第134話 報酬

「残念ですが、それを受ける事はできません。」


仮に負けた場合の不利益が多すぎる。

あの聖女が死者蘇生ができるまで成長しているとは思わないが、そもそも回復魔法と回復薬という不利な勝負であるのと、敵対しつつある教会と王国貴族の勝負は話題性が大きすぎる。


それに……


「学長である貴方がこんな馬鹿な提案するなんて、何か理由があるのですか?」


学長がナニカの影響を受けた可能性がある。

主人公を見て違和感を感じていたのもあって、ある程度わかりやすく使いやすい人間であるため影響を受けたとは思いたくないのだが……


「……【イサレント(音を遮断せよ)】」


糸目のせいでどんな感情を持っているのかわからないが、学長は少し考えた後に魔法で外へ声が漏れないようにした。


「【学長権限 部分変更 籠城】」


部屋に存在した、ありとあらゆる物から魔力が生み出され部屋の空気が変わる。

カーテンは閉じられ石のように硬くなり、扉には魔法陣が浮かび、本棚の裏からゴーレムが2体現れた。


「ディカマン侯爵まずは謝罪を、試すような真似をしてしまい申し訳ございません。」


秘匿されるべき技術が大量にある学院、この部屋の変化も緊急時の対策か。


「いきなりで驚きましたよ。」

「本当に申し訳ございません。」


一瞬だけ暗殺かと思い、直ぐに動けるように構えたが学長の様子を見るに不要だったようだ。


「では説明してくれますよね?」

「もちろんです。」


学長は私に再び資料を渡して話し始める。

資料のタイトルは『クラス間技術交流 教員会議記録』教員達の会議での会話内容が書かれている資料だ。


「これは『クラス間技術交流』で起こりうる緊急時の対応を話し合っていた時の会議資料、中でも怪我に対する対応を話し合った時のものです。」


この資料を読んで全てわかった。

私が考えていた学長が影響を受けたのでは無く、教員達が影響を受けている。


学長が馬鹿にもわかりやすく私と教会がぶつかることの危険性、そして研究費が無くなると説明しているのにも関わらず聖女の回復魔法を見たいという主張を変えようとしない。


「私は学長としてこの学院内では1番の権限を持ちますが無理矢理主張を通すのは難しいのです。

学長が独裁者となれば学者は逃げます、学者というのは意外と俗物なので利益を奪われる可能性があるのなら逃げるのです。」


なるほど。

資料を読んだ感じ、研究者としての面が強い教員が主に回復魔法を見たいと馬鹿になっている。


「馬鹿どもはクビにしてやろうかとも思いましたが、そんなことすれば学長の職を追われ予算はカットされ私の研究に差し支えます。」


いくら馬鹿になったと理由を説明したとしても、多くの教員達を解雇すれば批判は避けられない。


「一応精神汚染を受けた形跡がないか魔道具を使用して調べたのですが、一瞬反応が出ただけで魔道具が壊れまして……

これは教会を関わらせるのはダメだと判断し、脳筋のまだマトモな教員達を動かしてディカマン侯爵との力比べで納得させたのです。」

「ふむ……」


魔道具が壊れたことで証拠は無く、学長が精神汚染を理由に教員達を排除することを諦めるしかなかったという事は……


「精神汚染は解ける見込みは無いと?」

「はい、あの魔道具には解く機能も付いていましたが壊れてしまったので。」


今回の件、私は学長に協力するべきだ。

ただ最初に断った時と同じで利益に対して負けた不利益が大き過ぎる、ナニカの影響が確認できた以上、聖女の力が強化される可能性も高い。


しかし……


「わかりました、その力比べを受けましょう。」


負ければ魔法薬より回復魔法が優れていると噂が立ち、断ればディカマン家が逃げたと噂される。

負けても断っても殆ど同じ不利益を得るのなら、学長からなんらかの利益を引き出し勝負を受けた方がいい。


「ありがとうございますディカマン侯爵。

最大限の支援をさせていただきますので必要な素材などあれば遠慮なく言ってください。」

「では、ユグドラシルリーフ、吸血の瞳、ミナカミの純水、この3つを用意してもらいたい。」

「わかりました、直ぐに全て3つずつ用意します。

ただ吸血の瞳に関しては数が少なく量によっては追加用意が難しいです。」


私が頼んだ3つは知識内で1番強い効果を持つ魔法薬の材料、ケガや欠損はもちろん毒まで完全に治癒する最も優れた回復薬。

嫉妬の神殿にあった素材で作った魔法薬の上位互換だ。


1回分の材料で6個は作れそうだが……


「……そうですか、努力はしますが出来れば追加分を用意していただきたい。」

「もちろん、全力で。」


少し多く申請しても良いだろう、そして余ったら私の私物にしてしまおう。


「さて、報酬は何がいいですか?」


報酬か……


「では禁書庫で自由に本を読む権利をください。」

「最初からなかなか……可能ではありますが期限は設けさせていただきます。」


まぁそうだろうな。

仮に権限を得たとしても、もし学長以外が自由に出入りできたら警備面で心配になるし、学長の信用が落ちかねない。


「ではもう1つはどうしますか?」

「は?」

「今のが力比べの報酬分だとして、協力の方の報酬です。」


ちょっとだけ罪悪感を覚えた。


「……私が作った最上級の魔法薬に関しては余ったら全て回収させていただきたい。

それと素材は最初に言った3つずつで大丈夫です。」

「わかりました。」

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