第124話 不思議な娘
目の前にいる濃い水色の髪を持つ少女、クレナ・ブランはブラン子爵家の長女。
知識によれば魔法で家業であるブドウ畑の3分の1を焼失させ、契約を結んでいた商人を怒らせその商人の息子と婚約する羽目になった少女。
それだけならただの自滅だが、燃やした経緯に商人が手引きした魔物が畑を荒らしており退治するために行ったという経緯が存在する。
簡単にいえば商人に嵌められたんだ。
知識には商人の姿絵もあったが見た目だけでも不潔で不快な相手で、クレナがどうにか婚約を避けようと力を手に入れるため図書室に入り浸っている理由もわかる。
「まぁ貴方はブドウ畑の火事でそれなりに有名人なので。」
「……そうなんだ。」
クレナは婚約を避けたいと願っていても、避けることを諦めている。
何処ぞのクソ女と違って貴族の婚約を納得は出来ていなくても、ある程度理解しているのだ。
「貴方は?」
「ん?」
「貴方の名前、私だけ知られてるの不公平。」
「逆に知らなかったのか……」
私は今この王国で1番話題になっている貴族だと自負している。
貴族関係者だけでなく、入学2日目で起こした決闘の件で学院に通う者なら知らぬ者は居ない、はずだった。
「私みたいに何かやらかしたの?それとも自意識過剰?」
一言多い。
「私はカリル・ディカマンだ。ディカマン侯爵家当主だよ。」
「へー、侯爵だったんだ……
あっ、これは失礼致しました。」
「別に良い、堅苦しい挨拶は聞き飽きている。」
「そっか。」
掴みどころのない不思議な奴だ。
だが知識だと力を手に入れるために本を読む以外には時間を使っていない。
それに主人公との初邂逅時の会話的にわざわざ人に近づいて会話をするとは思えず、本のタイトルを確認しながら歩く私に付いてくるのはおかしい。
「何故付いてくる、貴方も用があったからこの図書室に来たのでは?」
「特に何も、強いて言えば図書室なら人が来なくて静かだからかな。」
「ん?そうか……」
ちょっとした違和感を感じた私はクレナと眼を合わせる。
「なに?」
「……」
余裕がある?
余裕ない人間はどれだけ隠そうとしても眼を見ればわかる、だがクレナの眼には焦りもなく余裕すら感じられた。
「……照れる。」
「そうか、急に見つめてすまなかったな。」
「なんかムカつく。」
まさか状況が変わっている?
「あっ、ついて行く理由は久しぶりに人と会話したかったから。」
「それならちゃんと教室に行くといい、会話する程度の友人ならできると思うぞ。」
「それは嫌、面倒。」
「……私は貴方の相手をするのが面倒に感じた、早く私から離れろ。」
仮に状況が変わっていようが主人公に手を貸そうとすれば敵として判断するのは変わらない。
味方に引き込めるかは別として、クレナは操りやすい聖女とは違う、裏では自分の利益を考えどのような行動をするのか予想が少し難しい。
あまり仲を良くし過ぎるのも問題だ。
「わかった、私も本を探すのを手伝うからタイトルを教えて。」
「何もわかっていないな、早く消えろ。」
雛鳥のように私の後ろに付いてくる。
「私だって偶には人と会話したい。
わざわざこんな場所で探すぐらいだから、きっと見つかるまでは通うでしょ?つまり先にタイトルを聞き出してみつけておけば、私が本を渡さない限り会話相手を手に入れられる。」
「普通に最低だな。」
かなりの頻度で話しかけてくる分、雛鳥よりタチが悪い。いや、雛鳥は生きる為の行動でありクレナと一緒にしては失礼だな。
まぁしばらく放置すれば飽きてどっかに別の場所に行くだろう。
──少し経って──
「探してるのは図鑑系じゃ無さそうだし、貴族なのを考えれば経営関係の本?そうだ、魔法薬関係の可能性もあるか。」
「……はぁ、わかった降参する。」
私の考えが甘かった。
一切反応していなかったのにも関わらず、クレナはずっと話し掛けてきた。
好きな本の話から、初めて使った魔法、ちょっとした身の丈話まで永遠と休みなく話し続けており、無視されてもなお話し続ける姿に呆れるを通り越して感心してしまった。
「よく分からないけど勝った。」
「正気か?」
「うん、それより勝ったから探してる本のタイトル教えて。」
「呪術関係の本だ。
人を遠くから操る呪術を見る機会があってな、その対策をしれればと思ったんだ。」
嘘の内容を伝えておく。
大罪の情報がわずかでも主人公に漏れたら嫌だからな。
「……どうしよう、予想の倍は重そうな内容に笑えない。」
「安心しろ、もう解決している。」
「でもそんな呪術が蔓延したら危険すぎる。
気付かないうちに貴族家の乗っ取り、最悪の場合国すら私達の自覚なく乗っ取られる。」
強力な呪術の大半は師匠から弟子に継がれていく、代を重ねるごとに強力になっていく呪術は命を消費している、なんて噂もあるぐらいだ。
貴族の中でも呪術を使う者は排除したいと考える者が多い。
クレナはおそらく排除派、国の事を考え私に協力しようとしている風だが内心で何を考えているのか本当に読めない。
「手伝う。」
「いらん。」
「私も貴族、だから手伝う。」
「本気で要らない、帰れ。」
そもそもだ、
「お前はブドウ畑を燃やした借金の返済方法でも考えておけ。」
「ふふん!」
……何故そんな自慢する時みたいな顔をしているんだ。
ブドウ畑を燃やしたことを自慢してるのか?
「借金相手の商人はローロフ家に粛清された、つまり借金はチャラ。」
「……そうか。」
やはり少し変わっていた。
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