第126話 僅かな変化
歴史関連の本は3冊ほど見つける事が出来たが、大罪に関わりそうな本は見つからなかった。まぁ大罪に関してはそこまで期待してはいなかったし別にいい。
それに技術や魔法関連の本は意外と充実しており、今回は持ってこなかったが気になるタイトルも多く、暫くは通って気になる本を読破したくなる。
だがその前に、
「汚いな、【
汚れていた椅子と机を魔法で掃除し、手に持っていた本を置く。
「どれから読むべきか。」
歴史を詳しく調べてからだ。
やはり最初は『英雄と王国における平民の変化』という今この瞬間のためだけにあるのでは無いかと思うほど私の知りたい事を知るのに適した本。
「『英雄とは平民の暮らしの質を向上させ、虐げられた者を解放した。
だがその一方で王国にとっての不利益も齎し、一時期は他国からの侵略を許してしまっている。』
……少しぼかしているが英雄の真実が書かれているな。」
かなり汚れた本だが、父上が学院に入学するぐらいに出た本でそこまで古い物ではない。
値段はわからないが、この本の番号が92番目と100冊近くという多くの数が出回っているのは間違いなく、読んだことがある者もいるだろう。
「だが英雄の評判は良い事尽くし、他国に奪われた領土に住む王国の民がどのような扱いを受けるか知らないはずが無いのにも関わらずだ。」
このような歴史が書かれた本を持つ者は村で子供達へ一般常識を教えたり、研究しながら教師の真似事をする者が多い。
つまりは正しい歴史が広がるはずで、いくら平民からみて素晴らしい事をした者だとしても、英雄の評判が良いだけになるのはおかしい。
知識の歴史と現在の評判は完全に一致したが、本では負の面が強く書かれている。
矛盾。
僅かな変化にも思えるが、多くの平民に変化を与えるなど並大抵の者には出来ない。
それこそ国王や宰相が何十年も掛けて印象操作すればなんとかといったところだろう。
英雄をゴミと呼んでいるあの2人がわざわざ操作する必要は無く、教会などの第三勢力が操作しようと動いたとしても傲慢の力で国中を把握していた国王がそれを許さない。
「はぁ……」
物語通りに進めようとしているナニカを感じる。
それが人であるなら排除すればいいだけの話、だがもしもそれを行っているのが世界なら排除のしようがない。
私と言う個が存在しているのは世界、その世界に逆らうことは出来ない、抵抗の意思すら持たせてもらえず本来の悪役という役割をやらされるだろう。
だが、
「現状、完封とは言えず、御世辞にも良い状態とも言えないがある程度の優位は確保できている。」
全てが物語通りに進むのなら、今マリアは家出をしているし、ディカマン家には使用人は殆ど残っていない。
主人公は学院の人気者で、私は学院の生徒にコソコソと噂され嫉妬している。
つまりそのナニカは世界ではない、他の力を持ったナニカということ。
世界ではなく力を持ったナニカ、国王の傲慢から逃れ平民達の英雄に対する印象を操作出来る個人か集団。
大罪の能力を弾く。
同じ大罪や主人公のように国王が違和感を覚える塗り潰したかのように把握出来ない弾きかたでは無い、国王が違和感を感じない程度まで自然に自分自身と操作しているという情報のみを弾く。
そんなことが出来るなんて控えめに言っても化け物だ。
ダンッ!
「なんなんだ、この気持ち悪さは……!」
自ら考えた事なのに気分が悪くなる、机に手を叩きつけた音が静かな図書室に響き渡った。
「はぁ……」
この仮説が正しかったとして。
後々の事情を全く考慮しないのであれば、ナニカにとって全ての中心である主人公を消せばいいだけのこと。
それが出来ないのはナニカが隠れる可能性が高いから、国王と宰相が全力で調査しているのにも関わらず特定ができない相手、隠れられれば見つけるのは不可能に近い。
「奴に関しては現状維持、か。」
幸いな事に主人公は毎日狂ったように剣を振り続けているから、行動を把握しやすく監視は簡単だ。
だが放置は問題だ、邪魔だし害しかないからな。
「ナニカをどう引き出すか。」
今まで正体を隠し続けた相手が表に出るとしたら、決着の時か深刻な問題が発生した時のみ。
中心である主人公が大きく動きそうなタイミング……知識の中での学院入学後、1番最初の大きなイベント『クラス間技術交流』が利用しやすそうだ。
「……考えがズレた、私の悪い癖だな。」
まだもう少し時間があるイベントについて一度考えるのを辞め、今やるべき事のために本を読み進める。
英雄が与えた悪影響、平民の意識の変化、王国の弱体化、知識と現実を擦り合わせ正しい情報へと変えていく。
「カリル様。」
「……!ミナか、どうした?」
そのまま本に集中していた私にミナが話しかけてきた。
「えっと、私のところまで物音が響いてきたのでカリル様を探していました。」
「あぁ、あれは本を落としてしまった音だ。怪我とかはしていないから安心してくれ。」
「それなら良かったです。」
いくら広い図書室とはいえほぼ無音、机を叩く音はミナにも聞こえるぐらい響いていたようだ。
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