第49話 沖ノ鳥島再び
―沖ノ鳥島再び―
翌朝、伊崎、ヒコロイド、楊黄鉄の3人は、沖ノ鳥島へ向かった。
操船は、ラボから借りてきたハードロイド達が行っており、ヒコロイドと楊は交代でハードロイドの横に付いて、船の航路を確認している。伊崎は、時折仮眠を取りながら操船を見守った。
* * * *
横須賀を出て丸2日、不可解なタンカーの報からは4日目の深夜2時頃、『ふかみ丸』は沖ノ鳥島から約50キロ西の海上にいた。
強い雨風に船が揺れる。嵐が近付いて来ていた。ハードロイド達は、自分を支えるのが精一杯で、操船どころではない。
「この風雨だ。フカミンで降りるにもクレーンが安定せん。サキモリポイントまで一気に行って落ち着くのを待とう」
伊崎の言葉に、ヒコロイドと楊も頷く。
それから約2時間程揺られて、サキモリの通信が入るようになった頃には、風雨はようやく和らいでいた。沖ノ鳥島から約5百メートルの地点だ。時刻は4時を過ぎたところで、東の空が薄っすらと白み始めている。
その薄っすらと明るくなりつつある水平線に、空母らしき影が1つとタンカーらしき影が5つ確認出来た。
船長室では、伊崎、ヒコロイド、楊が、これからの進め方を話し合っていた。
「ここまで、意外とあっさり来れましたね。空母から偵察機でも飛んで来るかと思ってましたけど。不気味なくらいに動きがありません」
ヒコロイドの感想に伊崎も頷く。
「噂じゃ、あの反った甲板からじゃ、まともに艦載機を飛ばせないって話だ。だが、武装が無いわけじゃないからな。安全第一。動きがあるようなら、とっとと尻を捲って退散あるのみ、だ」
「それにしても、空母が1隻見当たりませんね。タンカーは5隻固まってますが」
「何らかの作戦行動だろうがな、俺達には探しようがない。それは後で鷹羽さんに聞いてみるとして、今はタンカーだ」
「それもそうですね。で、どうします?」
「俺とヒコロイドはフカミン。楊さんは、クレーンを頼む」
「はい」
「まだ雨は降っているが、この風なら降ろせるだろう。海上だとタンカーや空母から見付かる恐れがあるから、海中を進んで、タンカーの下に潜り込む。楊さんは空母とタンカーの動きも見ていてくれ」
「わかりました」
「よし、行こう!」
それから30分後、注意深くソナーを見ていたヒコロイドが静かに呟く。
「タンカーの下に入りました。――ライト点けます」
ヒコロイドがライトを点けると、光の輪にタンカーの船底が映る。
ゆっくりとフカミンを進めると、3分の1程船底をなぞったところで、突然船底が消えた。
「船底が途切れましたね。とりあえず、このまま進んでみます」
さらに進むと、再び船底が始まった。
「ざっと100メートルくらいですかね、教授」
「ああ、幅も確認しよう」
横幅は30メートルくらいだろうか、船底が四角くくり抜かれているようだ。伊崎達は、は、くり抜かれた部分の中程に戻ると、上昇を始めた。
光の輪の中に、別の船底が見える。
「――これが潜水艦ですかね。てっきりコバンザメみたいに貼り付いているかと思ってたんですが、まさか船底がくり抜かれているとは……」
「全体の形を確認しよう。ゆっくりぐるりと回るぞ」
「はい」
「楊さん、そっちにも映ってるか?」
『問題無く見えています』
「よし」
フカミンはぐるりと回って、潜水艦らしい形状を確認した。幅が10メートルくらいで、全長は60メートルくらいだろうか。
「隙間から上に上がれますかね」
「気を付けてな。上に出た途端、弾が飛んでくるとかゴメンだぞ」
「いったんライト消します。ゆっくり行きますよ」
フカミンはゆっくりと海上に出た。灯りが無いため真っ暗だ。
「艇のカメラだとよくわかりませんね。僕、上に出てみます」
ヒコロイドは、フカミンのハッチを開けて、身を乗り出すと、ポケットからペンライトを出して、周囲を照らした。そこに浮かんでいる船は、まぎれもなく潜水艦の形状をしていた。その空間の天井は水面から20メートルくらいはありそうだがペンライトの光では確認出来ない。
