第127話 拘束のススメ

「座っても良いですか?」

「あぁ、自由に座ってくれ。」

「失礼します。」


ミナも既に読みたい本を見つけていたようで、腕にで本を数冊持っており、その中の1つの本を開く音が聞こえた。


『グルヴゥゥゥ』

「「……?」」


少し経つと飢えた獣のような泣き声が聞こえ、私は自分の読んでいた本から視線をミナへと向ける。


「今のはなんだ?」

「えっと、本から牙が出てきて、鳴き声もそこから……」


どうやら鳴き声の原因である本を読んでいたミナ自身も困惑しているようでいまいち要領を得ない。


まぁ、人の皮で出来た本が適当な場所に放置されているやばい図書室の本だし、飢えた獣の鳴き声ぐらい聞こえてもおかしくはない……


「その本を読むのは辞めておけ。」

「そうですね……」


待てよ?

鳴き声の本は例の呪術霊魂のようにヤバいタイトルが付いていらのだろうか?


「ちなみにだが、その本はなんというタイトルだったんだ?」

「『魔物に有効的な魔法戦闘』という本です、カリル様のおかげで魔法は使えるようになってきたので、戦闘を行えるようにと。」

「ほう、では今度魔法を実際に見せてくれ。」

「はい!」


イヤリングを渡してから魔法の訓練を受けてもらっている自身の魔力量がかなり増えているのには気づいていたが、最近は忙しくどれだけの腕前になったのか確認していなかった。

今度魔法を自由に使える会場の予約をしておこう。


「他のも魔法戦闘用の本か?」

「そうですね、1冊を除いて『水系統魔法応用 氷』『魔力壁の効率化実験記録』という魔法戦闘関連の本です。

最後の1冊は『拘束のススメ』です。」

「そうか……ん?」


全て魔法関連、つまりは勉学の本のみで娯楽関係の本が無かった事にミナの優秀さはこういう細かな部分で努力しているのだな、と感心していたのだが最後の1冊のタイトルに寒気がした。

まさか、ミナまでノールの女王様化の影響を受けてしまったのではと。


「ちなみにだが、その『拘束のススメ』という本を選んだ理由を聞いてもいいか?」


私の質問にミナは何故そんな事を聞くのかと不思議そうにしながらも答えてくれた。


「使用人友達が告白された時『好きです、ぜひ縛ってください!』って言われたらしくて、私も最低限知っておいた方がいいのかなと思いまして。」

「……」


純粋なミナを汚してくれた使用人が居るみたいだな。おそらく豚の誰かだろうが見つけ出してクビにしてやる。


「なんと言えば良いか……

もし、そうもしミナがその言葉と共に告白された時、相手を縛れるようにしたいのか?」

「えっと、まぁ相手にもよりますけど……」


ヤバい、涙が出てきそうだ。


「これから出掛けるぞ。」

「えっ?」

「こんな本を読んでいる暇は無い、早く行くぞ。」

「は、はい!」


特殊な豚ではなく、普通の恋人がどのような行動をするのかをミナに教える必要がある、と言っても私が知っている恋人同士の行動は本と僅かな情報からの想像でしかない。


「どこに行く予定なのですか?」

「学院近くにある人気の喫茶店だ。」


着く頃には少し混んでいるかもしれないが、料金を払って広めの有料席を借りればいい。

ミナが変な方向に進まないようする為の必要経費だ。


これから行く恋人同士に人気の喫茶店で普通の恋人の観察をし、一般的に普通の行動を学ぶのだ。


「この本は戻した方がいいですか?」

「図書室がちゃんと整理されていれば戻した方がいいが、また読みに来るしそのままでいいだろう。」

「そうですね!」


さりげなく『拘束のススメ』だけを読めないよう適当な場所に置き、目を通していた本をアイテムBOXにしまって図書室から出る。


絡まれる事なんて気にせず、堂々と一直線で出口へと向かう。

途中私を見かけた者達が近づいてきたが、私の顔を見て固まり離れていった。


「あの、どうして急に喫茶店に行こうと思われたのですか?」

「行く理由、それは勉強のためだ。

これから先の生活が楽しく平和か、悲しみに溢れた地獄、そのどちらかに変わる可能性があり、今後の生活が喫茶店に掛かっている。」

「これからの生活、が……?」


ミナが女王様化とか考えたくない。

やる気を無くして主人公を適当に処理し、他の敵対者も王国の後先を考えずに滅ぼす未来が見える。


まぁ、国王と宰相に止められるだろうがな。


「私もカリル様のために頑張ります!」

「そもそも今回の主役はミナ、君だ。」

「えっ?!?!」

「私の今後の生活はミナに掛かっている、頑張ってくれ。」

「えぇ……わ、私に何があるのですか?」


私の精神衛生上、良くない事態になることは避けなくてはならない。


「あぁ、頼んだぞ。」

「が、頑張ります!」


その後、共に喫茶店に向かう道中でミナが私にギリギリ聞こえない程度の小さな声で何かを呟いていた。


「もし───デ──?」

「ん?顔が赤いが大丈夫か?」

「だ、だだ大丈夫です!」

「本当に大丈夫か?」

「んんーーー!!」


真っ赤になった顔を両手で隠し軽く俯きながら早歩きになってしまった。

私は置いていかれないようミナの速度に合わせた。

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