第118話 準備完了
素材の分量を間違えないのが魔法薬を作るための最低条件。
魔法と付くことからも分かるように魔法薬は素材本来の力だけでは無い、素材だけでは説明のつかない効果を引き起こす物が殆ど、少しでも分量が合わなければ効果は出ず最悪の場合は爆発する。
歴史上、判明している中で初めて作られた魔法薬は身体能力を飛躍的に向上させる効果を持つ物。
寒い地域に住む人が身体を温める苦薬を作成しようとし、服用したら身体能力が人とは思えぬ程に強くなり魔法ような薬、魔法薬が生まれた。
魔法薬という言葉が生まれてから数年間は魔法薬は初めて見つかった物のみ、失敗して事故も多かったが正しい分量が多くの者に広がり魔法薬を作り生計を立てる魔法薬師が誕生した。
それからもう1つの魔法薬が偶然見つかったのをキッカケに多くの魔法薬師が新しい魔法薬を作ろうと研究を始める。
多くの魔法薬師が犠牲になったが、その犠牲の上に多くの魔法薬が日の目を浴び、我々後世の魔法薬師が引き継いでいる。
「綺麗……」
精製途中にパチパチと音を立てながら光る魔法薬、ミナの言う通りこの工程はとても綺麗だ。
「その状態に衝撃は与えないように、体が痺れるぞ。」
「気をつけます。」
予定していた魔法薬はミナの協力もあってほぼ完成している。
身体能力を向上させる魔法薬、肌に張り付き痛みを与える魔法薬、方向感覚を乱す魔法薬、触れると痛む煙を発生させる魔法薬、睡眠薬、そしてこの麻痺薬。
その他にもわざと間違った分量で作り出した魔法薬爆弾も大量に作ってある。
物体の時間が止まるアイテムBOXに入れておけば、爆発する直前で保持されるので武器として使用できる。
「これ全部明日の決闘で使うんですよね?」
「その予定だ、あぁ耐性がついているから最悪誤って私に掛かっても問題ない。」
元からあった耐性に嫉妬による耐性強化、今回私が作った魔法薬では私にそこまで強い効果は出ない。
せいぜい皮膚がヒリヒリしたり、欠伸がでる程度。
「それにしても魔法薬の調合まで出来そうだな、勉強していたのか?」
「はい!その、少しでもお役に立てればと……」
「ありがとう……感謝する。」
私を信じてくれる者達の為にも負けられないな。
さて、殺さない程度に痛めつける為にも、もう少し備えておくか。
ーーとある貴族令嬢達の茶会ーー
「御父様がディカマン侯爵様と仲良くなれって言ってきたんです。」
「「「え?!」」」
この場では学院に入学した同年代の4人の貴族令嬢が茶会の場で談笑している。
4人全員が仲が良いおかげで、裏の探り合いなど一切無い純粋な会話で、内容も歳相応のもの。
「ディカマン侯爵様はイーウェル公爵家の令嬢との婚約が白紙になったって聞いたけど、レイって婚約者居たよね?」
「うん……」
えぇ〜あり得ない、といった反応を見せる3人、仲良くなれと言われた令嬢も苦い表情だ。
「婚約者とはそれなりに良い関係を築けていたと記憶しているのですが、もしかして親が無理矢理白紙にしようとしていらっしゃるとか?」
「いや、婚約の状態で……」
「笑えませんわね。」
空気が重くなった。
「こう言っては不敬ですが、ディカマン侯爵様は元婚約者のイーウェル令嬢と上手くいってませんでしたよね?
社交界で噂として出回っていた話ですけど、明日行われる決闘相手を見てイーウェル令嬢の非がある可能性が高くて、不義理で似たような行動をすれば嫌われるじゃすまないと思いますよ〜。」
「そうだね、それにレイの家は少し……本当に危ないよ。」
3人はレイと呼ばれた少女の家の事を馬鹿にしている訳では無い、幼い頃から何度も会っている友達が心配なのだ。
「家の事は仕方ないの、でもまぁ没落したら誰かの家でメイドとして雇ってもらおうかな。」
「「「家に来な/来て/来るといいですよー」」」
仲が良く、とても心地の良い関係。
割と笑えない話を冗談っぽく消化するのは、それなりの信頼関係が築けていなければ出来ないことだ。
「ちょっと話変わるんだけど、ディカマン侯爵なら利益さえ提示できればなんとなく助けてくれそうな雰囲気があるよね。」
「少しわかる気がする。」
話が変わり、学院でみたディカマン侯爵の印象を語り合う。
「実際そういう関係に慣れるかは別として、かなりの玉の輿ではある。あの歳で陞爵するほどの成果を上げて、陛下から役職を与えられるなんて平凡な人には絶対に無理、優秀差では私達の世代1。
あとは性格だけど、隣にいた使用人の子への態度を見た感じかなり優しそうだったよね。」
「私達はそれなりに離れてたけど、実際に1番近くで見てみてどう思った?」
4人のうち3人が好印象で楽しげに話すのだが、1人だけ少し考え込むように話さない令嬢が居る。
3人に1番近くで見た、と言われた子だ。
「決闘になった時は周りの雰囲気に流されてて気づかなかったんだけどさ……」
またまた不穏な、重めな空気を感じたのか少し巫山戯る要素が消える。
「決闘相手に向ける眼が、人に向ける眼じゃ無くて汚い物を見る眼でちょっと怖かった。
少し時間が経って冷静になって赤髪の人が言ってる事がおかしい事にも気づいてさ、内容的にもあの眼を向けるのは仕方ないか、とも思ったんだけど……」
凄い人だけど怖い印象を与える人でもある、この場にいる4人の共通認識となった。
「はい!しばらく学業で忙しいから茶会できないし重い話やめよ!
王都でしばらく過ごすんだから美味しいお菓子とか話そ!」
同級生なのだからこれから見る機会も増えるだろうし今はそれだけで良いと判断したのか、茶会を楽しみたいと思ったからなのか、どちらかはわからない。
それから4人の貴族令嬢による茶会は最後まで和やかな雰囲気で行われた。
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