2話 【ミルフィエ】
「ん……」
その日は、いつもより早く目が覚めた。
ふと外が気になり、窓を開けてバルコニーに出た。
外はまだ薄暗く、東には太陽が西には月が同時に見えた。
こんなこと、あり得るのだろうか。
普段こんなにも早く起きない私には分からない。
けど、不思議と引き込まれる何かが、それにはあった。
「綺麗」
その景色に見惚れていると、後ろから窓を開ける音がした。
「ミルフィエ、体が冷えるよ」
バルコニーにやってきたのはこんな私の侍従をしてくれてるギェスだった。
ギェスは癖がかかった黒髪を短く切った体の凹凸が小さい少女だ。
ギェスは手に持っていたショールを私の肩にかけ、私の隣に立つ。
「何見てるの?」
「空よ。綺麗じゃない?」
「綺麗……というよりも僕の目には不気味に見えるな」
ギェスは空を見て不安そうな声で言う。
「そうかしら」
「ミルフィエはこの時間の空を見たことがないからねぇ。お寝坊さん」
「もう」
ぷくーっと私は頬を膨らませ、抗議する。
ギェスは私の頭を撫でて笑った。
絶対私の事からかってるわね……。
笑い合いながら、空を眺めていた。
すると、私の頭にガーンガーンと金のような音が頭に響いた。
「ミルフィエ?!」
耐えられず、私はその場に頭を抱えて座り込む。
「ミルフィエ! ミルフィエ!」
ギェスが私のそばで叫んでるような気がする。
ゴーンゴーン……ゴーンゴーン……
音が収まる。
目を開けるとそこには大きな月の前に羽が降る世界が広がっていた。
「ここは……」
私は目の前の光景に戸惑う。
【神を忘れしアテシエに死を】
しかし、そう頭に響いた気がしたときにはもう元に戻っていた。
「ミルフィエ? 何を言ってるんだ」
ギェスが驚いた顔で私の顔を覗き込む。
「ギェス、私は何を……」
私は困惑していた。
『死』という言葉が頭に張り付く。
「ついに……ついに来たのかしら……」
口に出すにつれ、戸惑いは消えた。
「ふふふ」
私は笑う。未だかつて無いほどの喜びが込み上げてくる。
「まさか、そんなわけが……だってミルフィエはもう何年も」
ギェスは嬉しそうな、どこか困惑した声で真実を察した。
「あははっ。あははははっ」
私は立ち上がり、明るくなりだした空を抱きしめるように手を広げた。
雲の隙間から神々しい光がさす。
「女神アテシエに感謝を! 破滅の始まりに祝福を! ああ、これで……これでっ」
―――愚か者が死ぬ。女神アテシエはもう止まらない。
ああ。なんて幸せなのかしら。
「ミルフィエ、嬉しいのはわかるけど、落ち着きなよ」
「ギェスは嬉しくないの? あの、愚か者がみんな、みーんな死んでくれるのよ! 女神アテシエを神と崇めることはなく、あのゴミを神と崇め続ける民衆も、貴族も王族もみんな!」
ギェスは驚いたような顔をする。ギェスはもしかしたら、嬉しくないのかもしれない。
「……本当に、女神アテシエが言ったのか」
「ギェス? 私を信用してないの ?」
「いや、違うんだ……ただ、あくまでも聖女の侍従の僕にはお告げは聞こえないから。ミルフィエのつぶやきは聞こえたけど、信じていいのか怖くて」
握ったギェスの手は震えている。
「本当よ、ギェス。だってあの時と一緒だったもの」
ギェスの目が見開かれる。
「別に大丈夫よ。だって私は聖女だもの」
まぁ、信じてくださるのはギェスとお母様だけですけど。
だってこの国は、国王を神と崇め、女神アテシエを神としてない国。
国王を神とせず、女神アテシエを神と崇める聖女など、消すべき存在。
信じてくれるはずもなく、こうして王宮のすみにこうして追いやられている。
殺されないのは、王女として使う道がまだあると思われてるから。
でもだからこそ、こうして女神アテシエに死という罰を受けている。
それに、飢えも急激に減っている。
ずっとずっと何を食べても、何をしてもかすかな飢えがあった。それが、なくなりつつある。
今なら、あのゴミに何をされても大丈夫かしらね。
「ふふふっ」
また笑う。笑みが消えない。
まったく。という目でギェスが私を見ていた。
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