第2話

鈴川は、泥棒に入った家に、篠原と鉢合わせてしまった。すぐに、玄関から出ようとすると、待てと声がかかった。トイレから、出てきた篠原は、何か言いたげな顔でもあった。

実際に、篠原と会ったことがあるのは、3回ぐらいで、少し話をした程度で、銀号強盗として、手伝ってもらったことがあるが、泥棒としての仕事は、噂でしか知るよしがなかった。噂ではプロの泥棒として、仕事はやり遂げるが何かが抜けているらしかった、泥棒に入ったら、その家の水を飲む、だったり、泥棒を終えた後は、置き手紙を置いて、なにが盗まれたかを書いていたり、隣人のインターフォンを押して、隣の住人の友達です、と声をかけるのであった。何のためにやるのかは、検討がつかないが、儀式めいたものだろう。実際にどうかは、わからないが、篠原がトイレに出て来たとき、住人が出てきたと、焦っていたが、出てきたのは、泥棒の篠原であることから、トイレに入ることも、儀式のその一つなのだろうと、泥棒は、普通、人のトイレに入るのだろうか、と疑問に思ったが、または、自分がそうしたいから、そうしたということなのだろう。


大内は、多田の別荘で過ごしてから、1カ月が立とうとしている。大内にとって、多田の別荘で過ごした時間は特別なものであった。一つ一つのものを積み上げていくように、絵画を描いていった。絵画において、一つ一つの行程が重要であった。

例えば、重要な状況下において、ものにおいての質というのは、環境でしか保つことができないとも思っている。少しでも、気が散ると、絵画においての情景が変わってしまうのであった。家の近くにある海には、その環境を支えてくれた。海風が心地良い周辺地域に住めたことが、大内にとってうれしかった。集中して物事に取り組めたからである。

絵画というのは、作風が変わることがある、環境が変わると、人も適用しようと変化するよう、絵画も作風が変化する、自分が書いた絵画が、作風が変わったと、この頃、大内は思う。環境が変化したせいなのかもしれない、または、好みが変わったのかもしれない、

大内には、最近焦りというものが、なくなった。周りに騒がしいものがなくなったのだろう。家具も前より少なくなり、借金取りも、今のところ来ていない、家のラジオでは銀行強盗が近年、多発していると報じられている、銀行強盗とは、どのくらい成功するのだろうと、知る由もしないことが気になったが、今のところ、自分が気にするよしもないとも思った。


鈴川は、篠原に「待て」といわれ、その家のソファまで招待された、もちろん、他人の家である、どちらも泥棒であり、泥棒同士の談話でもあった。鈴川は、泥棒というのは、基本的に2種類の性質があると考えている、「大胆か、計画的か」、ようするに、突発的か冷静かである。泥棒を生業としているものは、基本的には計画的な部類に入る、鈴川もそうである、篠原は、大胆で突発的な部類に入るだろうと、居間に案内される際、そう思った。

居間には、絵画が飾れれていた、質素な家であった。絵画には、海の情景が描かれている。

篠原は、鈴川をソファに座らせた後、篠原は「泥棒というのはだな、家の住人に出会ってしまった時に真価が問われる、逃げるか、戦うか、大抵の泥棒は逃げるを選ぶ、しかし、自分は、違う、隣人のように振舞い、業者であるかのように装う」と、ようするに、さっき玄関先で会った時、逃げたことへの説教であった。篠原は、「せっかく、泥棒同士で鉢合わせたのに、挨拶もせず、談笑もしないとは、良くない」と言った、噂では、変な話を聞かされたが実は忠実な人なのだと思った。しかし、隣人のように振舞い、業者のように装うというのは、到底無理な話だとも思った。プロならではの話かもしれない。いまいち実体がつかめない人だと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る