第116話 まだ居る

「これはカリル様をお待たせしてしまった原因でもあるんですが、廊下に配置されてた植物と戦ってる人が居たんです。とても邪魔でした。」


帰宅途中の馬車の中、私の学院で見た物を教えて欲しい、という質問に楽しそうに答えるミナの戦闘力も近いうちに確かめる必要性があると考えつつ、主人公との戦闘を何度も脳内で行う。


プレイヤーが操る主人公の戦闘スタイルはプレイヤーの嗜好によって様々、王道の剣士、魔法をメインに戦う魔法使い、その両方を併せ持つ魔法剣士、最初期では木刀を持つ剣士だ。

それを踏まえて、主人公の戦闘スタイルが剣士と仮定し、私の戦略を少し変えて臨機応変に対応できるようにしなければ。


「口みたいな場所から火も放ってましたし、めちゃめちゃ危ない植物でした。」

「一応は警備用の植物らしいが、機嫌を損ねると攻撃されると聞いたことがある。

あまり近寄らないようにするといい。」


私が国王から貰った屋敷は学院からそれほど遠くない、軽く話しているだけで直ぐに着く。


「ディカマン侯爵様、お屋敷に到着いたしました。」

「ご苦労。」


よし、さっそく魔法薬の調合に入るか。


「カリル様、今日の予定なのですが……」

「すまないが商人関係は全て任せる、貴族関係は私が直接黙らせるから来たら教えてくれ。」

「かしこまりました。」


王都に入れる商人の対応は任せても問題ない。

ただ何故か来るゴミみたいな貴族はプライドだけが高く、使用人を下に見る面倒な輩である可能性が高いのだ。


「屋敷が綺麗になったな。」

「掃除とか家具の配置とか皆んなで頑張りましたからね。」


使用人達の手が入った屋敷は使いやすくて快適な空間へと変わっている。

屋敷の窓から見える庭も、庭師による整備とディカマン家が所有する美しい花を咲かせる薬草などで彩られ誰に見せても恥ずかしくない庭となっている。


「そうだ、ミナに頼みたいことがある。」

「はい、何でしょうか。」

「この紙に書かれている薬草を取ってきて欲しい、足りなくても問題ない。」

「わかりまし──かしこまりました。」


屋敷内ではカリル様と呼ぶようになった使用人達だが、普段の言葉遣いが少し混ざる。

普通にわかりましたで構わないんだが……


必要な薬草の書かれた紙をミナに渡し、小走りで庭に向かうミナを見送る。


「カリル様、マリア様が少しお時間をいただきたいと。」

「ん?そうか、では先に向かうとしよう。」


何度か帰るか、と聞いているマリアだがやはり私とミナの2人と離れるのが不安なのか王都に滞在している。

まぁ主人公との決闘が決まった以上、マリアの護衛としてフグをかなり強化する必要もあるので帰っていなくてよかった。


「部屋の外で待機していてくれ。」

「かしこまりました。」


コンコン


「入るぞ。」

「はい、どうぞ……」


マリアの部屋は貴族の女性らしく、服や装飾品がそれなりにある部屋になっている。

ただ本人はあまり好きでは無いようで大体が部屋の一角に纏められていた。


「いらっしゃい兄様、時間をとってくれて、ありがとうございます……」


椅子に座りかなり落ち着いた様子のマリア、私もミナも居なかったのに意外だと感じるのと同時に無視できない事がある。

それは、


『『フゥゥ〜〜。』』


「……」


なんかフグが増えている。

少し小さくなったフグが2体に増えていたのだ。


「すまないマリア、先に聞かせて欲しいんだが私の召喚したフグが増えているのだが、何か知っているか?」

「えっと、フーちゃんは目の前で分裂しました。」

「そうか、分裂か……」


『『フー』』


そんな能力付与したか?


「少しだけフグ達を借りるぞ、少し待っててくれ。

フグ達はちょっとこっち来い。」


片手ずつフグを触り嫉妬の能力による繋がりと付与されている能力を詳しく調べる。

元々繋がりが薄くなりつつあったフグだが、2体に増えるという大き過ぎる異常を察知できないのは好ましくない。


しばらく調べた結果、わかったのはフグが自力で分裂と結合という能力を得たことのみ。

繋がりが薄くなる理由は特定できず、仕方がないという結論を出すしかなかった。


「【付与・物理耐性 魔法耐性 緊急連絡】」


まずはフグ本体と連絡用の能力、


「【障壁召喚 自己再生 麻痺毒 昏睡毒

自己エリア生成 自爆】」

『フッ?!?!』


時間稼ぎと敵対者排除用の能力を付与して終了だ。


体感にはなるが、フグに大量の能力を付与した影響で嫉妬の能力を使い召喚出来るのは、全くの召喚無しの状態から半分近くまで減っている気がする。

心許ないどころか、戦闘で使うには不安要素すぎてメインで攻撃よりサポートでの使用が増えるだろう。


『フッ!フッ!フッ!』


「これで良しと、待たせたな。」

「いえ大丈夫、ですよ?

兄様のする事ですから、私なんかより、優先……」


火事の事件から時間が経ち、マリアはだいぶマシにはなってきたがやっぱり心が弱くなってしまっている。


「マリア。」

「あはは、私は人を見る目が無くて、無能だし、人の考えてる事が聞こえちゃうし、兄様にもミナちゃんにも迷惑かけてるし、まともに外を出歩けないし、使用人のみんなとも話せないし、偶に変な声も聞こえるし、」

「マリア!」


今ディカマン家の血を引くのは私とマリアの2人だけ、そして唯一の家族。

そんな家族が苦しんでいるのを見て、苦しみを消してあげたいと思わない者は居ない。




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