第115話 忘れてた

警備も固めなくてはいけないが、私の弱体化が何処までの物なのかを確かめる必要があるな。

歳相応にまでしか動けなかったら流石に辛いが……


「あっ。」


そういえば弱体化のせいですっかり忘れていたが、イーウェル公爵を呼び出してたわ。


「なぁミゲアル、公爵どうする?」

「処刑では?」


そんな雑に言われてもなぁ。

身柄の拘束は確定しているが、扱いをどうするかなんだよな。


イーウェル領についての報告書によれば赤石病の原因であるダンジョンは未だ攻略されておらず、冒険者ギルドには依頼を断られたようでイーウェル家の私兵で少しずつ慎重に探索しているらしい。


「ダンジョンが攻略されていればそれでも良かったんだがなぁ。」

「えぇ、何でも冒険者ギルドに依頼を断られたとか。

イーウェル公爵家を手伝えば、王国から冒険者ギルドへ特別に一定数だけ卸している回復系の魔法薬の値段が跳ね上がると伝えただけなんですがねぇ。」


本当に不思議なこともあるよなぁ。

言い方は悪いが成功報酬をそれなりに積めば、冒険者達がダンジョン踏破者という称号を得るために有象無象からそれなりに強い奴等までが命を賭けてまで攻略してくれるのに。


「やらかしだったな。」「失敗でしたね。」


公爵が冒険者ギルドに協力してもらえてないの俺らのせいだったわ!

処刑まで苦しんでもらおうと考えてたのに、面倒事が舞い込んできて結果的に自分等の首を絞めてた。


「まぁ公爵自身は王城の地下に拘束でいいとして、カリルの元婚約者の女は学院にいるがどうする?」

「今動けば明日の決闘に支障が出るかと、公爵が拘束されたという情報を隠し決闘が終わったあとにじっくり遊びましょう。」

「そうだな、そうしよう。」


コンコン


「なんだ。」

「お話中のところ失礼致します、イーウェル公爵が到着されました。」

「適当な部屋で少し待たせておけ。」

「かしこまりました。」


さてと、私とミゲアル直々に捕まえてやるか。

きっと泣いて喜ぶだろう。




ーーカリル視点ーー


「では明日の正午に決闘を行うということで会場を取っておきますね。」

「はい、よろしくお願いします。」


国王と宰相ほどでは無いが、多少の雑談もしながら明日の決闘について諸々を話し合った。


「決闘の噂はかなり広まってるでしょうし大々的にやる必要がありますよね、警備員として教員達も呼んでおきましょう。」

「まぁ、仕方ないです……」


教員の殆どは何らかの研究のヒントになる事を求めて決闘から目を離さないだろうし、警備として不適切だと思う。


「ディカマン君の戦闘は楽しみですねぇ。」


国王に気に入られた貴族である私が、王族しか知らない秘術を貰ったのでは?と考えていそうだ。


「カリル様は強いですよ、最強です!」

「ほう、ますます楽しみですね。

それに相手側もそれなりに興味深い、あの燃えるような赤髪、彼はもしかしたら……」

「学長、私は明日に備えて休みます。

お時間を作っていただきありがとうございました。」


まずいな、学長が今は予想だが主人公の正体に気づきそうだ。

このまま帰って学長が知識と同じ状態になるのは少し好ましくない、せめて決闘が終わるまではファンにはしたくない。


仕方ないか、


「これをどうぞ。」

「こ、これは?!」

「未完成ですがディカマン家で開発された外部にまだ公開していない魔法薬です、今回迷惑をかけたお詫びの気持ちとして受け取ってください。」


学長に渡したのは改良後毛生え魔法薬。


開発者はディカマン家で雇っている魔法薬師の1人だが、使用後時間経過で毛が抜け落ちるという重大な欠陥が見つかり、1人での完成が難しいとして相談された魔法薬を息抜きに改良したもの。

私が手を加えた結果、使用を続ければ髪は半永久的に保たれるようになった。


「手を加えてもよろしいですか?!」

「えぇ、構いませんよ。」

「作製方法を特定しても?」

「公開は禁止しますが、個人的に知識を蓄えるだけなら構いません。」

「……使用してみても?」

「髪の毛が無くなるのを許容できるのなら。」


学長は興奮気味に勿論だ、と答えて私達に研究したいから早よ帰れと言わんばかりの視線を向けてきた。

よしこれでいい、あとは学長の興味が毛生え薬に移ってくれる事を祈ろう。


「ではまた明日。」

「はい、また明日、クラスでの挨拶とか諸々が終わったらこの部屋か研究室に来てください。

さようなら。」


……最後だけ口調も態度もすごい雑になったな。


バタン!


「「……」」


心なしか扉が勢いよく閉じられた気がした。


「帰るか。」

「そうですね、帰りましょう。」


初日だし今日は寮室で過ごそうかと考えてもいたが、私なりの決闘の準備が必要で一度王都の屋敷へと戻らねばならない。


「これからは此処に通うが、やっていけそうか?」

「はい!」

「何かあったら直ぐに言うといい。

研究者には変な輩も多く、ミナのイヤリングが上等な魔道具だと気づいて売れと迫って来るかもしれない。」


あの学長は研究に目が無いとはいえ理性はまだある方、世の中には手段を選ばない変態研究者がいるのだ。


「魔法の勉強もしましたから抵抗してやります!

カリル様から頂いた大切な魔道具ですし……」

「そうか、怪我をしない程度にな。」


いや、逆に手加減ができるかの心配をした方が良いか?

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