第6話

「ピピピッ!ピピピッ!」

純のスマホのアラームが鳴っている。純はその音と共に目を覚ました。

(んと今日の予定はっと)

純はそう言いながらタブレットを開いて、スケジュールを確認した。今日のスケジュールは昨日とはまた違っていた。十二時からの会議の前に新たな項目が追加されていたのだ。

(んと・・・十時に二階・・・二階?どういうこと?)

少し頭を傾げながら、純はいつものルーティンを終わらせて部屋を出ると二階に降りて行った。

二階に降りた純を待っていたのは緑だった。緑は純を見かけると、

「おはよう。一之瀬さん。さて今日は私が色々教えます」

そう言いながら純に挨拶をした。緑はいつもと少し違ってた。眼鏡を外した夜のスタイルになっていたのだ。その姿に驚いた純が切り出す。

「あのー・・・根本さん・・・今日は何でその感じなんですか?」そう言うと緑は、

「ん?何か最近の職場の雰囲気見てると・・・もうこの感じで毎日過ごしてもいいかなーって思ってさ。実はこっちが私の本性で。あの姿は仮の姿だったからさ。私も過去色々あってね・・・でももうそこまで気張るのはやめることにしたんだ」

そう呆気らかんとした顔で純に答えた。その答えに対して純は、

「はい。こっちの方がなんて言うか素敵ですし可愛いです」、と言った。緑は少し笑って、

「フフフ・・・これでも昔はモテたのよ・・・」と答えた。そして、

「さて、では今日は中学生以上の活動を教えていこうと思っているんだけど、実は中学生以上になるともうクラスは存在しないのよ。それで皆んな個別に将来の目標立てたり、子供達の面倒を見たりしているんだけど、一番のメインとしてオペレータールームでの活動があるの。だからまずはそこに行きましょう」

そう言って緑は純をオペレータールームに連れて行った。

(そういえばオペレータールームの中に正式に入るのは初めてかも・・・)

純は、今まで謎に包まれていたオペレータールームへの正式な案内に対して、妙な高揚感を抑え切れないでいた。


その部屋は、辺り一面監視モニターで囲まれていた。そして、学生何人かでそれぞれの映像を見たり、インカムで何か指示を出したりしていた。学生の手元にはタブレットを設置する場所と、その周りに色々なボタンがある。そしてよくはわからないが、おそらくタブレットの画面をモニターに映し出して、それを何人かで見ながら連絡を取り合っている。そんな感じなんだろう。そして、いつもの様にマリアがそれを見ながら、色々な指示を出している。

そんな様子を見ながら緑が、

「ここで色々な指示を出したりしているんだけど・・・」

と言いながら純に説明し出すと、そこにマリアが割って入って来た。

「あら根本さん。珍しいデスね。普段はここまで来ないのに」

マリアがそう言うと緑は、

「あらマリアさん。いつもお疲れ様。今日は一之瀬さんにここを見せる為に来ただけですよ」

そう笑顔で返した。けどその目の奥は笑ってはいない。

「あら?そうでしたか。でもそれなら私の方でやっても良かったんデスけど」

とマリアも笑顔で返した。けどその目の奥は笑ってはいない。

「いえいえマリアさん毎日お忙しいですし、それくらいは私の方でやりますよ」

「お気遣いアリガトウデス。でも大丈夫デスヨ」

お互い一歩も譲らない笑顔の挨拶の応酬だが、純はすぐに気付いた。

(この二人・・・絶対仲悪い・・・)

そう察知した純は、ずっと苦笑いを浮かべていた。そして同じ様に戸惑っている学生に気付き、

「えっとー・・・マリアさん。とりあえずここにいる皆さんを紹介してもらってもいいですか?皆さん戸惑っていることですし・・・」と純が切り出した。その言葉を聞いてマリアが、

