4話 【ミルフィエ】
私はクシュテーを見つめる。
隣でギェスが驚いた顔をしている。
「……動物と会話する能力は、聖女の力の一つなのよ」
女神の力が戻りつつあるからだろう。
今まで会話できなかった会話が今はできる。
ギェスは一瞬、何か言いたそうな顔をした気がしたけど次見た時にはいつも通りの顔になっていた。
「ウエステ公爵家って……確か親王族派だよね?」
その代わりなのか、そうギェスは聞く。
「ええ」
私は以前見た貴族勢力を思い出す。
ウエステ公爵家は、五代前の国王が溺愛していた王女が当時伯爵だったウエステ家に降嫁したことで
今ある公爵家の中では一番新しく、公爵になってから150年ほどだったはずだ。
ただ、家としてのウエステ家はかなり歴史が古く、王国内でも指折りの古さを誇る。
そもそも、アテシエ王国自体、建国から500年ほど経っている。
「でもなんでウエステ公爵家?」
「さあ?」
私はにやりと笑う。
「さ、クシュテーが衰弱しないうちにウエステ公爵領に行かないと」
「そうだね。クシュテーは北の山の純粋な魔力を受けて育つから、ここは相当汚いからかなり苦しいはずだろうし、僕もミルフィエに賛成。馬車を呼んでくる」
「ああ、ギェス。その必要は無いわ。ひとつやっってみたいこともあるし」
扉へ向かおうとするギェスを止め、私は右手に魔力を集中させる。
そのまま、腕を動かし、魔法陣を書く。
右に風の魔法を、左に闇の魔法を。
「…………」
ギェスが呆然と私を見ている。
だけど、それに構う余裕もなく、一心不乱に腕を動かす。
「できた」
空中で輝いていたのは転移の魔法陣だ。
「すごいな。まさか転移陣を書くなんて」
「でも本番はこれからよ。さ、ギェスも魔法陣に手を当てて」
「いや、これ多分発動しないよ?」
ギェスは顔をひきつらせながらも言った。
ギェスの心配も分からなくはない。転移陣を発動させるには比較的魔力が多い王宮魔道士6人が魔力枯渇寸前まで魔力を注ぐ必要があるからだ。
今の私の回復している力とギェスの魔力を合わせても精々4人分位だろう。それも完全に枯渇させてようやく。という程。
でも、私だって見切り発車でやっているわけではない。ちゃんと策がある。
「ギェスの心配はわかるわ。だから、私のベットの下にある箱を取ってくれない?」
今、私は魔法陣の傍から離れることができないからギェスに頼む。
「うーん……うーっ……」
ベットの下に懸命にギェスは手を伸ばしている。
体の上半身をベットの下に入れ始めた頃、ガン!という音がしてギェスがベットのしたから出てきた。
「いてて……あったよ」
頭を抑えながら顔を真っ黒にしたギェスが出てきた。
「頼むから、そのまま持ってきて欲しいの!」
念の為、そういう。中には傾けてもいけない、私しか触れられないアレが入っているのだから。
「はい」
「ありがとう。ギェス」
私はギェスから箱を受け取りそっと中身を取り出す。
中には金色に光る透明の石がいくつも入っていた。
それは私がこっちに来てからギェスの目を盗んで定期的に魔力を込めていた魔石だった。
「すごい魔力だ。一体、いつの間に?」
キラキラと輝く魔石を前にギェスは眩しそうにしている。
「こっちに来てから、何かあった時のためにギェスが街に買いものに行く日を狙ってやっていたの」
「そうだったんだ。もしかしてこれを使うとか」
「そう。これ半分だけで王宮魔道士3人分はあるから、魔力問題は解決するでしょ?」
私はそう言っている間にもう魔石に手を伸ばし、魔法陣に半分に当たる魔石6個分の魔力を込めていく。
魔法陣は対象者が魔方陣内に立つことはもちろん、魔力を少量でも込めないと対象者とみなされないので、残りの半分に自分の魔力も注ぐ。
「さ、ギェスも」
ギェスを促し、発動に必要な残りの分の魔力を注いでもらう。
「よし、できた」
2人で魔法陣の上に立ち、手を繋ぐ。
魔法陣は克明に思い出せる場所にしか転移できないため2人で公爵邸を細部まで頭に描く。
「「ドゥレット」」
そう叫び、風が頬を撫でる感触がした次の瞬間、私たちは公爵邸の前にいた。
そこには妙な砂の山があった。
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