第7話 再び洞窟へ

チュンチュン……


「……ん。朝か」


ぐっすり眠ってしまい、気づいたら朝だ。


「よい、しょっと!」


筋肉痛で軋む身体を起こす。


「そうだ、体力は回復してるのかな?」


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HP:20/20

MP:18/18

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「よし、全回復!」


実際は昨日の疲れが響いてダルいんだけど……

まあステータス画面さんがそう言うなら全回復しているのだろう。


「チェックアウトまではまだだし、ゆっくり休んでから行こう」



「ありがとうございました。またご利用ください」

「さよなら〜」


そうこうしている内にチェックアウトの時間も来て、宿を出た。

今日も一日頑張るぞい!


「ぐぅ〜」


……まずは腹ごしらえにしよう。



「お待たせしました。ピーコックのモモ肉串焼きとワイルドボーアのステーキ。最後に森のミックスジュースです」


店員さんがお盆に乗った料理を運んできた。

陶器の皿に三本程の串焼きと、鉄板の上で焼けたステーキ。

最後に、木のコップに注がれた薄茶色のジュース。


「いただきまーす」


まずはモモ肉串焼きから。

ピーコックは、昨日アシュリーが聖水の効果を試していたアイツらしい。


「ハグッ……むぐむぐ」


口に入れると、やや食感はパサついているものの、

スパイスとあっさりした肉の旨みが舌に広がる。


それにパサつきが逆に後味のあっさりさを出していてどんどん口に入れられる。

気がつくと、鉄串のみが皿の上に残っていた。


「さてと、次はステーキだね」


ワイルドボーアは大きい毛むくじゃらのイノシシみたいなモンスターらしい。

早速ナイフを通し、一口サイズに切り分ける。食べてみると……


「これは……」


噛むと肉汁が溢れ出し、油の美味さが口に満ちる。

そして何より噛みきれないこの固さ。

何度でも噛め、噛む度に味が出てくる。


「滅茶苦茶美味い!」


ワイルドボーア……もし出会ったら倒しておこう。


「最後にシメのジュース」


森にある果実をミックスしたジュースらしい。

コップに唇を着け、飲む。


「……!」


最初に広がるのは、ナッツに近い風味。

だが、段々と果実の甘さが感じられてきて、

最後にはほのかな酸味のスッキリした後味が残る。


「世の中雑に足して良くなる事もあるんだな……」


味わいながらジュースを飲み干した。



「ごちそうさまでした」


美味かった。本当に。

冒険の目的がグルメに切り替わりそうなくらいには美味かった。


食事を終え、店の外に出てみると太陽が空高く登っている。

ちょうど正午くらいか。そろそろギルドに向かおうかな。



「おはようございまーす」


ギルドの扉を開け挨拶する。


「ん。おはよう、リバティー」

「また会ったね」


アシュリーはちょうど依頼を探していたのか、

依頼がはられているコルクボードの前に立っていた。

僕は彼女の隣に移動する。


「依頼探してたの?」

「そう。またお金が必要になって」

「そっか、じゃあ今日もキビキビ働かないといけませんねぇ」


僕達はボードに貼られている依頼書を眺める。


「何か良さそうな奴は有る?」

「ん……どれも同じような依頼。正直どれをやっても良い」

「そっかー」


確かに狼退治や薬草集め等の、

労力もそれなりだが報酬もそれなりのパッとしない依頼ばかりだ。


「ど、れ、に、し、よ、う、か、な、て、ん、の……」


特段選びたいものも無いので、僕は適当に決めようとした。


「何それ?」


依頼書に次から次へと指を突きつける様子が

気になったのか、アシュリーが声をかけてきた。


「適当に決めたい時はこうやって選ぶのが楽なんだよ」

「……ふーん」

「か、み、さ、ま、の、……」

「ん? リバティー。その服……」


ボードから僕に意識を移したアシュリーが、なにかに気づいたように言う。


「あ。そういや服は変えてなかった」


彼女に指を指されて、昨日のやり取りを思い出す。

服を買おうと思っていたのにすっかり忘れていた。


「ねぇ……依頼、私が決めていい?」

「え? 別にいいけど」


アシュリーの思わぬ提案に指を降ろす。


「じゃあ……これ」


彼女が示したのは、『毒虫の洞窟』に生息する「オオムカデ」から採れる素材である、虫の殻(大)の採集依頼だ。


「へぇ、オオムカデか」

「……ダメ?」