「あっゴメンナサイ。ソウデスネ。それでは」

そう言って、そこにいた学生の紹介を開始し始めた。そこには四人の学生がいた。

「まずは高校二年生のレイさんデス。ここでは一番長くいる学生さんにナリマス」

そう言って、真ん前で座っていたレイを紹介した。レイは椅子から立ちあがって振り向き、

「レイです。よろしくお願いします」と簡単な挨拶をした。レイの紹介の後で今度は、

「それでそこに座っているのが、中学二年生のカナデさんとホナミさんデス。この二人には少し純さん会ったことあると思いマスヨ。今はここのメインアシスタントデス」

そう言って二人共振り返り、「カナデです」「ホナミです」と軽く挨拶をした。

純は確かにその二人の顔を覚えていた。マリアと話していた時にカットインしてきた二人だったからだ。そして更にマリアは、

「それでそこにいるのが、最近オペレータールームデビューしたばっかのジュンペイさんデス」

そう言って、そのカナデとホナミの後ろで色々聞いている男性を紹介した。

その男性は純に向かって軽く会釈をして。、再び前を向いた。

「今のところはこんな感じデスね。何か質問ありますか?」

とマリアが純に聞いてきた。純はその質問に対して、

「あの〜・・・ちょっと疑問なんですが・・・皆さんシフト制?なんですか?そうしないと回らないというかなんというか・・・」と聞いたその質問に対して緑が割って入って、

「シフト制・・・なのかしら・・・ちょっと違うかもしれないわね・・・」

そう答えた。その緑の言葉にマリアは少しムッとしながら、純に向かって、

「純さん。何か勘違いしてませんか?彼等は強制とか仕事とかでここに来てるのではありまセンヨ。これも一種の教育なんデス」

そう説明した。純は更に意味がわからなくなっていた。

「教育・・・なん・・・ですか・・・?」

マリアの言った意味がわからなかった純はそうマリアに返した。その答えに対してマリアは、

「はい。教育デス。それもかなり高度なね。これは一回やってみたらわかるかもしれません。ワタシが直々にアシスタントしますので、ちょっとやってみましょうか」

と言って、マリアは純の手を取りレイに指示を出した。レイは椅子から立って、その様子を見ている。その様子を緑も仕方なく眺めている。

「いいデスか?純さん?指示を出すということはその情報を全て知っているか、もしくはすぐに調べれないといけません。同時に誰に指示を出すかも決めないといけません。そしてそれらの操作は全てタブレットで行います。つまりタブレットも使いこなせないといけません。それではちょっと実践的にやってみまショウ」

そう言って、ある監視カメラのモニターの画面を開いた。そこはベビールームだった。

「さて、今この部屋の備蓄が足りているかどうか判断してクダサイ」

そうマリアが言ってきた。でもその画面には赤ちゃんの映像以外映っていない。純が困っているとマリアが、

「まずこの画面では何もワカリマセン。なのでこの画面をまずは変えないといけないデス。つまりこの視点を変える操作方法を知っておく必要がアリマス」

そう言って、タブレットを操作しカメラの視点を切り替え始めた。そうして備蓄があるところにフォーカスした。すると今度は、

「ここに備蓄量というものが書かれていマス。これはつまり何をどれだけ最低必要かということを示してイマス。これよりも少ないと備蓄が足りていないということにナリマス」

そう言って純に説明した。そして、

「つまりこの表と今の実際の備蓄量を確認すると、現状オムツが足りていないということがわかるというわけデス」。そう言って状況を説明した。そして、

「つまりこれを発注しないといけないとなるのデスが、ここで注意することとして、この発注が今行われているかどうかという事の確認が必要になります。今回の場合、発注画面に切り替えて状況を確認すると、この備蓄は既に発注済ということになり、特にまだ追加発注は必要はないということになりマス」と説明した。そして、

「この様に色々なものを組み立てたり、色々調べたりして、タブレットに慣れることが出来マス。そして、カメラの操作方法も必然的に身に付きマス。そして何より、何かをする為に何かを行う、その工程を実際に立案する力を養うことが、容易になりマス。実はこの力というのが、社会に出てとても重要になりマス。何かをしようとした時に、それをどう行えばいいかわからないと、それを実現することはデキマセン。でもここでその力を身に付けておけば、後は使うものが違うだけなので何でも出来るとそういうことなのデス」

と言って純に説明した。純はその深い教育内容に感心した。緑はうんうんと頷いてはいるが、少し機嫌は悪いままだった。

「もちろん、ここでの実際の経験だけで就職したりとかした人も実際にいマス。これから先の社会におけるオペレーター業務は引く手数多の産業となるので、ここで見に付けた力は実際に役に立つんデス」

そう言って自信満々にマリアは話を締めた。純は普通に拍手をしていた。そしてレイに席を変わった。その後でマリアが、

「もちろん教育も兼ねてますが、ここは実際に必要な機構でもありマス。なので人がいない時はオートメーションにしたりもしてマス。特に夜中は基本オートメーションデス。私も夜はオヤスミしてマス」

と言った。つまりここは元々オートメーションで出来る機能はあるが、教育として普段は学生に開放して、それぞれの力にしてもらっているんだと純は理解した。つまり純は最初ここで行っていることを仕事として考えていたが、ここは仕事場ではなく、教育の場所なんだということを、純は理解した。そしてそれを理解した後で、純は自分の質問が的外れだったことに気付き、途端に恥ずかしくなった。

「何か・・・ゴメンナサイ・・・全然わかってませんでした・・・」

純はそうマリアに言うと、

「フフフ・・・純さんは本当にカワイイデス」

そうからかって来た。その様子を見るに見兼ねた緑が、

「さて一之瀬さん。もうここの仕組みもわかったことだし。ここから出ましょうか」

と言って純の手を握った。するとマリアが、

「純さんはもう少しゆっくりしたいと思いマス」

と言って純の逆側の手を握った。緑もマリアも譲る雰囲気はお互いに感じれない。

(えーーーーーっ⁉️ 完全な板挟みじゃん・・・)

純は心の中でそう叫んだ。そして少し考えて、

「えっと〜・・・マリアさん説明ありがとうございます。ほら、学生さんに指示とか出さないと行けないですよね?なので私達はそろそろお暇させて頂きます。また今度来ます」

とマリアに言った。マリアは少し悲しい顔をした後で、手を離した。

純はマリアに軽く会釈をした後、緑と共にオペレータールームから急いで出た。


(ふ〜・・・やっと・・・解放された!)

