始まる学院
第107話 ストーリー
『私がどれだけ貴方に尽くしたと……!』
『原因だって私は特定した!
それなのに偶然見つけたダンジョンを攻略したら、それが魔力を出していた原因だって?一歩遅い?ふざけるな!』
『……そうか、わかった。
これから行うのは私の我儘、そこの奴を殺せば貴方は許さないだろう、だがそんな心も消すから安心してくれ。』
『ハッ、私の能力で生み出した生物の毒は普通の魔法や魔法薬では消せない!』
『何故、マリアが……』
『どうして奴は人に囲まれている……何故私は1人で誰も……』
「……夢か。」
今日から始まる原作と原作キャラの聖女ルリアに会ったのが影響してか、嫉妬伯爵となった私が討たれる決戦時の夢を見た。
嫉妬伯爵と最終決戦は嫉妬伯爵が元婚約者を誘拐することから始まる。
助ける為にやってきた主人公達を罠に嵌め召喚生物の毒で動けなくしたのだが、その毒をマリアが作成した毒消しに特化した魔法薬で消され、最後は主人公達との戦いで敗れる。
「恐れているのだろうか……」
この世界は物語で、物語には役割を与えられた登場人物とストーリーが存在する。
既に今の私は物語から設定……いや状況と言うべき物は変わっているが、与えられていた役割は悪役であり、状況が変わったからといって役割は変わらないのではないかと考えている。
この世界を物語として観測している者が前世の私を含む大勢存在する。
その大勢が悪役という役割を与えられた私が好き勝手に動き、役割を放棄するのを許すだろうか?
私が観測者なら許さない。
ストーリー通りに進めなくては物語は物語では無くなる、特に悪役なんて主人公と敵対する重要な役割であり、この物語で無くなってはならないもの。
既に主人公と敵対は確定している、後は事情はともかく主人公から見て悪となり、
「1人、孤独に殺される。」
そうすれば嫉妬伯爵、私が悪役の章は終わりだ。
「ふぅ……」
「朝起きて早々にどうしたのですか?そういう気持ちになりました?」
「はっ?!?!」
私しか居ないはずの寝室で聞こえる、聞き覚えのある声。
「ミゲアル宰相?!」
「えぇ、おはようございます。」
「こんな姿で申し訳ありません!」
「いえいえ。それより今日は時間が無いので手短に伝えましょう。」
時間が無い?
忙しいのだろうが優秀で仕事をすぐに終えてしまい、あまり忙しそうに見えない宰相が雑談を挟まずに手短に伝えるとは。
「昨日の夜、カリルが捕まえた聖騎士が牢屋で殺されました。口封じだと我々は考えています。」
あの頭が弱すぎる聖騎士がか。
「私の魔法で軽く拷問したのですが、奴は馬鹿なだけの裏の計画も何も知らない、ただ盲目的に神を崇め聖女を護衛するだけの存在でした。
首元を一突き、抵抗した様子はないので教会関係者が暗殺したものでしょう。」
まぁ、あの様子じゃ切り捨てられてもおかしく無いが判断が少し早いな。
それに捕まって直ぐは警戒がそれなりに高いはずで……待て、そもそも国王と宰相が暗殺に気づけなかったのか?
「その顔は気づいたようですね、王都内で陛下の傲慢による管理能力が使えなくなりました。」
「そ、それは……!」
「陛下の能力が効かないのが王都内だけなので、我々は王都を調査します。
カリルは学院に入学ですので、学生が多く居る区画を主に調査してもらいたい。」
「かしこまりました。」
国王と宰相は主人公にわざと手を出さなかったのでは無く、能力が使えなくなり原因究明に忙しくて手を出せなかったのか?
「原因は今のところ不明ですが、大罪が弱体化しているとなれば我々も他人事ではありません、十分に気をつけて、そして原因だと思うナニカを見つければ直ぐに連絡をしてください。」
「えぇ、わかりました。」
流石の宰相も大罪の弱体化に動揺しているのだろう、私に指示を出して雑談せず魔法で帰っていった。
「ふぅぅ……」
知識でも存在しない大罪の弱体化。
正確には大罪の所持者を倒し、力を手に入れたあと大罪は弱体化していたが、元から持っていた者達が弱体化する状況など存在しなかった。
あの夢は私の未来、即ち予知なのかもしれない。
「思い通りに動くとは思うなよ。」
私が討たれるはずだった時までまだ猶予はある、そんな未来は変えてやる。
一度知識にある今後のストーリーと現状の違いを整理しておこう。
頭の中だけでは無く、紙に書いてきちんと整理しよう、直ぐにアイテムボックスで管理、場合によっては廃棄もすれば漏れる事はない。
コンコン
「カリル様、ミナです。朝食のご用意ができました。」
「あぁわかった、直ぐに出よう。」
学院内では一応身分は関係ない事にはなっている。
だがそれは多少の無礼が不問になる程度で完全に身分の差が無くなるわけではない、だから貴族は使用人を連れていけるし、食堂の値段も貴族と平民では変わる。
ちなみにだが私は役職の特権を使用し、寮の一部屋を確保しているが基本的に使う予定は無いので、ミナ1人だけを連れて行く事にしている。
「そう言えば、ミナは新しい服を用意してなかったか?」
「……?はい、カリル様の恥にならないよう用意しておりますよ?」
「今着てる服は特に変わらないように思うのだが……」
「え?」
「ん?」
あっ、そういえばミナは寝込んでいたんだったな。
「あ、あのカリル様……
入学は明日、ですよね?」
「……今日だな。」
音無き悲鳴が聞こえた。
ミナが慌てているのが丸わかりである。
取り敢えず私は1人で用意を進めるから自分の準備をして来いと言っておく。
「気が抜けるな……」
早歩きで屋敷を歩くミナを見て、緊張が取れた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます