第5話 毒虫の洞窟①

「よし、ようやく着いたね。毒虫の洞窟」

「ここからが本番だから気を抜かないで。……あと、聖水はしまっとこ」

「後11本あるのに……どうやって処分しよ。捨てるのは勿体無いし」

「いっその事飲んだら?」

「確かに水だしね。飲んでみよ」

ゴクッ……ゴクン。


ふむ、想像より美味しい。

でもどこかで飲んだ事のあるような……あ。


神社にある手洗う場所の水がこんな味だった気がする。

神様由来の物には特有の味がするのかな?


「アシュリーも飲む?」

「いや、私はいいや……」(冗談のつもりだったのに……ほんとに飲んだ)

「それは残念。じゃあ水分補給も出来たし、早速洞窟に入りますか」

「ん。そうだね、早く依頼を終わらせて帰ろう」


洞窟に入ると中は薄暗くてジメジメして、とても不快感がある。

そしてここは毒虫の洞窟だ。

……そこら中からカサカサした音が聞こえる。


「うへー気持ち悪い」


全身に鳥肌が……


「『着火』」


アシュリーが指に魔法の火をともし、辺りを照らされる。

そして取り出した松明に火をつけて、掲げた。


「おお、見やすい」


真っ暗な洞窟では、小さな炎の明かりも頼り甲斐がある。


「私が先導するから、着いてきて」

「分かった」


まあ、僕も道は知ってるけど……ここは先輩に頼るとしましょう。


「虫は多いけど……襲ってこないね?」

「ダンジョンは深い所ほど危険。ここはまだ人を襲えるような魔物はいない」

「なるほどね」


そこら辺はゲームと同じなんだな。

つまり浅い場所でいきなり強敵が出てくるとかは無い。


「お、別れ道」

「……どっちに進みたい?」


一方は蜘蛛の巣が張り巡らされている道。

もう一方は何も無いように見えるが、耳をすませると巨大な何かの這う音が聞こえる。


「蜘蛛の巣の道かな」

「了解」


僕の目的のお宝は蜘蛛の巣の道にあるはずなので、そちらに進む。


「燃え尽きろ……」


アシュリーが松明を蜘蛛の巣に押し当て、着火した。


「おー、これで進みやすく……」

ボトボトボトボト! うぞうぞカサカサ……

「うげぇ……!」


突然の落下音、何事かと地面に目を落とす。

そこにはバスケットボールより一回り大きいサイズで、

赤目の蜘蛛が数匹蠢いていた。

キショい!


「こうなるって分かっててやったの?」

「燃やさないで進むと、蜘蛛の巣に引っかかって

身動きの取れないまま毒牙にかかる」

「今の状況の方がマシって事ね……一声言ってくれればいいのに」


それぞれ戦闘の構えを取る。


「こっちに来るなよ……!」


一番近かった蜘蛛を蹴り飛ばす。


「キシャ!」


蜘蛛は鳴き声をあげて吹っ飛ぶ。


「ビュルル!」

「うわっ!?」


蜘蛛の一匹が尻から糸を吐き出してきた。

咄嗟に棍棒でガードすると、蜘蛛と僕の棍棒が糸で繋がる。


「キシャア……」

「……縮地!」


縮地で勢い良く後ろに移動する。


「キシャ!?」


移動の勢いに引っ張られ蜘蛛の体は宙を舞う。


「ほらよ!」


棍棒を壁に向かって振る。


ブチュ!