純は心の中で安堵の叫びを出した。

ようやく純は、妙な緊張感の中から脱出することが出来たのだ。そんな純を見て緑が、

「・・・なんか・・・ごめんなさいね・・・昔ちょっとあって・・・マリアさんとはちょっとね・・・」

と今更な謝罪をしてきたが、純はもうこれ以上何も言う気になれなかったので、苦笑いだけを返した。すると緑が、

「うーん・・・でもどうしましょう・・・時間少し余ってしまいましたね・・・私は定期の仕事があるので別に構わないのですが・・・」

そう純に言って来た。純は今まで少し気にしてたけど、一度も言えなかったことを緑に聞いた。

「あの〜・・・緑さん・・・私ちょっと会いたい女の子いるんですけど・・・その子高校生なんですよね確か・・・部屋に会いに行っても大丈夫なもんなんですか?」

この純の突然の問い掛けに、緑は少し悩んだ。そして、

「・・・原則として・・・子供の部屋に職員が尋ねるということは、余程の事情を除き、しないことにはなってるんだけど・・・でもまールールとしては決まってはないから・・・別にいいんじゃない?でも部屋わかるの?」と言って純に逆に質問して来た。

「えっとー・・・はい・・・そういえば部屋分かりませんでした・・・」

そう純は残念そうな声で答えた。その答えに緑は、

「ウフフ。そっかー。なら無理かなー・・・なんてね。タブレットあるでしょ?顔さえ知ってればそれで探せば部屋番号ぐらいすぐにわかるわよ」

そう少し笑いながら言って、純に部屋の探し方を教えた。

「あっ・・・ありがとうございます」

純はそう言って、緑に深々とお辞儀をしてその場を後にした。


「えっとー・・・三○七号室と・・・あった・・・ここね・・・」

純はその部屋の前に着いた。ただ純はここで一つ思い出した。この施設のドアは、そこの部屋の住人以外誰も開けれないということを。純はしまったーという顔を浮かべて、その部屋の前で立ち往生していた。するとそんな純に、

「あら?確か・・・一之瀬さん?でしたっけ?」

そう声を掛けて来た人物がいた。その人物のことを、純は覚えていた。

その人物は以前息子の面倒に追われていて、娘のことを見ていなかったその母親だった。

「伊藤さん。お久しぶりです」

純はその声に振り返り、その母親にそう挨拶した。するとその母親は、

「今日はどうしたんですか?」と聞いてきた。純はその問いに対して、

「いえ・・・優香ちゃんと大輔君がその後どうなったか気になって・・・」

そう返した。するとその母親は、

「あー心配して来て下さったんですね。ありがとうございます。今、部屋開けますね」

そう言って、ドアに手をかざしてドアを開けた。

部屋の中は、少し飾られており生活している感じはするが、壁にはポスターも貼られていて女性の部屋という感じだった。

「優香。大輔。一之瀬さんが来たわよ」

そう母親が言うと、机に座って勉強していた女の子が振り返って、

「あっ一之瀬さん。おはようございます」

そう挨拶した。その女の子は、以前の様な引きこもりの感じではなく、とても可愛い服を身に纏い、その表情もとても明るくなっていた。あの時見た女の子とは違うその姿に、純は安堵の表情を浮かべ、

「優香ちゃん。元気そうで良かった。ずっと心配してたんだよー・・・」

と言ってその女の子に抱きついた。その女の子は、

「その節はありがとうございました。あれからここに来て、環境も大きく変わったことが良かったのか、すっかり元気になりました」。そう明るい表情で話した。そして、

「私、中学校も途中から行けてなくて、それで高校の勉強なんて出来るわけもなくて、だから今は部屋にこもって、中学生の勉強からやり直しているところです。そんで将来的には大検受験して、大学に行こうと思っています」

そう話した。その決意表明にも似た告白を聞いて、純は素直に喜んだ。その決意表明を表すかの様に、机の上には色んな教科の参考書や問題集が散らばっていた。

「あっこれは・・・やっぱり中々タブレットでの勉強には慣れなくて・・・それで参考書や問題集買って、ここの机で勉強してます。タブレットは遊びに使ったりの方が多いかもです」

