第132話 呼び出し×2

「もう朝か……」


夕食後、図書室から持ってきた本を読み内容と知識の擦り合わせ行っていたら気づいたら朝になっていた。


「【クリーン汚れよ落ちよ】」


昨日はミナと喫茶店に行き、息抜きができたとても良い日だったが、今日からは学長とかゴミを避けながら図書室で調べ物をする日々が始まるだろう。


シャッ!


「いい天気……は?」


外の空気を吸おうとカーテンを開くと屋敷の入り口に2台の馬車が止まっているのが見えた。

片方は王家の紋章が刻まれ、もう片方は外見から学院の物だとわかった。


「いや待て待て、確か約束は無かったよな……?

陛下と宰相閣下ならはわざわざ馬車で来るわけがない恐らくなんらかの連絡だ、学院は正直わからないが焦ることじゃないだろう。」


ふぅ、よし。

取り敢えず冷静に対応して用事を聞こう。


ガチャ


「ヒャッ!」

「すまないミナ、大丈夫か?」

「大丈夫です、少し驚いただけですので。」


私が扉を開けるのと、ミナのノックのタイミングが重なり驚かせてしまったようだ。

転びはしなくとも息が乱れている。


「えっと、おはよう、ございます……

それで、えと……」

「まずは深呼吸だ、落ち着け。」


これは驚きだけじゃないな、走ってきたんだろう。


「来客の件か?」

「そうです!王城と学院からディカマン侯爵宛ての手紙を預かっております。」


2通の手紙を受け取る。

手紙を預かるだけという事は、手紙では書けない直接話さなければいけない内容か。


「ありがとう。

朝食の時間は遅らせるのと、もしかしたら直ぐに王城か学院に向かうことになるだろうから、今日1日はマリアの近くに居てやってくれ。」

「かしこまりました。」


ミナを見送ってから再び部屋に戻る。

優先順位の高い、王城からの手紙を開く。


『王城に来ること、時間は昼以降ならいつでも構わないが今日中に来なさい。色んな意味でヤバイ人がイラつく可能性があるので最低でも夕食までに来ること。

ミゲアル・ヴァレーゼン』


「……今すぐにでも行って、用事を速攻で終わらせたい。」


色んな意味でヤバイ人って誰だ。

この手紙を書いた宰相が注意するぐらいヤバイ人って……


王城からの手紙は返信の必要は無さそうだが、既に全ての用事を投げ出して王城に駆け付けたいぐらい戦慄している。


「はぁ……」


なんとなく厄介事の香りがするもう片方の手紙も開く。

手紙は2枚、始まりは嫌というほど読んだ社交辞令だったので即捨てる。


『我々学院では新入生の初めてのイベントとして『クラス間技術交流』を行っており、そのイベントの為に魔法薬の名家であるディカマン侯爵家の協力を得たくご連絡させていただきました。

つきましては話し合いの時間を設けて頂きたく思います、ご都合の良い日に我々が合わせますので学長と教員による説明と話し合いに行きます。』


もう片方も懇切丁寧に長々と書かれていたが要約するとこんな感じだ。


「魔法薬の支援か。」


知識によると『クラス間技術交流』は学院の一角を魔道具と魔法を駆使してダンジョンに変え、最低4人最高8人でパーティーを組み攻略する遊びのようなもの。

だがパーティーを組むとき、同じクラスの者は自分含めて2人までとった細かいルールがそれなりにある。


遊びのような、と言ったが人口であるもののダンジョンであるために怪我をする。

切り傷程度なら包帯で済むのだが、どんなに教師陣が気をつけていても最悪の場合がある、その保険として魔法薬を求めているんだろう。


ディカマン家の名前がなければ回復薬は使えず、高い金を払って協会に頼むしかなくなる。

今の学院にはあの人形様、もとい聖女様がいらっしゃるからな。


「さて、午前中に学院を片付けて即帰宅し王城へ行く準備だな。」


そういえば聖女は成長しただろうか?

まぁ、あの程度の言葉で変わっていたら苦労しない。ただ聖女が貴族を侮辱したとの噂は流れてこなかったし、主人公と出会った揉め事は起こさなかったのかもしれないな。


「行くか。」


学院の制服に着替え、使用人を探す。

執事に連絡が行けば誰でもいい、適当に近くに居たメイドに声を掛けて学院から帰宅後に王城へ行くための準備をするよう伝える。


「あぁそうだ、回復薬と強化薬の完成品を持っていこう。」


最高品質の物を見せて学長が興奮したらとても面倒、馬車へと向かう前に研究室で数種類の魔法薬を取っていく。


朝食は抜きでいいし、今日は動きが激しいだろうからミナはマリアと一緒に居てもらおう。


「おはようございます、カリル様。」

「あぁおはよう、馬車の準備は?」

「車輪の整備も馬の体調も問題ありません。」


御者はミナの姿が見えないことに不思議そうにしながらも馬車の扉を開けた。


「今日は学長と話をしたらすぐに戻る、いつでも出れるように準備しておいてくれ。」

「かしこまりました。」


また忙しくなって来たな。

だが忙しいだけで進捗は無いようなもの、国王を弱体化させた相手もわからいまま。


やはり今回のイベントで動くしかない、か……


「陛下達に説明するためにも計画を立てるか。」


幸いなことにイベントに協力者として関われる、多少は事前に情報を握れるはず。


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