回復魔法Lv3

補助魔法Lv1

縮地法

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おや……HPとMPが減っているのは予想通りだ。

でも一部のステータスが成長しているのは予想外。


「Lvアップとかは無いけど、ちゃんと成長はするんだな」


数字で示してくれている分、より成長が実感できて嬉しい。

一度ステータス画面を閉じてもう一度開くと、

上がった数値が表示されていた。

矢印で成長を教えてくれるのは一度だけってことか。


「どうせやる事もないし、疲れたし。もうこのまま寝よ」


床に邪魔な荷物を適当に置き、ベッドに身をぶん投げる。


「おお、見た目よりフカフカでいい香り。ちゃんと毎日洗濯してる香りがする」


疲れた肉体をシーツと毛布が包み込む。


そのまま目を閉じれば、すぐに睡魔がやってくる。

ガサガサ……

睡魔が……

ガコンッ!

睡魔……

ベシィ!


「なんだよもう、うっさいなぁ! 人が寝ようとした時に

窓際で騒ぐんじゃないよ!」


思わず飛び起きると、両開きの窓が片方外されている。


「え……賊?」


仮にも貴族の息子だし誘拐か何かか?

そう思って窓から身を乗り出す。しかし、逃げた後なのかなんの気配もしない。


「なんか頭叩いたみたいな音聞こえたし……二人組か?

片方が窓外すのをミスって、もう片方がそれを咎めたら僕が起きたから逃げた。

そんな感じの事が起きたのかなぁ?」


推理を繰り広げてみたものの、それを確かめる体力は今の僕に無い。

仕方なく受付の人に事情を話し、窓だけ直してもらって眠りにつくのだった。

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