そう言って照れながら純に話して来た。純はもうすっかりこの生活に馴染んだその姿に、また安堵の表情を浮かべた。するとそんな純の足元から声が聞こえた。

「おねえちゃん?だれ?」そこには小さい男の子がいた。大輔だ。純は大輔を抱き抱えると、

「あっごめんね大輔君。ちょっとお姉ちゃんに会いたくてね。私ここの職員なんだ。宜しくね」。そうその小さい男の子に言った。すると母親が、

「大輔もここに来て少し成長が早くなったみたいで。やはり閉じ込め過ぎるのも良くなかったのかなって今頃思ってます。」

そう話して来た。そうして純は優香や大輔やその母親と数時間談笑した。時刻は十二時になろうとしていた。

「ヤバい!もうこんな時間じゃん!またアイツに嫌味言われる〜・・・」

純はそこにいた皆んなに軽く挨拶をした後、その部屋を飛び出して駆け足で二階に降りて行った。


二階ではいつもの様に蔵馬が立って待っていた。

「だからお前は遅いんだって!何してんだよ!」

蔵馬はいつもの様に、純に怒りの言葉を投げ付けた。

「うっさいわねー!だから間に合ってんでしょうが!」

純もいつもの様に言い返した。周りももうこのやりとりに慣れたのか何も言わなくなった。

「ふん。じゃー会議始めるぞ」

蔵馬がいつもの様にそう言うと、全員蔵馬に付いてミーティングルームの中に入って行った。

「今回のターゲットはこいつらだ。葛西亮一と心美夫妻だ。そして一人息子の小学校六年生の孝宏。実は孝宏はこの夫妻の子供ではない。里親制度で見つけて来ただけの子供だ。最初亮一は、孝宏に優しく接していたんだが、ある程度の時期が経過した後で、この父親は豹変した。元々この父親は、自分の跡取りを見つける為に里親制度を使って、孝宏を自分の養子にしただけだった。だからそこに当然愛情はない。常に罵声を浴びせさせられ、学校から帰ると外にも出してもらえずに、帝王学の勉強をひたすらさせられる。そして母親の方は母親で、一日遊び呆けている。元々セブンネットワークというネットゲーム会社の社長である亮一と、その当時キャバ嬢として人気ナンバーワンだった心美が出会って結婚した夫婦であり、もう夫婦生活は破綻している。加えて亮一も遊び人だから、まーよくいるクズ夫婦だな」

そう言って蔵馬が今回のターゲットの説明を行った。そして、

「まー幸いにも、この夫が金持ちだったこともあり、ここの家で雇われているメイドによって、食事は与えられているから生活自体は問題はないんだが、夫婦共に子供に愛情も無いのに、子供を自らの欲望の為だけに利用している。そういうクズ達だ。これは早急に救い出す必要があるが、家はまた金持ち仕様でセキュリティーが万全と来てる。つまり家から攻めることは出来ないわけなんだが・・・」

そこまで蔵馬が話した後で、普段温厚な緑が、

「許せない・・・自分勝手な理由で子供を引き取ったのに・・・その子供に罵声を浴びせるなんて・・・」そう静かに、でも確実に怒りながら言葉を発した。そして、

「セブンネットワーク・・・聞いたことあります・・・結構悪どい課金システムとかやっている会社です確か。そしてこの亮一って男はワンマン社長で、気に入らない部下にも罵声を浴びせているって聞いたことあります」。そこまで話した後で、

「蔵馬さん・・・この会社・・・潰しませんか?・・・蔵馬さんの力なら容易いはずです」

そう提案して来た。その普段とは違う話し方や、言葉遣いに蔵馬以外は全員戸惑っていた。そして蔵馬が口を開く、

「緑。お前の気持ちもわからなくもはないが・・・これは仕事だ・・・私情を持ち込むな!」

そう緑に一喝した。緑は申し訳なさそうな表情を浮かべている。そして蔵馬が全員の方に向かって話し出した。

「ただ作戦としては悪くは無いかもしれない。確かにこんな奴に金を持たせること。それ自体がこういう悲劇を生む原因なのかもしれない」

そう全員に向かって話した後で、緑に向かって、

「緑。潰すとは言ったがどうする?一日で会社を潰すのは現実的には無理だぞ。敵対的TOB仕掛けるとしても準備期間も足らない。さてどうする?」そう問いかけた。その問いに緑は、

「確かに・・・普通なら無理です・・・でもこの男はどこでも自己中にやっているので、おそらくそこからなら何か作戦の糸口があると思います」と答えた。蔵馬は少し考えた後で、

「糸口か・・・もしこいつが過去に何か起こしていたんだとしたら・・・もしくは誰かに恨まれていたのだとしたら・・・そこから切り崩せるか・・・よしっ!影山軍団に少し探ってもらうか。そしてその間に俺は俺のやれることをやっておくとしよう・・・」

そう言った後で全員に対して、

「今回は少しバクチになるかもしれない・・・場合によっては翌日に持ち越すかもしれない・・・でも・・・それでもこいつは潰す・・・こいつは潰さないといけない男だ」

そう言った後で、

「とりあえず指示があるまで皆待機していてくれ。今回は久しぶりに俺も日中から色々動くとする。それでは解散!」。そう言って会議を終わらせた。

蔵馬はそれ以上は何も言わずに、その部屋を出た。今回は純だけではなく唯も舞も蚊帳の外のような感じとなった。

そして三人は顔を見合わせて、頭に疑問符を浮かべた後で、とりあえずその部屋を出た。


辺りはすっかり暗くなっていた。

だがそのオフィスではまだ作業をしている男がいた。

いや。その男がしているのは作業ではない。対応と言った方が正しいのかもしれない。

そしてその男は仕切りに呟く。

(一体・・・何がどうなっているんだ・・・?)