「鷹羽さんの読みが当たりましたね。教授、5メートル程前に行ってもらっていいですか?」
ヒコロイドは、下を覗いて声を掛ける。
「教授。外には誰も居なさそうです。ライト点けても大丈夫ですよ。甲板に出入口らしきハッチが見えますね。僕、中に入れるか見てきます」
「え? おい、早まるな」
ヒコロイドは、ペンライトを口に咥えると、ひょいと潜水艦に飛び移った。
伊崎が、フカミンのハッチから顔を出すと、ペンライトの光が、潜水艦の上を動いて行くのが見える。
伊崎が、ひやひやしながら目を逸らせないでいると、ヒコロイドが振り返った。
「中に入れそうなので、ちょっと行ってきます。30分経っても戻らなかったら『ふかみ丸』に戻っていいですよ」
「お、おい!」
ペンライトの明かりは止める間もなく船内に消えた。
「――戻れるわけ無いだろう」
伊崎がやきもきしながら待っていると、5分後、ふいに周囲が明るくなった。
眩しさに目をしばたたかせて、周囲を見た伊崎は、見たことのない光景に息を呑む。
「――これは!」
ドックと呼べるかは疑問だが、その四角いプールのような生け簀のような空間に潜水艦が浮いているのは確かだ。船体は四方からアームのようなもので固定されている。
「教授」
声のする方を見ると、ヒコロイドが潜水艦から出てフカミンの前に立っていた。
「潜水艦、制圧しました。次行きましょう」
そう言って、フカミンに飛び乗ってくる。
艇に戻ったヒコロイドは、自分が見た映像を艇内のモニターに映しながら、中の様子を話し始めた。
「ハードロイドばかり、30人乗っていました。操縦室にベースサーバーがあって、それとは繋がっていますが、スタンドアロンみたいなものです。現在は、空母からの指示を待っている状態でした。武装もしてなかったので楽でしたよ」
「今、ハードロイドはどうしてるんだ?」
「ベースサーバーの命令をキャンセルして機能を停止させています」
再び海中に潜ったフカミンは、次のタンカーを目指す。雲はあったが、日が完全に上ったらしく、海中から空の明るさが確認出来るくらいになった。
タンカー同士は、50メートル程の距離を置いて停泊していた。
再び、ヒコロイドが潜水艦に乗り移り制圧する。伊崎とヒコロイドは、これを繰り返した。
4隻目に取り組んでいる時、楊から急いだ様子で連絡が入る。
『大変です、教授。NSAからの緊急通信で、
「ミサイルぅ? なんでそんなもんが。――楊さん、あんたは波に備えてくれ。船を波に正対させるんだ。横波を喰らったら船が沈みかねん。ハードロイド達も出来るだけ固定しておいてくれ」
『わかりました。ヒコロイドは潜水艦の中ですよね?』
「ああ。中に居る間は連絡が取れん。こっからは、いちいちこうして会話出来んと思うから、こっちの状況は適宜モニターしてくれ」
『了解です』
直ぐにハッチを閉められる体制で、灯りが点くのを待つ。
「揺れたら閉める、揺れたら閉める、揺れたら閉める……」
唐突に灯りが付いた。
ハッチから顔を出したヒコロイドに、伊崎は大きく押し返すように手を振りながら叫ぶ。
「ヒコロイド、中に戻れ! ミサイルが来る!」
ヒコロイドが戻ってハッチを閉めたのを見届けて、伊崎もフカミンのハッチを閉める。ハンドルを回している最中に軽く揺れを感じた。と思ったら、ぐっと浮きあがる感覚が来て、続いてドスンと沈み込む。それからは大きな揺れが果てしないように続く。
伊崎は、手探りでシートと思われるものにしがみ付き、揺れが静まるのを待ち続けた。
※1 本作では、一部、国名を変えています。周辺国の地図はこちら↓
https://kakuyomu.jp/my/news/16818023212437545534
※この物語はフィクションです。登場する人物名、団体名は架空のものです。
また、作品中に出てくるAIの構造や機能、ならびに幹細胞工学や海洋開発の技術
は、物語の前提として考察したものであり、必ずしも科学的事実に基づくものでは
ありません。
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