第4話 森中行進

「ふんふん〜♪ルララ〜♪」

「……」


街を出た僕達は森に踏み入ってダンジョンに向かっていた。

この爽やかな空気よ……まだ平和な時代だからかもしれないが

一層美味しく感じて、つい鼻歌も出てくる。


「楽しそう」

「ん?そうだね。初仕事だし、こんな自然豊かな場所初めてだし、ついね」

「それは……よかった」


アシュリーの口調は変わらない。けど、少し暗くなったような?

それにしても、本当に綺麗だ。木漏れ日が差し込み、

小鳥たちが囀る森をさらに彩っているようにも思えた。


「……そういえば」

「ん?どうしたの?」

「リバティーは……誰なの?」

「ん? 哲学的な話?」

「違う……身分の話……」


……おや、不思議系かと思いきや勘が鋭いようで。

僕が元々貴族だって事を見抜いたのか?


「……元、貴族だよ。今は違う。ただのリバティーさ」


無理に隠すのも辛そうだ、僕は名前以外を正直に話した。


「没落貴族?」

「それも違う。一人飛び出して自由を得た。

僕の父や姉は今でも貴族のはずだよ」

「そっか……」

「それにしても勘が鋭いね?

冒険者じゃなくて探偵とかもやれるんじゃないの?」

「いや……服装とか見る人が見れば丸わかり」

「え"」


そう言われてアシュリーと自分の服装を見比べる。


彼女は全身に使い古したレザーアーマーを着ているのに対し、僕は所々破れたり

汚れていながらも明らかに上質な布の服である、デザインも派手。

……こりゃ確かにバレるわ。


「ふー……お金に余裕ができたらまず普通の服を買おうかな」

「……ふふ」


おっ、今まで仏頂面だったアシュリーが笑みを浮かべた。

……うん。貴重な笑顔を引き出せたんだからこんな

バカを晒したかいはあったんじゃないかな。そういうことにしておく。


「僕の事は話したんだし、アシュリーの事も聞かせて欲しいな」

「……私?」

「うん。僕とほとんど同じ歳なのに

Dランクの冒険者になってるんだし、色々有るでしょ?」

「……村の人の為に、出稼ぎ」

「うん」

「……」

「……」


自分の事を話すのは苦手なタイプかな?


「あ、もちろん言いたくないなら良いんだ。無理に聞きたいわけじゃないから」

「大丈夫」


そういうとアシュリーはポツリとつぶやくように声を出す。


「今、村は金欠。でもお金が必要だから私も頑張らなくちゃ」

「アシュリーはいい子なんだね。

僕は故郷の為に一人で頑張ったりはできないかな〜」

「そう、私はいい子。それに……」


ビシュン!

アシュリーが突然草むらに向かって水魔法「水刃」を放つ。


「うえっ!?」

「グギャ……ア……」


草むらの葉と共に潜んでいたゴブリンの首が落ちた。

目に優しい自然の緑が一瞬にして刺激的な赤に染まる。


「冒険者としても……結構優秀」

「そうみたいだね」

「狩りに出てきたゴブリンみたい。

数は四。10時の方向に二匹、五時の方向に二匹」

「おっ、そういうカッコイイの僕も言ってみたい」

「真面目に構えて」


アシュリーがジト目で見つめてくる。


「分かってるって」


僕は武器屋で安く買った、細めの棍棒を取り出して構える。

アシュリーは右手に短めの剣を持ち、構えた。


「グギャギャ!」

「縮地!」


僕は縮地で一気に距離を詰め、剣を持ったゴブリンの顔面に棍棒を叩き込む。


「ギャッ!」


ゴブリンは倒れ、地面に後頭部を打ち付けた。

動く様子はない、倒せた?


「フッ」

「グギャ!」


飛びかかった棍棒のゴブリンをアシュリーは見事に捉え、切り捨てた。


「グッ……」

「水刃」

「ギャフウ!」


そして、仲間がやられた様子に一瞬躊躇したゴブリンに水刃を放ち仕留めた。


「グギャギャギャ!」

「!」


二体相手取った隙を突こうとしたのか、

最後の剣ゴブリンがアシュリーに飛びかかる!


「アシュリー!」

「グギャ!?」


僕は縮地で先回りし、宙に浮いたゴブリンの頭を鷲掴みにする。


「じゃあな!」

べキィ!

「ガ、ア……」


縮地の勢いのままゴブリンの頭部を近くの木に叩きつける。

ゴブリンはか細い断末魔を挙げ息絶えた。


「……ありがとう」

「どう? 荷物持ち以外もやれそうでしょ?」

「うん」


アシュリーはニコリと笑った。


「それにしても……まだまだ道中なのにこんな風に襲われるのはダルいよね」

「……今のところ毒虫の洞窟まで三分の一くらい」

「そこで……テッテレー! 聖水〜!」


某タヌ……いや猫型ロボット風の演出と共に聖水を取り出す。


「聖水……」

「そう、振りかけると弱い魔物を遠ざける事ができる優れもの!」

「そうだね」

「というわけで、はい」

「ん」


二人揃って頭から被ってみる。


「どう?効果ありそう?」

「ん〜……」


アシュリーは辺りを見回す。

そして鳥型の魔物に近づいていった。


「クッ!クケッ!?」


鳥型の魔物はやたら甲高く鳴いて逃げていく。

効果はバッチリそうだな!


「リバティー」

「うん、ちゃんと効果あったね」

「……そうじゃなくて」

「?」

「寒い」


……確かに。

ゲームでは「聖水を振りかけた!」の一文で済ませてたけど、

実際に浴びるとなるともうビッチャビチャである。


「……きっと夏は有難いんじゃないかな」

「今は冬」

「そうですね……へックシュ!!!」


もしかして聖水の在庫が多かったのってこう言う問題があるから?

森中に響くクシャミをしながらそう思った。

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