第133話 厄ネタ

どんな構造なのか、どんな敵が現れるのか、どんな罠があるのか、など人工ダンジョンの情報は知識によって知っており、どのルートが最短なのかもわかっている。

だが主人公がどのルートを使うのかはわからない、重傷を負わせてナニカに動きがあるかを見たいんだが……


ザワザワ ザワザワ


「……はぁ。」


外から聞こえる学生の声が思考を遮る。


「あぁそうだ、今日は学生の入口では無く事務室の近くまで向かってくれ。」

「かしこまりました。」


急に訪ねる形にはなるが、手紙には合わせるとも書いてあった。手紙見せれば直ぐは無理でも昼前に少し時間を作るぐらいはできるだろう。

私も1回で全ての段取りなどを話すとは思っていないし、今日は協力をするのと必要な魔法薬の種類を聞いて終わりにする予定だ。


学長が一緒に研究しませんか?とか言ってきても国王に呼ばれているのを理由に帰ればいい。

絡まれても帰れる最強のカード、だが相手がマトモじゃないゴミの場合は効果無し。


「何やってんだアンタ!!」

「!」


御者の叫ぶような声と共に馬が荒ぶり馬車が揺れる。


ガチャ


「やぁ!ディカマン君やっと捕まえたよ、私が開発した魔法薬があるんだが見てくれないかい?

効果は単純、声を出せなくなる魔法薬!真実を喋らせる魔法薬を作ろうと試行錯誤していたら出来上がりまして、私の弟子の1人が声を出せなくなって効果が判明したんです。」

「……」


暇なのだろうか?

待ち伏せや呼び出しを何回かされており、なんとか全部避けていたが本当に諦めが悪い。


「学長、本日は生徒としてでは無く。」


懐から朝に届いた手紙を見せ付けるように取り出す。


「協力を求められたディカマン侯爵としてここに居ます。」

「……!失礼致しました、ディカマン侯爵様。」


学長という立場だけあって切り替えが早い。

片手に持っていた魔法薬を魔法で何処かへと飛ばし身嗜みを整えている。


「応接室まで案内致します。」

「……」


私から学長にちゃんとした対応を求めたのだが、胡散臭さが増して気持ち悪いな。

真面目な学長の声を聞くとゾッとする。


「まさかこんなにも早く手紙の件で動いてくださるとは思いもしませんでした。」

「少しずつ予定が増えていてな、期限が決まっていない事柄はなるべく早く済ませたいのだ。」

「なるほど、ですがお早い対応感謝致します。」


……まぁいい、あと少しの我慢だ。

なんか我慢してばっかりだな。


「こちらです、今何か飲み物を用意しますね。」


応接室は隅々まで掃除が行き届いている、王族や高位貴族を来客として想定しているのだろう。


「では、まずはイベントの概要を説明させていただきます。」


私の前に紅茶を置き、資料を渡してきた。


「『クラス間技術交流』新入生のみで構成されたパーティーで我々教員が作り出した人工ダンジョンを攻略するイベントです。」


学長の説明を聞きながら資料を読む。

やる事とパーティーを組む際のルール、大体は知識と一緒で大きな変化は見当たらなかった。


「これでイベントの説明は以上になります。」

「ふむ……」


敵は学長の作成したゴーレムで素材ごとに弱点が変わるようだ。

実物を見ていないから何とも言えないのだが、殺傷能力の高い攻撃手段を持つゴーレムが多い気がする。


今思えばイベント後に授業を受ける人数が少し減ったような描写があったのは、怪我の影響で休んでいたからだったのか。


「手紙に書かれていた魔法薬の支援は構いませんが、どのように使用する予定で?

生徒全員に配るのか、救護室でのみの使用になるのか、それによって準備時間と費用がだいぶ変わります。」


いくら安全のために緊急停止や深追いをしない設計になっているとはいえ、このゴーレム達の攻撃をマトモに喰らった場合、辺境伯にすら少量しか卸せていない強力な魔法薬が必要だ。

冷静に対処すればそれなりに流通している最下級の回復薬でも時間をかければ治療は可能、だが怪我をした学生が冷静に対処できるとは思えない。


「基本的には救護室、教員が携帯し緊急時に対応できるようにする予定です。」

「わかりました、では魔法薬の数を──」

「少しお待ちください。」


それならば簡単に準備できる、と話を進めようとしたとき学長に遮られた。


「今回の協力は教員達の希望で教会に頼もうかと考えておりました、

どんなに気をつけていても事故などで魔法薬では対応できない怪我をする可能性もある、それが教員達の主張です。」


その言葉に、なら最初からそっちに頼めと不快感が湧き出てくる。

だが教員達の希望という部分が気になる、学長は教会に頼りたくなかったのか?


「教員達は教会に払う金額を考えていないんですよ。最高峰の回復魔法の使い手である聖女に魔法さえ見れればいい、とね。」


聖女の回復魔法をかすり傷程度の怪我にまで使われたら金がいくらあっても足りない、毎月かなりの金額が入る学院とはいえ痛い出費だろう。


「それで、私に何をして欲しいのですか?」

「教会の聖女と力比べを行って欲しいのです。」


はぁ……


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