第135話 知りたい

今日はこれ以上話し合いをする必要は無く、決まったことを書面に残している。

イベントで使用する魔法薬の数と料金について、そして私と学長だけしか知らない教会を関わらせないようにするための契約、この2つだ。


「そういえば今回のイベントでディカマン君はどんな相手とパーティーを組むのか考えていますか?」

「邪魔をしない相手、それかやる気のない生徒に名前を借りて1人で潜る予定です。」


実際そんな相手が居るかわからないが、知識で私は1人で2位の壇上に上がっていた。

わかりきったことだが1位は主人公パーティーだ。


よくよく考えれば知識の私もそれなりの実力者だったんだな。

主人公パーティーに実力者が集まっていたとはいえ、まだ多くの実力者がパーティーを組んでいる中で2位、まだ嫉妬の能力に振り回されていない時にこれだ、かなり努力したのがわかる。


「なるほど、ですがディカマン君は人気なので貴族平民関係なく組みたいと思う生徒は大勢居ると思いますよ?」

「その時は事情を説明すれば殆どの生徒が離れますよ、やはり賞金は欲しいでしょうしね。」


協力者となった私は順位には入るものの、ダンジョン内の情報を得ているため賞金や賞品は受け取れない。

それは同じパーティーメンバーにも適応されてしまう。


「それは確かに……っと最終確認をお願いします。」

「了解です。」


サイン前の最終確認、紙の端から端まで見落としがないよう入念に確認する。


「いいですね、契約を細かく確認する人は好きですよ。」

「敵はそれなりにいるので。」


確認を終え、血を一滴垂らし学長に渡す。


「ありがとうございます、では私も。」


私と同じように血を垂らし契約は終了した。

2つの契約のうち、片方は原本でもう片方は予備をお互いに管理することになる。


力比べという厄介事は増えたが、学長から素材と報酬を得ることができた。

次は国王の呼び出しだが……学院のように厄介事じゃないことを祈っておくとしよう。



──学長視点──


「これで一通り終わりましたね。よければこのあと一緒に食事でもどうです?」

「残念ですが予定が入っているので、これで失礼致します。」

「そうですか。」


悲しいですねぇ……

私の視線を気にする様子は無く、私の見送りと案内も断り、堂々と部屋から出ていった。


カリル・ディカマンは不思議な人間だ。


会う前は魔法薬について少し話せれば程度にしか思っていなかった。

私なら大抵の魔法薬は作れるし、一言で言えばそこまで魔法薬に興味は無かった。


だが一目見て興味が湧いた。


彼は私と同じ世界に生きているのにこの世界から見ていない独特の視点を持っていた。

似たような視点を持つ者が居ない訳ではないのだが、そのような視点を持つ者は皆狂い現実を見れず都合の良い妄想に逃げた人間。


彼はマトモだ、妄想や嫌なことから逃げていない。なのになぜあの視点が出来るのか。


「知りたい。」


大袈裟かもしれないが、自らが存在している世界を別の場所から見る、それは神の視点とも言えるのではないだろうか?


「知りたい。」


歴代の学長の中でも最優と呼ばれた御方の日誌。

その日誌には神は元々人であったと書かれていた、もしかしたら彼は人が神になる途中の存在なのかもしれない。


「あぁ、知りたい。」


全てが勘違い、私の深読み、考えすぎの可能性ももちろんある。

だが、そんな事情はどうでも良い。


「私はあの視点を知りたくなったのだから。」


英雄の血筋もまた興味深いが、彼に比べれば少し目を引く程度の道端に落ちている石だ。

いや、彼とも敵対しているようだし鬱陶しくて邪魔な雑草の方が的確かな。


まぁ石でも雑草でも、


「邪魔な物は排除しなくてはね。」


コンコン


「どうぞ入ってください。」

「失礼致します!」


これは精神汚染を受けたうちの1人。

特定の事柄に対する誘導だけで操られてはいなかったようで呼び出しにも簡単に応じてくれました。


「それで私に学長のみが入れる例の場所を見せてくれる……のですよね?」

「勿論ですよ。貴方は学院のために尽くしてくれていますから、ご褒美のような物です。」

「ありがとうございます!」


学長である私がいなければ通れない道を通り、コレが求める場所まで向かう。


「私が例の場所に入れるなんて、夢のようです。」


五月蝿い。

これだから馬鹿の相手は嫌なんです、研究に関係のないことをベラベラと鳴いて本当に五月蝿い。


「【学長権限 我知恵を求める】」

「ここが入り口……」


感動している馬鹿を無視して階段を降りていく。

降りて行く途中に幾つもの扉がありますが、寄り道する事なく一直線に目的の扉へと向かう。


「どうぞ、中に入ってください。」

「えっ?あっ……こ、此処は?」


並々ならぬ雰囲気を感じたようですがもう遅いですね、あの階段を降りた時点で貴方の未来は変えられなくなったのですから。


「メモリー・ウエウス……」

「おや、この魔道具を知っているとは勉強しているのですね。」


別名、記憶保存装置。

まぁ過去に多くの署名で安全機能が付けられ1人の記憶を全て抜き取る事はできず、矛盾がないよう記憶を少し捏造する無駄な機能が付いていますが今回の使用目的には関係ありません。


「……!」ガタガタ


立てなくなってしまったようですね。


「大丈夫です、命までは取りません。

ただ、貴方の技術と学院について綺麗さっぱり抜き取らせていただくだけです。」


精神汚染を受けた者を一気に消せないだけで1人ずつなら何の問題も無いのですよ。


「な、なぜ私にこれを……」

「それに関しては話しても理解できないでしょうし省きます。

今後の生活ですが、それなりに大きな町で花屋でも経営してもらいましょう。」


新しい教員を探さなくては。

優秀な卒業生で学院に残った研究者から選びましょうか、精神系の研究の論文を書いていた彼女なら対策方法もわかるでしょうし任せてみますか。


「わ、私の研究……」

「安心してください、私が全て見ておきますよ。」 


精神汚染の原因があるか見るだけですがね。


さようなら、凡才だった研究者さん。

貴方の研究はきっと優秀な誰かが引き継ぐでしょう。

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