蜘蛛は自らの糸に引っ張られ、壁に叩きつけられて潰れた。


「この調子で……」


その後も似たような対処をし続け、五分程経つと全ての蜘蛛が息絶えていた。


「ふぅ……数は多かったけどこれくらいなら大丈夫そう」

「お疲れ様」

「うん。そっちこそお疲れ様」

「じゃあ、先に進もうか」

「待って」


アシュリーが懐からナイフを取り出し、蜘蛛の死骸に近づく。


「……何を?」

「私がここに来た理由は『毒蜘蛛の牙』の採集依頼」


そう言いながら手際よく蜘蛛の口から牙を抜き取っていく。

牙を抜き終わると、布袋に詰める。

僕はその採集が終わるのをじっと待った。


「これ、リバティーの分」


終わると彼女は布袋を一つ、僕に手渡そうとしてきた。


「え? 僕の?」

「うん、半分はリバティーも倒してたでしょ。

依頼じゃなくても売ればそれなりにお金になる」


ずいぶん律儀な子だな。


「僕はいいよ、全部持ってっちゃって」

「……いいの?」

「僕は目的が別にあるし、所持金もそれなり余裕がある。

そうだね……僕が倒した分の素材は案内料代わりって事で」

「……ありがとう」


アシュリーは少し考えて、素直に布袋を下げた。


「よし、じゃあ行こうか」

「ん」


アシュリーは松明をかざして先に進み、僕は後を追う。


「……あっ、ちょっと待って」

「ん?」


アシュリーを呼び止める。


「こっちの脇道に目的の物があるはずなんだよね」


僕が指したのは、人一人がようやくギリギリ通れるかどうかという細道だった。


「なるほど、最初から宝箱目的だったの」

「その通り。手っ取り早く良い物を手に入れたくてね」


アシュリーの言葉で、

宝箱という要素がこの世界に存在していることがハッキリした。

となると、後はこの道を進むだけなのだが……


「……結構勇気が必要そうだな」


細い道を埋め尽くすように、ビー玉サイズの子グモがうぞうぞしている。

いやまあ、踏み潰しながら行けばいいだろうけど……ちょっと生理的にね。


「……こう言う時も使えるんじゃないか?」


僕は聖水を取り出し、細道に向かって撒いてみた。

ゾワゾワ!


「おお、いいじゃん」


正しく蜘蛛の子を散らすように、聖水から離れていき、

足一つなら入れられそうなくらいには地面が見えた。


「ふははは、道を開けろ子グモ共!」


聖水を垂らしながら突き進む。

やがて少しだけ開けた場所に出た。

そして、中央に位置するは赤く、金の装飾がされた宝箱。


「ごまだれ〜!」


ゼ○ダの伝説風セルフSEを口走りながら、宝箱を開封する。


中身は想像どうり、一本のナイフだった。

そのナイフは刃の根元に蜘蛛の絵が彫り込まれていて、

柄には黄色い小さな宝石が嵌められている。

良いデザインだ。


「毒牙のナイフゲット!」


このナイフはエタブレにおいて、中盤までは使われる強装備の一つだ。

相手の行動を封じる最強の状態異常「麻痺」を通常攻撃時に確率で付与する特殊効果があり、回復役がする事が無い時にこれで攻撃させて麻痺を狙うもよし、全員に装備させて麻痺らせてからじっくりと行動するもよしという活躍ぶりだ。


残念ながら中盤以降は麻痺耐性のあるボスばかりになるので、

お役御免になるのだが。

それでも、しばらくは役に立ってくれるだろう。


「こうも順調にいくとはね〜♪」


聖水をばら撒きながら、アシュリーの元に帰る。


「アシュリー! お待たせ」


ナイフを掲げ、目的達成を伝える。


「……よかった。中身あったんだね?」

「無いこともあるの?」

「宝箱は一度空けられるとしばらく空のまま。

このダンジョンだと一週間くらいで中身が復活する」


ふむ。エタブレだと宝箱は一度開ければそれっきりだったんだけどな。


「他のダンジョンは違ったりするの?」

「例えば『捨てられた神殿』にある『ラストエリクサー』の宝箱は、復活に最短五年はかかる」


なるほど。レア度に比例して復活が遅くなっているのか、なんだかんだで世界のバランスが崩壊しないようになってるんだな。

……そういうリアルな要素が無ければ宝箱開けまくって億万長者! とかやれたかもしれないのにな。


「そうなんだね」

「ん。だから、リバティーがそれを手に入れられたのは運が良かった」

「毒牙のナイフも手に入れられたし、僕も少しは強くなったかな?」

「きっと強くなったと思う。だから……良ければもう少し手伝って。

『毒蜘蛛の牙』が少し足りないから、この先で狩りをしたい」

「喜んで」


機会が有ればダンジョンの最奥に挑んでみたいけど。

今の僕達でボスには勝てるか分からない。

今日はアシュリーの手伝いを終えて引き上げるとしよう。



※神社の手水舎(手を洗う所)の水を飲み込んではいけません。


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