第106話 無かった出会い
「「……」」
この無言で気まずい空間は目の前に見えるの角を曲がれば終了する。
私の案内は大通りまで、そのあとは再び裏路地に入ろうが、先程の矢を放ってきた奴に殺されようが、追ってきていたという変な輩に誘拐されようが関係ない。
一応モノクルを付けている間は探知の対象にはする予定だが、助ける事はない。
それに、
「この先に聖女の迎えがいるみたいだ。」
「……護衛さん達でしょうか?」
探知の中のこれから向かう大通りに王都の衛兵と王国騎士とは鎧が別の者達が数名立っている。
動きを見る限り、数名の衛兵に詰め寄っており数人の野次馬まで居る。
この状態で私がこの聖女ルリアを連れていけば面倒なことになるのは明らか、だがこの場で別れて事情を聞かれたルリアが変な事を口走ったらさらに面倒だ。
「怒られちゃうかもです……」
いや、理不尽に衛兵を怒っているから逆に迷惑をかけるなと怒ってやれ。
っと、そもそもどういう経緯であそこで泣いていたんだ?
能力さえあれば変えがきくとはいえ、聖女になれるルリアは貴重な戦力の1つであり、護衛も相当な腕利きのはず。
ルリアが1人で出歩くとは思えないので1人で行動していた説は排除して、変な輩に追いかけられる程度の事で護衛と逸れるのか?
仮に腕利きの護衛が聖女を逃す判断をする、そんな相手だとしたら護衛は間違いなく死んでいる事だろう。
「我等が教会の聖騎士を王都に入れ全力で捜索させていただく!」
「それは不可能でございます。
この王都に教会関係者が入る条件に最初に登録された貴方達以外を入れない、というものがありますので。」
「ならば聖女様がどうなっても良いと言うのか?!」
こんな風に衛兵と怒鳴り合いの喧嘩をしている事もない。
「治安が良いと言っていたが、王国お得意の嘘だったか!まさかとは思うが、アレは国王の指示ではないだろうな?!」
「それ以上続けるなら、反逆罪で拘束させていただきます。」
「貴様等程度に捕まると?」
「たった1人守り切れないのに聖騎士だ?
あまり舐めるなよ小娘、殺すぞ?」
あの場はいつ剣が抜かれてもおかしくない。
「聖女様!」
「ぅ……」
聖騎士の1人がルリアに気づいて大声で呼び、声に驚いたのかルリアは私の後ろに隠れた。
「貴様はカリル・ディカマン!
聖女様に何をしている!」
緊急時に冷静になれない護衛に何の意味があるのだろう。
一応はルリアを守ったことになる私に剣を向ける、それを本来なら止めなくちゃいけないのは後ろ隠れているルリア。
「はぁ……」
教会の聖騎士が持つ剣は祝福が掛けられている。
知識によれば、祝福はエンチャントと呼ばれており希少な素材を使用して魔法のような力を永続的に宿す物。
そして教会は祝福を神の力と広めているが、教会がエンチャントの技術を独占しているだけで神はなんにも関係が無い。
一見するとメリットしかないようにも思えるが、しっかりとデメリットもある。
それは耐久値が下がることと、エンチャントされた武器に魔力を大量に注ぐと破壊されること。
エンチャントようにはもちろん、武器自体にも最高級の素材を使い、最も優れた技術者が作れば強度も段違いだ。
まぁ、
パキン
「なっ!」
そんな装備は教皇の護衛程の立場になければ与えられない。聖女とはいえ1派閥の重鎮程度の護衛では私が手で握り魔力を一点に込めれば簡単に折れる。
「奴を捕えよ!」
「「「はっ!」」」
さて、聖騎士の1人が拘束されるのを止めると思ったが、祝福のかかった武器が壊された方が衝撃的だったのか残りの聖騎士達は呆然と立っているだけ。
「あの、えっと……その──」
「ディカマン卿、ご無事ですか?!」
「問題ない、もしかしたらあの剣はなまくらだったのかも知れないな。」
「あぅぅ……」
ハッキリ喋らず、鳴き声のような単語を言い続ける五月蝿いルリアを放置し、衛兵と聖騎士への対応を話し合う。
「そんな事より、どう処理するかだ。」
「難しいところでしょう。」
一応は国王の客でもある教会のゴミ共。
面倒なので全員捕縛してしまいたいが、王国民達の国に対する印象を考えれば教会を直ぐに排除するのは危険なのだ。
「私に剣を向けた者のみ捕縛し裁判にかけろ。」
「はっ、かしこまりました。」
仕方の無い処置だが1番安定している。
この場が私と衛兵、そして教会関係者のみだったら捕縛すらせずに去っていたかもしれない。
「神の祝福を得た武具を素手で破壊するなど、貴様は悪魔か……」
ある意味、大声で騒いで野次馬を作ったそこで戦慄している聖騎士のおかげと言えなくもない。
「そうだ、この通りに私が乗っていた馬車と気絶している御者が居ると思うのだが探して治療してやってほしい。」
「お任せください。
それとディカマン卿、送りの馬車は必要でしょうか?」
「必要ない。」
やっと帰れる、明日からは学院だし早急に休まねば。
「あの、カリルさん!」
さりげなく歩き始めたらルリアに呼び止められる。
「なっ!聖女とは言え貴族であるディカマン卿にそんな口調で──」
「別に良い、なんだ。」
衛兵を止め、ルリアに続きを促す。
「何で、こうなっちゃったんですか……?」
「……」
何で、そんなのは考えなくても見ればわかるだろう。おそらく本当は真に聴きたいことがあるが、言い方か聞き方がわからないのだろう。
「聖女ルリア、自分で考えてみろ。
全部は無理でも何故自分の護衛が私を攻撃したのか、理由を考えてみろ。」
「考える……?
でも、カリルさんは知っているので──」
「調子に乗るなよ。」
「ヒッ……!」
私と聖女の本来なら無かったであろう出会いは、苛ついた私が怯えてしまった聖女を置いて去るという、側から見れば最悪の別れで終わった。
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