そうして男は鳴り止まない電話の対応に追われていた。

その男はセブンネットワークの社長だった。

そして数分前にその会社は崩壊した。従業員全員が辞表を出したのだ。そしてそれと同時刻に、自社の株が大暴落を起こした。

そして今、男の会社は倒産間近となった。株の大暴落により借金が返せなくなった為、破産するしかなくなったからだ。

男は焦っていた。たった一日で、全てが男の手元から消えてしまったことに戸惑いながらも、必死に一人で対応していた。そこに一人の男が現れた。

「まったく・・・ここまで上手くいくとは正直思わなかったよ。いやー凄いなアンタ。嫌われ者にも程があるぞ」

その男はその社長に言い放った。その言葉に怒りを露わにした社長が、

「誰だお前!俺を誰だと思ってる!時代を作ったセブンネットワークの社長だぞ!」

そう声を荒げて反応した。その反応に対してその男は、

「元・・・だろ?」と言い放ち、

「お前の会社はもう破産する。いや正確には倒産か。それもこれもお前が招いた種だがな」

と言い放った。その言葉に対して社長は、

「俺が招いた種?どういうことだ?」

そう言った。社長はその男の言葉に何もピンと来ていなかった。その様子を見て男が切り出す。

「アンタは何もかもに対して自己中だった。ユーザーにも女性にも従業員にもそして子供にも。だから俺はただそれらに火をつけて燃やしただけだ」

そう言い放った。その言葉に激怒した社長が胸ぐらを掴んで、

「まさか・・・全部お前の仕業か!一体何をした!」

そう激怒しながら叫んだ。するとその男は、その社長が掴んだ胸ぐらにあった手を冷静に握り潰した。

「イタタタタタ」その社長が呻き声を上げた。

「痛いか。でもこの痛みなんか比にならないぐらいの事を、お前は今まで色んな人にしてきた。今お前が受けているのはそれら全ての報いだと思え!」

その男はそう言い放ち、握っていたその社長の手を引き離した。

そしてその後でその男は語り出した。一体何をしたのかを。


数時間前・・・

「これが影山からの報告だ」。蔵馬はそう言って、ミーティングルームに緊急で集めた全員に、影山から集めたデータを見せた。そこには色々な悪事の数々が書かれていた。

まずセブンネットワークについて。悪質なガチャのその実態。そしてその手口。噂通り、いや噂以上に、この会社はユーザーを課金中毒にさせて、金を巻き上げていたことが良く分かった。

そして更に社長の方について、まず何人もの浮気相手に対する暴行の数々。それら全てを金で解決してきた事実。この社長は気に食わないことがあると、女性に暴行を繰り返していた。そして女性の方も、社長のお金で生活しており、言う通りにしか出来なかった。

そしてもう一つ、この社長はギャンブル好きで多額の借金があり、会社の金もそのギャンブルに注ぎ込んでいた。おそらく会社の収入で、それを補填していたのだろう。

更に従業員についても、時間外残業は当たり前で、忙しくても人員を増やすことはせずに五人の従業員で全てを回していた。そして、全員に対して怒り散らし、社員からは恐れられていた。社員の方もそんな生活に慣れてしまったこともあり、また給料はそこまで悪くなかったので、今の生活を変える勇気も無く、仕方なく働いているというそんな感じだった。

「・・・これは酷いです・・・」唯がまず口を開いた。

「・・・クズ中のクズですね・・・」舞が次いで口を開く。

「・・・こんな男本当にいるんだ・・・」純はその報告に絶句した。

「・・・想像以上です・・・」緑は思っていた以上のその社長のクズぶりに、声を失った。

「決まりだな。これだけの材料があればもう今日潰せる。今晩決行するぞ」

蔵馬がそう全員に声を掛けた。そして、

「よし、今回はそれぞれ別行動で行くぞ。時間も無い。みんなすぐに動いてくれ」

そう言って、それぞれに指示を出した。


蔵馬はその報告をする数時間前から既に一人で動いていた。

まず蔵馬は、独自のネットワークを使って投資家達に呼びかけた。

セブンネットワークを潰したいから、もし投資している人がいたら、今すぐその金を回収して欲しいと。蔵馬がそう呼び掛けると、その投資家達は一斉に売りに動いた。これが株暴落のカラクリだ。

