第121話 許可

腐ってもこの世界の主人公、最大限に警戒してあれこれ考え準備していた。

なのにいざ実際に決闘が終わってみると本当に呆気なく、主人公に勝てたという安堵よりも、終わりなのかと虚しさを感じ今までのやる気が無くなった。


今は準備をしていた待機室でタオルを顔にかけ椅子に座って過ごしている。

貴重な魔道具はアイテムBOXにしまってはいるが、着ていたローブは適当に置いてあったりと雑な扱いをしてしまっている。


コンコン


「空いてるので自由に入ってくれ。」

「失礼します!」


誰かの確認もせず入室許可を与えた。ミナだったから良かったものの、悪意を持つ者だったら危険だな。

少し気が抜けすぎている。


「決闘お疲れ様です!カリル様の圧勝でしたね!」

「そうだな。……相手は生きてるのか?」

「カリル様が会場から出た後、救護の人員の中に教会の服装の人が何人かいたのでお金払って回復魔法を使って貰う予定かと。

なので、恐らくは生きてると思います……」


あの重傷具合でそれなりの規模の爆発を至近距離で受ければ、普通なら即死、生きていても昏睡状態になるだろう。

だが学院にいる聖女の回復魔法を使えば……


「腕も生えるだろうな。」

「え?」


あの考える事をしない聖女でも可哀想という感情はある、そんな彼女は腕を治すために主人公の元に行くだろう。

後ろに金を要求する従者を連れながら。


「はぁ……」


既に知識にある学院でのストーリーは破綻した。

それならば主人公の勢力になり得る邪魔な聖女は消しても問題無いのではないだろうか。


主人公の今後を考えれば、片腕のままの方が成長の機会を妨害できるのに加え、敵対しても簡単に屠れる。

その優位性を無くす聖女は邪魔だ。


「ミナ。」

「はい、なんでしょうか?」

「聖女を消し──いや、急に失踪したとしたら、ミナはどう思う?」

「む、難しいですね……」


ミナへの直接的な表現は避けた、情報が漏れるとは思っていないが盗聴魔法対策のためだ。


「えっと、失踪したことに誘拐かな?とは考えるかもしれないんですが……私は聖女に対しては何も思わないかもしれません。」

「意外だな。」

「そうでしょうか?」


あの聖女は私にとってあまり好ましい者では無なが、民達にはそれなりに人気のある存在。

そんな正常がが失踪すれば多くの者が心配し捜索する、特に何も思わないというのはだいぶ珍しい部類だろう。


「あっ、もちろんカリル様が失踪なされたら全力で捜索致しますし、心配で一睡も出来なくなっちゃうと思います。」

「気持ちは嬉しいが心配になるから寝てくれ。」


気持ちはとても嬉しい。


ふぅ、いつまでもこの場で項垂れている訳にはいかない。そろそろ帰るか。


「若いって良いですね〜。

ちなみに、聖女が失踪したら私は祝杯をあげる予定ですよ。」

「はぁ……」「!!!」


毎度恒例となりつつあるいきなり現れる宰相、私は慣れ溜息を吐いたがミナはびっくりした表情で固まってる。


「調査に進展があったのですか?」

「いえ、カリルが例のゴミと決闘すると聞きましたね。そんな面白そうなこと見逃せる訳がないじゃないですか。」

「そうでしたね……ミゲアル宰相なら見にきます。」


無様な姿は晒していない筈だが、自分でも気づけていない姿があるかもしれず不安になった。


「奴と実際に戦ってみてどうでしたか?」


そう聞きながらも頻繁に時計を確認している、どうやら時間はあまり無いみたいだ。


「戦闘能力という面ではかなり弱かったです、例えるなら一角兎を倒せるレベルの農民と同等かと。

しかし魔法薬に対する耐性だけは化け物、それは戦闘能力と比例せず不快で気持ち悪かったです。」

「概ね同意見ですね。」


腕を組んで目を瞑った宰相が続ける。


「会場に溢れたカリルの魔法薬に触れてみましたが、身体が弱ければ死んでもおかしく無い効果を齎します。

あのゴミの耐性が異常なのが血筋なのか、それとも魔道具による強化なのか、詳しく調べる必要がありそうですね。」

「……」


この流れは……

途轍もなく嫌な予感がする、本当に嫌だが私から奴に絡みにいく最悪の未来が見える。


「ゴミの監視と調査は任せます。

そして私はゴミの排除に賛成しますので、面倒になったら殺してしまいなさい。」

「お任せください。」


私の顔はとても良い笑顔を見せていることだろう。

満足そうに頷いた宰相が部屋から出る途中、ドアノブに手をかけながら言った。


「そうだ、遅くなりましたがイーウェル公爵を捕らえました。

陛下による制裁のあとイーウェル公爵家は無くなりますので、あの女も無礼な真似をしてきたら消しても良いですよ。」


こうして主人公との決闘は勝利と2人の邪魔者の殺害許可を得て完全に終了した。










──???視点──


与えたのは失敗だったか?

否定 儂は楽しかった


ならばこのまま最期を見届けるか?

否定 いいや、もう飽きてきた


では剥奪するか?

肯定 新たな器を見つけられれば


候補はあるのか?

肯定 意外と近くにある


それは良かったな。

肯定 あぁ幸運だった、だがまだまだ脆く育てる必要がある


質問 アレは我が──の──だが「うよいあのたまやさ………

力が弱まりその会話は現在不可能である、が言いたい事は伝わった


悲劇 力を取り戻すのが急務


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