第117話 気にするな

「それ以上、自分を卑下するようなことは言うな。」


気の利いた言葉など、研究しかしてなくて通常の会話も上手にできない私が言えるはずも無い。


だけど、


「父上が死に、分家が存在していないディカマン家で私とマリアは血の繋がった唯一の家族だ。」


今は気の利いた言葉じゃなくてもいい、純粋な気持ちを伝えるんだ。


「火事の件は何も思わなかったと言えば嘘になる、一時はマリアをディカマン家から追放することも考えていた。」

「……」

「でもマリアは変わろうとした。

人に対して怖いと思いながらも、自らの行動を反省し、少しずつ変わろうとしている。王都に来てから庭に出ようと努力していたことも知っている。」


この言葉をマリアがどう受け取るかはわからない、だが私の気持ちが少しでも伝われば、少しでもマリアの励みになれば、そう思いながら正直に言葉にする。


「マリアは頑張っているよ、唯一の家族であり兄である私が保証する。」

「ぁ……うん……」


マリアは何を言うでもなくカップに入った紅茶を見つめている、そんなマリアは無表情だったが少しだけ微笑んでいるようにも見えた。

私の言葉はほんの僅かでもマリアに刺さってくれただろうか。


「私、頑張るよ。」

「あぁ、だが無理はするな、ゆっくりでも構わない。」

「うん、ありがとう……」


何だか気まずくなってしまったが、そろそろ本題にいきたい。


「話がズレてしまったが、なにか用があったんだろ?」

「そうだった。」


気持ちをある程度切り替えられたのか、不安そうにしながらも声と表情がだいぶマシになってはいる。


「私、やっぱり帰ったほうがいいのかなって……」


ふむ、なるほど。


わざわざ聞いてくるという事は私とミナにあまり会えなくとも会いやすい王都に居たい。

だが私が何度も聞いたから自分は帰ったほうが良いのかもと考え、学院が始まったのがあってマリアなりに私に聞くべきと判断したのだろう。


「マリアの好きにするといい。」

「いいの?迷惑じゃ、ない?」

「迷惑だとは思わない、ただ住み慣れた屋敷で過ごしたほうが楽かと思っていたんだ。

マリアが此処に居たいなら居ても構わない。」


ただ来年にはマリアも学院に通わねばならないので一度ボスコ達に顔を見せる必要もあるが、それは私の学院が長期休暇の時に一緒に帰ればいい。


「本当?」

「あぁ、もちろんだ。」

「ありがとう。」


話はこれで終わりかな?


「取り敢えず大丈夫か?」

「はい、ありがとうございました兄様。」

「では私はもう行こう。

また何か困った事があれば直ぐに言うといい、もう一度言うが私達は家族だ。」

「う、うん!」


明日に用事が無ければ夕食まで一緒に過ごしてあげたかったが、流石に明日に決闘が控えてしまっており準備は完璧にしなくてはいけない。

あんなお取り潰し確定の公爵家なんかに今更支援を再開したくないしな。


支援をするぐらいなら領地ごと乗っ取って、ダンジョン攻略し民達を洗脳、ふんだんに利用して捨ててやる。


「それじゃあ、また夕飯の時に。」


夕食を食べる時間があるのかと自分の冷静な部分が訴えている。

私は決して主人公を舐めている訳では無いが、主人公との決闘が家族であるマリアより優先順位が下なだけだ。


それに、いくら時間を掛けようが今できる準備には制限がある。


私の戦闘力と呼べる物は、嫉妬の神殿で手に入れた魔道具、ディカマン家が作成することのできる魔法薬、そして嫉妬。

欠点としてやはり絡め手が多く、決定打に欠ける事だろうか。


今回の決闘では嫉妬の能力を隠し、それ以外で決着をつけたいと考えているため余計に決定打がない。


怪我なら学院には聖女がいるのに加えて、本当に本当にあげたくは無いが私の魔法薬がある。

だが私が嫉妬を隠す以上、1番手が掛からずに主人公を完封出来るのは毒なのだが効きすぎればそのまま殺してしまう。


ならどのようにして決闘に勝利するか。

現在思いついている方法は3通り、1つ目は嫉妬を得た時に底上げされた身体能力による技術も何も無い暴力での勝利、2つ目は主人公の攻撃を全て受けた上で差を見せつけ降参させる、3つ目は魔法薬による状態異常と弱体化による体力切れによる勝利だ。


今の所は3つ目による勝利を考えているが、それは主人公の耐性と私がどれだけ魔法薬を作れるかに掛かっている。


逆に嫌なのは1つ目の暴力での勝利。

学院での決闘で技術のカケラもない暴力を見せれば、新しい物に飢えている教員達は失望するだろう。

そして学院生活が不便な物に変わる未来が見える。


「ついたな。」


さて、取り敢えずは考えていた魔法薬を全て作り、その後は改良できるかを……


「カリル様!書かれていた物を集めてきました!」

「ん?あぁ、ありがとう。」


作成する魔法薬を考えながら研究室に入るところで、少し離れた場所に居るミナから声を掛けられた。

腕には籠が握られ素材がかなりの量入っている。


「他に何かやるべき事はありますか?」

「特には無……いや、魔法薬を作るのを手伝ってくれないか?」


簡単な物ならディカマン家使用人のミナも作れるし、材料の下処理もやってくれる。


「わかりました!頑張ります!」

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