そしてその後で、関係のある大手ゲーム会社の社長に呼び掛ける。

セブンネットワークを買収して欲しいと。そしてその際に、従業員は全て雇用して欲しいと。

普通はこんな無理難題通るはずがないが、その会社の社長は蔵馬と懇意の関係の為、蔵馬の為ならと協力を惜しまない。

そうして崩壊の地盤を作った頃に、影山から先程の調査結果が届いたので、仕上げにかかる。

まず最初に悪質ガチャの実態について、SNS上に全て晒した。するとこの情報を見たユーザーが一斉に拡散を始める。そしてその情報を見たユーザー達は、次々とセブンネットワーク関連のゲームから退会を始めた。

次に浮気女性のところに舞を向かわせた。そしてその事実を動画として流した。これでこの社長の社会的信用は失墜する。

その後で、更にギャンブルの証拠を持って、緑を銀行に向かわせた。

そしてこの会社が、今現在借金をしていることを銀行に暴露した。

銀行は突然の報告に戸惑ったが、緑の肩書きもあり、これが事実だと確信し、即座に融資の回収の手続きを開始した。

その間に、買収の話しをSNSで拡散する。従業員全て雇用するという条件と、今以上の待遇の保証という内容と共に。

その結果・・・セブンネットワークは一日にして混沌に陥る。

銀行からの融資回収の電話。ユーザーからのクレームの電話。動画を見た人間からの罵詈雑言の電話。

もう仕事どころではない。そうしてる間も社長はずっと横柄に振る舞っている。いや、急なその展開にパニックになって、いつも以上に荒れている。

そんな辟易している従業員の元に買収の話しが届く。従業員は全員同じ行動を取る。そう、この会社を見捨てるという行動を。

そして全員部屋から出て行く。そして今に至る。


「そ・・・そんな・・・馬鹿な・・・お前は・・一体・・・何者なんだ⁉︎」

全てがこの目の前の男の所業であると悟った社長は、恐れ慄きながらそう蔵馬に言った。

すると蔵馬は呆気らかんとした顔で、「なあにただの一施設長だよ」

蔵馬はそう言い残して、その部屋を去っていった。

社長はもう鳴り止まない電話の対応を諦めた。そして一人床にへたり込んで声にならない呻き声を上げ続けた。

全ては自分で蒔いた種。どこか一つでも自分勝手にやらずに、自身の自己中の考えを捨てていれば、この崩壊は起こらなかったかもしれない。

でもそれも・・・もう後の祭り・・・

その社長は後悔するのが遅すぎたのだ。


「こっちは終わったぞ。そっちはどうなってる?」

蔵馬はその社長の自宅の方にいる唯に連絡をした。すると唯は、

「蔵馬さん。ちょっとこっちは問題が発生しました」

そう蔵馬に答えた。蔵馬は少し困惑しながら、

「どういうことだ?何が起こった?」と唯に説明を求めた。すると唯は、

「実は・・・」とここまでに起こった話しを始めた。


蔵馬がその社長のところに行っている間・・・

純と唯は、その社長の家にいた。

蔵馬からの作戦は、社長の破滅が決まり次第、百万をメイドに渡して、子供を買い取って来いというものだった。

そうしてその準備の為に、その家の門のインターホンを鳴らす。すると、

「どちら様ですか?」

という声がした。おそらくこの家のメイドだと二人は考えた。そこで、

「夜分遅くにすいません。私達、闇の児童相談所の者なのですが」

そこまで言うとそのメイドは全てを察して、

「そうですか・・・遂にこの日が来ましたか・・・」

と言って門を開けた。そして二人は、その豪邸の門から中に入りその家のドアを開けた。

中ではメイドが二人を出迎えた。そしてそのメイドは二人に話を始めた。

「そうですか・・・本当に・・・ようやく孝宏坊ちゃんは解放されるのですね。どうぞ・・・こちらです」。そう言って部屋に案内した。

とても大きな勉強部屋。そこに孝宏はいた。孝宏は必死で勉強していた。その姿を見てそのメイドが優しく声を掛けた。

「坊ちゃん・・・もういいのです・・・もう・・・」

そう言いながら勉強をしている孝宏を、後ろから抱き締めた。

孝宏は勉強していた手を止めた。そして静かに涙を流した。そして無言のまましばらくの時間動かなくなった。そうした時間がしばらく続いた後で唯が切り出す。

「あの〜・・・それで児相の職員から聞いていると思うのですが。その〜・・・孝宏さんうちで買い取らせてもらっていいですか?」

唯は、おそらく初めて言うであろう、そのあまり言い慣れていない言葉を、そのメイドに言い放った。するとそのメイドは唯の方を見て、

「はい。私ももう今日でこの家を出ます。奥様はどうせ夜中まで帰りません。そして旦那様はもう今それどころではないのでしょう。いずれにしても私には拒否権はありません」

そう言い切った後で、今度は孝宏に向かって、

「坊ちゃん。ここでお別れです。この人達に付いていけば坊ちゃんは必ず幸せになれます。私は坊ちゃんの幸せだけを遠くよりお祈りしております」

そう言った後で部屋を出ようとした。すると突然、今まで一度も動かなかった孝宏が急に立ち上がって、そのメイドの後を追いかけて行き、そのメイドの後ろから抱きついた。そして、

