第130話 クッキー

「あ……む。」


甘い。

果物の甘さよりかかってるソースとクリームに使われている砂糖の甘さが目立つ、でも今まで食べたどんな果物より甘くて美味しく感じます。


「美味しいか?」

「はい、とても……」


一度途轍もない罪悪感に襲われたから大分冷静になれてます。


「シェアすると言われた割に、意外と量は少ないのだな。やはり恋人同士の雰囲気が売りなのだろう。」

「恋人……!」


ダメですカリル様、冷静さが無くなってしまいます!


「上に乗っているこの大きなビスケットはどうやってシェアすればいいかわかるか?」

「は、はい?!」


急に来る質問、また恥ずかしくなってる時に来るのは反則です。

深呼吸、深呼吸……


「恋人同士が食べるのなら、ハート型だから割るのは避けたほうがいいだろうが……しかし難しいな。」

「そ、そうですね。

一口で食べれるサイズなら割らなくても大丈夫なのですが……」


緊張している私の頭では考える事なんて出来ません、でもカリル様に聞かれたから頑張って考えてます。


「ふふ……」


大きなビスケットを一口で頬張るカリル様を想像してしまいながらも、食べる方法を考える。


んー、例えば、


「割らなければいいなら、半分食べて相手に渡す、とか?」


なーんて、あまり聞かないで──


「ふむ、確かにそれが正解かもしれないな。」

「えっ?!」


自分で言ったから変にダメと言えませんが食べさせ合いはそれなりにあっても、それを外でやってる恋人ほとんど居ないですカリル様!


「ん?良い案だと思ったが、普通はやらないのか?」

「ど、どうなのでしょうか……?」


ひ、否定できない!

この場で自分から言い出しておいて、普通はやらないとは言えない!


「まぁ、やってみるか。」

「うぇ?!」


サクッ


……カリル様がビスケットを食べる時間がとても長く感じます。

流れ的にこのあと私はカリル様から半分になったビスケットを渡され食べる事になるでしょう。


ですが本当に食べて良いのでしょうか?


「これぐらいか?……ミナ?」


元婚約者があんまりな感じでしたので仕方ないですが、普通の恋人に拘っている気がします。

ならば普通は外ではやらないと伝えるべきなのではないでしょうか?


そう、使用人として伝えるべき!


「……あの、カリル様。」

「おぉ戻ってきたか。

ビスケット自体が少し無機質な味だったからパフェの上にあった果物とクリームを乗せてみたんだ、食べてみてくれ。」

「……」


まぁ、食べてから伝えるでも別に良いよね。


「では──」

「あっと、バランスが悪くて、すまないが直接食べてくれ。」

「?!?!」


カリル様の手から直接……


「いただきます。」


あり得ないと思っていた事が現実になると急に冷静になるんですね。

多分無意識で何も思わない、考えない、感じないようにしているんでしょう。なんかちょっと暑い気がしますが……


「んむんむ……む?」


はい、ちょっとクリームが甘すぎます……

さっきよりも甘いのに口の張り付く感じがしてヤバイです。


これは雰囲気パワーではないです、冷静になって気づく砂糖の暴力です。


「その反応を見るにミナも甘いと感じたか。」

「というと、カリル様も?」

「あぁ甘すぎるな。」


使用人の視点で言わせてもらえば、この砂糖の使い方は勿体無いという気持ちが強いです。

もう少し工夫すればもっと美味しくなるでしょうし、砂糖の使用量を減らせば料金も減らせて今より注文しやすくなると思いますね。


「なんだかこのパフェを作った奴に怒りが湧いてきた。」

「えっ?!」

「せっかくミナと来たのだから、最高とはいかなくとも美味しい物を食べたかった……」

「……」///


せっかく冷静になってきたのにカリル様は凄いですね……


「はぁ、取り敢えず帰るためにも食べるか。流石に残すのは申し訳ない。」


そう言ってカリル様は普通に食べ始めました、私に差し出していたスプーンで。


「コーヒーが欲しくなるな。」


どんどん食べ進めていくカリル様。

ちょっと意識して緊張しないかな?なんて少し期待してたんですが全く動じてない、流石です!


それはそれとして苦しそうなので私も食べまなければ。


「そういえばミナはお菓子を作れるんだったよな?」

「む?はい、簡単な物なら作れます。」


作れてそこそこ自信があるのはクッキーとクッキー、それとクッキー。


「では今度何か作ってくれないか?」

「あ、あの本当に簡単な物ですが良いのですか?」

「あぁ構わない、ミナが作るなら美味しいだろうからな。」


クッキー……


「ありがとうございますぅ……頑張ります……」


あぁクッキー、私は貴方をカリル様が満足できるレベルにまで美味しく作る事ができるでしょうか?

もしも微妙な出来だったら恨みますよ、私。


「さて、もうひと頑張りだ。」


カリル様との2人きりの楽しい時間ですが、甘さの苦行となっている元凶であるパフェは半分くらい残っています。


楽しい時間が永遠に続いてほしい気持ちと、苦しい時間が早く終わってほしい気持ち、その両方が湧き出て複雑な気持ちです。


でも、


「どうした?」

「いいえ、なんでもありません。」


私の希望も混じっているかもしれませんが、2人で過ごすこの時間が最近でカリル様が1番楽しそうにしていたのがとても嬉しかった……





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


お待たせ致しました。

甘めを書くのが楽しくて話を進めるか悩みながら書いていたら、結局全く進まずに終わりました!


次回はちゃんと進みます

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