第4話 飾りたいほど愛してる(額縁)
美男公アルジェスが王の怒りを買い手打ちにされ、首だけの姿となって帰還した時、民たちは大いに怒り、嘆き悲しんだ。
ご丁寧に硝子壺へ入れられた良人の変わり果てた姿を見て、奥さま――公爵夫人ジリエーヌは今にも卒倒してしまうかと思われたほど、動揺されておいででした。
「あああああ、なんということでしょう! 我が君! そのお姿は――」
奥さまはよろよろと壺に近づき、ちいさな手で触れ、やにわに頬を押しつけました。
「――――すてき……」
何を隠そう、奥さまは旦那さまのお顔をたいそう愛しておいででした。
生まれながらの王族であり、手に入れられないものなどなかった少女時代に旦那さまへ恋をして、大国の王への縁組み話を蹴飛ばして一臣下に嫁いだというエピソードがその一途さと極端さを示しているのではないでしょうか。
旦那さまがお首だけの姿になってから、奥さまは神に仕える者めいた敬虔さで、毎日首の入った硝子壺を磨き、いつまでも飽きずに旦那さまの黄金の髪を梳かし、日ごとに違う香水を振りかけ、もちろんどこへ行くにも一緒という有り様。
「旦那さま、今の状況がご不満ではないのですか」
そんな旦那さまを観ていたら、ある時口思わずがすべって、そう訊ねてしまった。
「いいや。むしろ、この境遇を受け入れているほうじゃないかな」
「どうして、また」
「きみは知っている? 妻は、僕を見初めた時、こう言ったんだ。なんて素敵なお顔、額縁に入れて永遠に寝室に飾りたいわ、と」
「それはまた……」
確かに生前より、旦那さまの美丈夫ぶりといえば国内外に名高かった。波打つ完璧な黄金の髪、夢みるような真っ青の両目、高い鼻梁、男らしく品のあるくちびる。生ける彫刻、神の似姿と、あらゆる称賛を浴び続けた。
だがそれがやっかみ半分、揶揄半分であったことも、知っている。爵位こそ公爵家なれど、旦那さまの家は新参の部類に入る貴族で、豊かでもなければ有力でもない。王女を娶ったことで栄えたとこれ見よがしに囁かれ続けるような、そんな家だ。
「この顔だけを求められることを、長らく僕は受け入れられなかった。でも今は違う。だって、なんといっても首しかないのだからね、今の僕は」
「旦那さま」
「今の僕は幸せだよ。この姿になって、初めてなんの躊躇いもなく、妻の愛を受け止められた。妻は僕の顔を愛しているという。それはつまり、僕の存在丸ごとを愛してくれているということだからね」
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