「嫌だ!嫌だ!僕は五月さんと一緒にいたい!五月さんだけが今まで僕の支えだった。誰も助けてくれなかったけど、五月さんだけはいつも僕をかばってくれたり、寄り添ってくれたりしてくれた。そんな五月さんと離れるなんて僕には出来ない!」

そう言って五月にしがみついた。そして五月から離れなくなってしまった。

五月にはその言葉が嬉し過ぎたのか、それとも別れることが悲しいのかはわからないが、自然と目から雫が溢れていた。そして、

「ダメです・・・坊ちゃん・・・その言葉はとても嬉しいですが・・・私は坊ちゃんのただのメイドです・・・私は坊ちゃんとは一緒に暮らせません」

そう言って涙を流している力の入らないその手で、孝宏の手を振り解こうとした。

「嫌だ!嫌だ!嫌だ!」

孝宏はその解こうとする力に反発するように、更により強い力で五月を抱き締めた。

そして今に至る・・・


「まーそういうわけなんです・・・どうしますか?」

その様子に困り果てた唯が、蔵馬にそう切り出した。すると蔵馬は、

「どうもこうもあるか!仕事しろ!仕事!」と電話越しに唯に怒った。

唯はこういうケースをとても苦手としていた。子供の気持ちにより深く寄り添う性格故に、孝宏の行動を止めることが出来ないのだ。その様子を見ていた唯が、その電話を取り上げて、

「ねえ蔵馬さん。孝宏くんは五月さんと一緒に居たいんだって。じゃー一緒になってもらったらいいんじゃない?別に母親じゃなくても大丈夫でしょ?ナイトフォレストの中なら」

と仰天の提案を蔵馬にして来た。蔵馬はその提案に対して、

「はーーーーーーー!?またお前は勝手に何を言い出してんだ!」

と電話越しで大声で怒鳴った。すると純は、

「いいじゃんかよー!ケチンボ!涼子さんに言いつけるわよ!」

と言い返した。蔵馬は涼子の名前を出されたのが聞いたのか、

「・・・クソ・・・わかったよ・・・まー元メイドなら何でも出来るからいいけどよ・・・」

と言って渋々了解した。そのやりとりを不思議な顔で見ていた五月が、

「あの〜・・・どう言うことでしょうか?・・・」と純に聞いてきた。すると純は、

「五月さん。五月さんの意思どうこうではなく、孝宏くんはあなたを慕っています。母親じゃなきゃいけないとか・・・そんなの関係なく無いですか?・・・一番大事なのはその慕っている気持ちだと思います。少なくとも孝宏くんが今慕っているのは五月さん。あなたです」

と五月に向かって言い放った。その言葉に五月は孝宏を振り解こうとした手を離して

「わたし・・・でいいのですか?・・・孝宏くんの母親は・・・」と純に尋ねて来た。

「・・・五月さん・・・その言葉を聞く人を間違えてますよ」

純はそう言って、孝宏の方を見た。孝宏は今まで五月を拘束していた手を離して、五月の前に回り込むと、

「うん。五月さん。僕のお母さんになって。そしてずっと一緒にいて欲しい」

そう五月の目を見ながら言った。五月はその言葉が嬉し過ぎて、号泣しながら孝宏を抱き締めて、

「こ・・・こんな・・・わたし・・・で・・・よかったら・・・お願い・・・します」

と泣きながら声にならないような声で、孝宏の想いに応えた。

その姿に純も唯も涙が止まらなくなった。

そしてしばらく全員で泣いた後で、その家を後にした。


唯は車を回してくると、孝宏と五月を乗せて、先に車を走らせた。

純は一人ぼっちとなってしまったので、舞に連絡しようとした。するとそこに緑が車で現れた。そして純に向かって、

「ヘヘヘ。一之瀬さん。今日は私と一緒に帰ろ。城島さんにはもうそう連絡したからさ」

と言って来た。純は少しだけ困惑した顔をして、車に乗ることにした。


車を走らせながら、緑が純に対して話しかけた。

「しっかし今日は本当に色々あって疲れたねー。もうクタクタだよ」。緑のその言葉に純も、

「本当そう。なんか久々に一日動いたって気がします。早く帰ってお風呂に入りたいですね」

と答えた。そういう他愛の無い会話を少しした後で緑が話を切り出す。

「しかし今日はゴメンね。何か昔のこと不意に思い出しちゃって」。その言葉に対して純は、

「でも結果オーライになったからいいじゃないですか」と言った後で、

「ところで昔一体何があったんですか?」と緑に聞いてみた。

すると緑は、自分の過去を話し出した。

「そうね。まだ私が駆け出しの弁護士の頃の話しなんだけどね。私は当時自分よりもお金持ちで代表も勤めていた、同じ弁護士と付き合っていたの。その彼が何て言うか、本当に今回のターゲットにそっくりでね。二人の時はしょっちゅう暴力振るわれていたわ。そして罵声も浴びせられててね。それでも当時の私は我慢してたの。彼は私のこと好きだったのは本当だし、私も自分よりもステータスも能力も負けてるって負い目もあったし、実際色々買ってもらってはいたからね」

