04 亜里沙
おお、髪切ったのか、恵梨香。うん、わかるよ。長さ揃えただけでも叔父さんにはわかる。で、大学生活はどうだ?
……そうか。やっぱり軽音サークルに入ったんだな。へえ、そうか。もうバンドまで組んだのか。いいな、ギャルバン。叔父さんが大学生のときも、女性だけでバンド組んでた子たちは居たぞ。
そうだ、そのギターの子で、
けれど、なぜか叔父さんは亜里沙に好かれてよ。彼女が言うには、雄っぽくないらしい。捉えようによっては失礼な話だよな。叔父さん、背、低いだろ。しょっちゅう撫でられてたよ。智子さんと同じく、俺のことを犬扱いしてたんだろうな。改めて思うと、やっぱり失礼な話だよ。
それで、叔父さんがそういうのに詳しい人間だっていうことは、軽音サークルの皆には知れ渡っていた。で、亜里沙に相談されたんだよ。最近夜道を歩いていると付けられている感じがするってな。でも、振り返っても誰も居ないんだとよ。
亜里沙は一人暮らしをしていた。それで、ある晩、試しに大学から彼女の部屋まで二人で歩いてみることにしたんだ。街灯の少ない、あぜ道のような通りにさしかかった。どうやらそこでぞわっとするらしいんだな。
叔父さんも感じたよ。確実に何かが居る。亜里沙には、絶対に振り返るなって言って、そこで足を止めさせて、叔父さんだけが後ろを見た。
そいつには首がなかった。足もなかった。胴体から、腕が六本も生えていた。裸だった。男のようだった。そして、下の方から生えている一対の腕を器用に動かして、それでつけてきていたんだな。
まずいと思った叔父さんは、亜里沙の腕を掴んで走り出した。彼女はしきりに何を見たのか聞いてきたが、答えることなんてできなかった。彼女の部屋に着いて、鍵を閉めて、二人で息を整えた。落ち着いてから、叔父さんは何があったのかを話した。
そしたらさ。亜里沙が、実は心霊スポットに行ったなんて打ち明けたんだよ。バンドを組んでたメンバーで行ったらしいな。山の中の廃屋でよ。何もなかったから、そこで酒盛りして歌ってたなんて言い始めて。
もちろん叔父さんは叱ったさ。恵梨香も、くれぐれもそういうところには行くんじゃないぞ。第一、不法侵入だからな。亜里沙は泣き始めて、どうすればいいか聞いてきたが、叔父さんだってわからない。
そしたら、ドアをドンドンとノックされた。また、あの怖気がした。さっきの奴だってわかっていたから、開けられないし、かといってどう対処していいものやら。
とりあえず叔父さんは、亜里沙の代わりに謝ったんだ。彼女はベッドに潜り込んでわあわあ泣いてたからな。叔父さんがつらつらと謝罪の言葉を述べていると、ノックも収まった。でも、まだそこに居た。
叔父さんは、思い切ってドアを開けてみた。すると、そいつは一番上の手に、空き缶を握っていた。ビールだった。酒、飲みたいんですか、って叔父さんが聞くとよ、その缶をぶんぶん振ったんだよ。
それで、叔父さんはそいつを、自分の部屋に連れて帰った。……恵梨香め。吹き出しやがって。そうさ、恵梨香のとこの手足と一緒さ。ほら、叔父さん、まだ恵梨香に言っていないだけで、そういう異形を見るのは慣れてたからさ。
途中でコンビニに寄って、たんまり酒を買って、そいつと飲むことにしたんだ。面白かったぞ。胴体に直接ビールを注ぎ込むんだ。裸だったから、目のやり場に困って、途中から叔父さんも脱いだ。
……笑いすぎだって、恵梨香。叔父さんもそうしなきゃやってられなかったの。それで、どんどん酔ってきちまったから、いい筋肉してますねって触らせてもらって。そう、六本とも凄く鍛えられていたんだ。
いつの間にか叔父さんは寝ちまって、明け方にはそいつは居なくなってたよ。後に残ったのは大量の空き缶だった。それで満足したんだろうな。亜里沙のところには出なくなった。
それからな。実は、亜里沙に付き合ってくれなんて言われたんだ。でも、もう智子さんがいたし、断った。そしたら、ストーカー化しちまって。着信履歴が全部同じ人物で埋まる経験、恵梨香はあるか? 無いだろ? そっちの方がこわかったよ。
最終的に智子さんが啖呵を切ってくれた。もう手を出すなってね。亜里沙は軽音サークルを辞めたよ。この三角関係のことは、メンバーも知ってたから、しばらくはやり辛かったぞ。
恵梨香も、サークル内での色恋沙汰は慎重にな。叔父さん、心配なんだ。恵梨香は可愛いから。それと、絶対に心霊スポットには行っちゃいけないぞ。大学生っていうと、そういうのに行きたがる年頃だが、遊び半分でもやっちゃいけない。それと、お酒とタバコは二十歳になってから。わかったか? 叔父さんとの約束だぞ。
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