第129話 シェアパフェ
注文から少し経った。
「ふぅぅ〜、すーー、ふぅぅ〜〜」
「落ち着いたか?」
「はい、なんとか……」
顔から大分赤みが引いたミナが深呼吸をして平常心を取り戻そうとしている。
「カリル様、1つだけハッキリ言っておきます。」
「なんだ?」
真面目な雰囲気を出して話し始めたミナに対し、私も真面目な表情を作った。
「私は相手を痛めつける趣味は無いです、興味も持ってないです。」
「……ふむ。」
いや、あの『拘束のススメ』を読もうとしている時点で少しだけ興味があるとしか思えない。
キッカケが他の使用人だったとしても、興味無いって言い切るのは少し無理がある。
「し、信じてくれてますか?」
「……あぁ、もちろんだ。」
「絶対に信じてないですよね?!」
なんと言えばいいのかわからず、取り敢えず信じたと伝えてみたがダメだった。
顔が赤いのに加えて涙目まで追加されてしまった。
「すまない、正直に言うとノールのようになってしまうのではと疑っている。」
「ですよね?!」
頭を抱えて『どうしよう』と焦っているミナ。
どうしようもない、女王にならない証明方法など私は思い付かないしう、私はミナが女王様化しないか心のどこかで心配してしまうだろう。
「どうにか……どうにかして私が普通だと証明します!ノールちゃんみたいに鞭で縛られた男の人を叩く事なんて無いと!」
「そうか、頑張れ。」
アイツそんな事まで人の眼があるところでやってたのか。
目立ちたいのか目立ちたくないのかわからん……
というかナーミスは何故娘の狂った行動を止めないのだろうか?
ナーミス自身も女王としての素質はあったが外には完璧と言っていいほど隠して、ノールの女王様化初期の頃は叱ってもいたのにな。
「お待たせ致しました!」
さっきの店員とは違い、テンションの高い店員が注文の品を持ってきた。
だがその運ばれてきた品は赤と白の色が絡み合ったような見た目で少し大きめのパフェ、スプーンは2つ付いていた。
「こちらお二人でシェアしながら食べていただく特別なパフェとなっております。」
「「……!」」
馬鹿な!
この店は一体なぜこんな……
「是非楽しい思い出を。
それでは失礼致します。」
「「…………」」
どうしてくれるんだこの空気。
しかも私がコレを望んで頼んだみたいだし、さっきまでしてた会話のせいもあって本当に気まずい。
「───なのでは?!」
「ん?今なんて言った?」
「いいえ、わかりましたよカリル様!私やります!」
混乱しながらも何かを理解してテンションが上がったらしく、スプーンを手に取りパフェへと近づけた。
──ミナ視点──
こんにちは、カリル様にすぐにでも解きたい勘違いをされてしまったミナです!
まさかカリル様にとても不名誉な勘違いをされているとは思いませんでした。
なんですか誰も縛ってないだろうって、それはそうです、此処は外なんですから。
一部の屋敷の人が人目を気にしないヤバい人なせいでカリル様も恋愛についての常識が崩れつつあります。
色々考えるのは置いておいて否定だけしないと!
「……ふむ。」
反応的に絶対に信じてくれてない!
カリル様の優しい目に心なしが生暖かい感情が混じっている気がします、まるで言い訳してる子供を見てるような視線です。
私がノールちゃんみたいに男の人を痛めつけて喜ぶような人じゃないって証明しないといけません!
カリル様にそんな勘違いをされてしまえば私は……
「お待たせ致しました!」
どうしようかと考えていたら店員さんが入ってきました、カリル様が何か注文を……
こ、これは!
「こちらお二人でシェアしながら食べていただく特別なパフェとなっております。」
恋人がお互いに食べさせ合うパフェ。
此処にいるのは私とカリル様、つまり私とカリル様がこのパフェを食べさせ合うということ?!?!
「是非楽しい思い出を。
それでは失礼致します。」
ほ、本当にいいのでしょうか?
カリル様に私がパフェを、私がやっても良いのですか?!?!
いや待って、もしかしたら
「カリル様が認めた私に対する試練なのでは?!」
嬉しい、今だけとはいえこのような関係になれるとは思ってもいませんでした。
「ん?今なんて言った?」
「いいえ、わかりましたよカリル様!私やります!」
長めのスプーンを手に取ってパフェを取る。
あのサンドイッチが少し微妙な感じだったので味は期待しませんが、この雰囲気だけで今まで食べたことあるパフェより間違いなく美味しいです。
「どうした?食べないのか?」
「え、えっと……」
ダメです、腕が伸びません!
それどころか顔を手で隠したくなってしまっています!恥ずかしいです!
腕が震えてスプーンの上で果物が踊ってる。
「どうぞ!」
覚悟を決めて、目を瞑りながらもカリル様へ向かって腕を伸ばす。
ベチャ
「あっ。」「えっ……?」
何かが落ちる音と嫌な予感、恐る恐るも目を開けると机の上に果物が落ちていた。
「あああぁぁぁぁぁ……」
やってしまった、一部とはいえカリル様が頼んでくれたパフェを無駄にしてしまった……
恥ずかしいという感情が一気に冷め、途轍もない罪悪感に襲われて涙が出てきた。
「大丈夫、そんなに気にするな。
ほら、食べるといい。」
「ふぇ?」
涙で霞んで見えずらいけど、私の目の前にカリル様がスプーンに乗った果物を近づけていた。
「私側にも同じ果物があってな、落としてしまったのはミナがくれた果物を受け取れなかった私の責任だし、気にせず食べてくれ。」
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