「でもそんなある日、あの日は彼とても機嫌悪かった。ちょっといつもと暴力の程度が違っていたわ。それで私、あまりにも殴られ過ぎたのもあって、気を失いかけて、動かなくなったの。そしたら動かなくなった私を見て、その彼はビビってそこから逃げ出したわ。私はもうこのまま死ぬのかなって思いながら、意識が遠のいていくのを感じていたわ」

「そして次に目覚めた時、そこは病院のベッドだった。最初は彼が逃げる前に、最後に救急車を呼んだのかと思ったわ。でも実は救急車を呼んだのは、その時の私の雇い主の蔵馬さんだった。たまたま相談したい案件があって、その夜にずっと電話したけど全然出なくて、気になってその彼に電話したんだって、その彼も偶然蔵馬さんの知り合いだったからね、そしたらその彼がなんかよくわからないこと言ってたから問い詰めたら、私がホテルで意識不明だってことを聞いてね。すぐ救急車呼んでその場所にも駆けつけたんだって」

「そして意識を取り戻した私に対して蔵馬さんは、『あいつも悪いことしたって反省はしている。でも許せないなら潰してもいい。決めるのはお前だ』って言って来たのよ。最初は言ってる意味がよくわからなかった。だってその時その彼は、蔵馬さんのお得意先の顧問弁護士だったのよ。それを潰すということは、お得意先を無くすということと同じで、そことの関係をぶっつり切るということなのよ。だから私は、『そこまではしなくてもいいです・・・』って答えたわ。すると蔵馬さんは急に笑い出して、『アッハッハッハ・・・これだけされてもまだ好きなのか?』って言って来たわ。そして、」

「『お前は何かずっと勘違いをしている。人の恋愛に口を挟む気は無いが、お前の考えは余りにも酷い。なぜそこまでされなければいけない?好きだから?好きなら殺されても本望なのかお前は?それともお前よりも能力も高く、金もあって自分と比べたら不釣り合いだから何されても仕方ないからか?』」

「『笑わせるな!どんな奴だろうと理由も無く殴っていい道理なんかあるわけないだろ!権力があるから?奢られてるから?そんなのは理由でも何でもない!殴る奴のただの言い訳だ!』」

「『本当に好きなら、本当に愛してるなら、その相手のことを愛おしく思うのが当然だ。そして愛おしく思うということは相手を思いやるということだ。理由もなく殴る奴のどこにお前を思いやる気持ちがあるんだ?いい加減目を覚ませ!』」

「って大説教食らったわ。こっちは意識戻ったばっかりの大病人なのに(笑)。でもとてもその言葉が沁みたわ。今思えばあれはおそらく蔵馬さんの育児に対する考え方だっただけなのかもだけどね。でそこまで言われたから、私もつい彼を潰してってお願いしたわ(笑)」

「で、私が退院した頃には、彼そこの顧問弁護士クビになってたわ。それどころか弁護士会から追放されたって後で風の噂で聞いたわ。でも蔵馬さんはそのことについて何をどうしてそういう風に持っていったとかの詳しい話を、私には一切何も言わなかった。ただ一言、『俺は依頼されたことをただ遂行しただけだ』って。その時に決めたの。この人に付いていこうってね」


「まーそんなこんなで私は今も蔵馬さんと一緒にいるってことなの。顧問弁護士も辞めてね。ただ蔵馬さんの夢に協力したい一心でこの施設に付いてきた。そして今に至るってね」

そう言って緑は、自分の過去を全て純に話した。

純は緑のその過去に衝撃を受けたが、それ以上に蔵馬という男のその過去について気になった。そして緑に尋ねた。

「ずっと・・・疑問だったんです・・・蔵馬さんって・・・何者なんですか?」

すると緑は、

「・・・明日朝十時に私の部屋を尋ねて来て・・・そこで私が知っている限りのこと教えるわ」。と言った。そうこうしているうちに車は施設に着いた。

「じゃーね・・・また明日・・・」

緑はそういうと、純を施設の前に降ろし、車を片付けに駐車場に向かった。


「ガチャ」「うーーーい帰ったぞーーーー」

何も知らない呑気な酔っ払ったママが豪邸に帰って来た。

そしてそのままベッドにダイブした。

でもそこにはもう息子もいない。メイドもいない。誰もいない。

そして明日更に残酷な事実を知ることになる。

せめて今だけ・・・いやこのまま夢の世界で・・・醒めない夢を・・・

酔いが覚める前に・・・

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