オオムカデは洞窟内の別れ道で、蜘蛛の巣が張っていない方の

道に進むと出くわす中ボスモンスターである。

周辺のモンスターと比べれば結構強いが、その分採れる素材等はおいしい。


「いや、大丈夫。丁度このナイフの試し斬りをしてみたかった所だし」


アシュリーも僕もランクの割には強い方だ。大丈夫だろう。


「それじゃあ、僕が依頼して来るよ。

アシュリーと一緒だって言えば通るだろうし」

「ん。お願い」


僕は依頼書をボードから剥がして、受付へ持っていく。


「すいませーん……あれ?」


受付には誰もいなかった。


「すいませーん! 依頼を受けたいんですけどー!」


何度か呼びかけると、奥の方から慌てた様子で受付嬢の人が出てきた。


「はいはいはい! あっ……リバティー様! 何の御用でしょうか?」

「落ち着いてください。依頼を受けたいだけです」

「はい、依頼ですね……依頼依頼……」


なんだか随分焦ってるようだな。


「……はっはーん。さては仕事サボってましたね?」

「えっ」


今現在、昼過ぎという時刻的に冒険者は、ギルド内にほとんどいない。

そんな状況で受付に立ち続ける事にアホらしくなって魔が差したのだろう。


「いや、大丈夫ですって。仕事なんて大概面倒な事だし。

偉い人に告げ口したりはしませんから」

「あ、アハハ……」


受付さんは目を泳がせてドギマギした様子だ。

これは……図星という奴でしょうねぇ。間違いない。


「まあとりあえずこの依頼よろしくお願いします。

今回もアシュリーと同行するんで」

「アッハイ……」



「あの人随分焦っててさ……僕はピンと来たよ。

これは悪い事がバレた人の反応だってね」

「意外。あの人いつも真面目に仕事してると思ってた」


ギルドを出て、毒虫の洞窟に向かう道中、僕達はそんな会話をしていた。

確かに落ち着いてて丁寧な感じの人だったよね。


さっきの受付さんの反応がやたら面白かったのはそのギャップから来る

笑いという奴なのかもしれない。


「……ん。来る」

「え?何が?」


唐突に呟くアシュリー。


「狼」


僕がその意味を理解しかけた時に、それは起こった。

視界の端で何かが動くのが見えたのだ。

そして次の瞬間には僕に向かって黒い影が飛び込んできた!


「うお!?」


反射的に身を躱すと、目の前で爪が通り過ぎていくのが見えた。


「あっぶな!何すんだっての!」


その狼は灰色の毛並みを持った痩せ型の獣だった。

だが、目だけは鋭く光っているのが見える。


「ストレイ・ウルフか……」


ウルフ系の魔物は群れでの連携力が強みだ。

だがしかし、どんな群れにも馴染めない者が存在するものだ。


このストレイ・ウルフの名前は、単純に能力の低さや臆病な性格などが理由で

群れから切り捨てられてしまった個体を指す。


「油断さえしなければ、僕達でも勝てるだろうね」

「その通り」


狼は少し離れた距離でこちらの様子を伺っている。

先程の様に突進するタイミングを図っているのだろう。


「……」


一歩、僕が距離を詰めると、狼も同じく一歩下がる。

どうやら自分が得意な距離でしか戦う気は無いらしい。


「アシュリー。トドメは任せたよ」

「ん?」

「縮地!」


一気に距離を詰めてナイフで斬りつける。


「!」


流石に反応できない速度だった為か、狼は背中に大きな切り傷を負う。


「ガウ……!」


狼はすぐさま反撃にうつる為に、足を動かそうとする。

だが。


「ウ……!?」


足はほんの少ししか動かない。

毒牙のナイフによる麻痺が狼の身体を蝕んでいた。


「アシュリー!」

「ん!」


アシュリーが剣を脳天に突き刺すと、狼は動かぬ骸と化した。


「想像より楽勝だったね」

「……リバティーのお陰」

「ふへへ。それほどでも有りますよ」

「……」


僕の声を無視して、アシュリーは狼の解体を始めた。

手際よくナイフを動かし、毛皮を剥ぎ、肉を斬り分ける。


「手慣れてるね」

「……ん。自分がやるしか無かったから」


いつもアシュリーと一緒という事も無いだろうし、

僕もこういう技術を学ぶべきかもな。

そんな事を考えてる内に解体は終わり、

骨、内臓、肉、毛皮が袋の中に詰められた。


「よし、じゃあ行こうか」

「ん。『湧水』」


アシュリーは水魔法で血を洗い流し、立ち上がる。

それからは何事も無く森を歩く事数分。

再び『毒虫の洞窟』へとたどり着いたのだった。

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