第120話 決闘 後

『アレはおそらく魔法薬、空気と触れることで霧となりなんらかの効果をもたらしています。

解析したい。』

『おい、マドウグがキドウしてるぞ。』

『おっと。』



「ハァハァ……」


私の蹴りが奴の身体にそれなりにダメージが入ったのか息を整える主人公。

だがさっき奴に命中させた霧が全く効いている気配が無いし、目眩し程度にしか使えない。


ローブの裏に付けておいた魔法薬を、もう少し強力な魔法薬に入れ替えておく。

交換する魔法薬があるのはアイテムBOXだが、なるべくアイテムボックスは秘密にしておくためにも、余裕のある時の入れ替えは重要だ。


前回のこともあって観客席の動向にも注意している、今の所は盛り上がっており私への悪感情は殆ど感じない。


観客は問題無しと、では奴の心を折る方法を考えるか。


「さっきみたいに来ないのか?」

「……お前こそ、俺はさっきまでと違って手加減しない。」


手加減の欠片も感じない剣筋だったような気がするが……


「そうか、なら私も少し手加減を止めるとしよう。

【アクセル(自らの速度を上げよ)】」


今回の決闘で奴を殺す気は無い、だがどの程度の魔法薬まで耐性があるのかは確かめさせてもらおう。

息の根を止める時に役立つ。


「ふぅぅぅ〜〜……」


目の前で息を整えている奴は魔法を使用できないのか?

知識の中では、仮に主人公をどのような構成にしたとしても結構初めの方にに身体強化の魔法は覚えていたはず……


公爵領のダンジョンを攻略していない影響か、だがそれにしては私の魔法薬に対する耐性だけ持っているのは違和感。

まぁいい、耐性が意味を成さないほど強力な物を使えば良いだけだからな。


「次はこの魔法薬を試させてもらおうか。」


投げつける速度を少し早めた事で恐ろしい速さで奴へと向かう。


「何度も同じ手を喰らう──!」


ボン!


投げつけたのは爆発効果が現れた失敗魔法薬、まぁ少し弾ける程度の爆発で失敗の中でもハズレの部類だった。

咄嗟に避けようとした奴だったが爆発に煽られ再び地面に倒れた。


『なるほど、魔法薬をあの状態でどのように止めていたのかは謎ですが素晴らしい使い道です寝。』

『ナニがオコッタ?』

『あの魔法薬は失敗作、これがヒントです。

詳しく知りたければ自分で考え、調べ、答えに辿り着きなさい。此処は学院なのですから。』

『ならいいや、メンドウくさい。』


弱すぎる、大量に考えていたプランを実行する必要は無さそうだ。



──残り29──



「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


まぁ気合と声の大きさだけは評価できる。

だが最初と変わらず突撃するだけの攻撃がなんだというのだろうか、野生生物でもできる思考の欠片もない攻撃。


ローブの内側でアイテムBOXから1番強力な麻痺薬を取り出し投げつける。

もう終わらせてしまおう、あまり長引かせても遊んでるようにしか見えないだろうからな。


「うぉぉぉぁぁぁあ!!」

「……馬鹿な。」


少しでも皮膚に付着すれば動けなくなる劇薬とも言える魔法薬、蓋を開けて投げつけたことで中身を撒き散らしている。


腕の一部と顔に付いたというのに倒れず、薬が片目に入ったのか大粒の涙を流しながらも近づいてくる。


その姿は主人公と呼ばれるのに相応しいかもしれない、だがその姿に私は怒りを覚えた。

気合いでどうこうなるのなら魔法薬など存在していない、目の前の存在は魔法薬の存在を否定しているようなものなのだ。


……待て、冷静に状況を見るのだ。

この決闘において敗北は許されない。


幸いにも奴は剣で私に攻撃する。

その攻撃が真っ直ぐであればあるほど避け易く、逆に隙ができ──


「……!」


露骨にならない程度に構えていた私の所に剣を投げつけるという予想外の攻撃、剣の長さによる有利を捨ててでも私に隙を作らせた。


そうして拳、素手の一撃を当てようとしている。


「とどけぇぇぇぇ!!」


本能で理解した。

私の目と鼻の先まで迫った拳に当たればタダでは済まない、魔法や特殊な技術を使った形跡のない拳に恐怖に近い感情が生まれた。


「【サメ】【オーダー命令噛み砕け】!」


一種の防衛本能とでも言うべきだろうか、大勢の前で今回の決闘では使う気のなかった嫉妬の能力を使い主人公の方腕を噛みちぎらせた。


「グッ、ああぁぁぁぁ!!」


悲鳴をあげ肩を抑えて倒れ込む主人公を見て、咄嗟にサメを消す。


「……気絶しないなんて運が悪いな。」

「く、クソガァ……」

「降参してくれれば助かるんだが?」

「する訳ないだろぉ……!」


観客は静まり返っているが私に対する悪感情は特に見えない。

追い討ちした事で悪感情が芽生える可能性もあるが、こればっかりは運次第だな。


「死なないことを祈ってるよ。」


再び失敗作の魔法薬を取り出し主人公へ落とす。


ドーン!


「今回は当たりだったな。」


本気で死んでしまったかもしれないが、仕方ないか。


『そこまで!レオンの気絶が確認されました。

決闘はカリル・ディカマン侯爵の勝利とする。』


『『『おおぉぉぉぉぉ!!』』』


多少危ないところもあったが、観客も決闘だときちんと理解できてたおかげで、片腕を失った男に対して追い打ちをかけた私に対する悪感情は無い。

はぁ、なんとかなったな……



パリン……

──残り28──









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