第104話 此処どこ
火事の場でも使用したにモノクルも装備し周囲の警戒も行う。
王都の中心に近いからか馬車から少し離れた場所に人の気配はそれなりにあった、だが大半は建物の中で寝ている。
「大丈夫か?」
「……」
反応はなく寝ているだけ。
御者としての仕事をしている者が睡魔に抗えなかったことは考えにくい、魔法か?それとも薬を盛られか?
「【
【
相手が眠らせただけなのを考えれば傷つけるつもりは無いだろうが、一応は国王から預かったと言える御者、守らなくてはいけない。
「それにしても動きが無いな。」
私を中心に魔法が付与されていない弓の射程の距離を探知しているが人影に怪しい動きは無く、探知外からの攻撃も無い。
人の居ない方向へ向かってみるか。
相手が動かないのなら、こちらから誘うしかない。
幸いな事に貴重品の類を馬車に積んでもいないから私は守る必要が無い、相手を特定することだけに集中すればいい。
人の気配が少ない裏路地へと入って行く。
いくら整備されている王都内とはいえ裏路地は暗い、私のように魔法を使用して地理を把握していなければ月明かりを頼りに手探りで進むしかない。
この裏路地に慣れておらず初めて通る者達なら、朝まで彷徨う事を覚悟する入り組んだ道を進んでいく。
「────」
しばらく進んでいると私の足音に混ざって人の声が聞こえてきた、何を言ってるのかわからないが確かに人の声。
「うぅ……ぐす……」
「……」
その声の主は探知には反応が無く、声を頼りに近寄ると少女の泣き声だという事がわかった。
明らかに罠だろ、分かりやすすぎる。
だがこの状況を変えるには鳴き声の主に接触するしかない。
仮になんらかの罠が魔道具で固めている私に効果を及ぼせたとしても、派手な魔法を打ち上げれば国王達が気付いてくれるはずだ。
「大丈夫か?」
「ひやぁぁ!だ、誰ですか?!」
声を掛けると少女は純白のローブを深く被り顔を隠した。
「行っておきますけど、私強いですよ?
それなりに強いですから!」
「そうか、こんな夜道で君の様な少女が泣いていたらマトモな者なら声を掛けるのだが、どうやら君には余計なお世話だったようだ。
気をつけて帰るといい。」
罠に関係無い少女という可能性が浮上してきた。
私を罠に嵌める為の者なら、隙を作るために縋り付いて来るなど私に近寄ろうとするはず、だが目の前の少女は顔を隠して怯えるだけ。
「あぁ、ち、違くてですね。
あの、えっと……」
それによく見れば純白のローブの素材はかなり上等な物で、教会関係者だと示す紋章が刻まれていた。
敵対組織との関係を作るなんて馬鹿のすること。
しかも国王から注意されているのが不味い。
こんな夜中に人通りの無い場所で2人きり、裏切りと取られてもおかしくないのだ。
「す、すいません!
さっきまで変な人に追われてて、人の声が聞こえて誤解しちゃったんです!」
……面倒ごとの気配しかしない。
「お願いですから待ってぇぇ……」
「……」
「護衛の皆さんとも離れてしまって、此処が何処だかわからないんですよぉぉ……」
早歩きで去ろうと後ろを向いた私の服を掴んできた、服を犠牲に無視して歩き続けるも手は離れない。
「うぇぇぇ、怖いぃ……」
「はぁ……
道案内しますから一度手を離してください。」
ズルズルと引き摺りながら歩くのは効率が悪い。
それに御者を眠らせた者の動きが確認できない以上、目的も理由も何もかも不明。
現在の情報のみで考えられる事は、私とこの少女との接触が狙いとしか……
ダメだこれでは妄想に等しい、圧倒的に情報が足りな──!
「伏せろ!」
「ふぇ?キャッ!」
カツン!
私の探知範囲外の遠距離からの弓による狙撃。
矢の刺さり具合からして恐らくは曲射、これだけ正確に私と少女の元へ飛ばす技術があるのに何の変哲もない矢だ。
「な、なんですかこれ?!」
「弓で狙われている、走るぞ。」
襲撃者からは私を殺す気があまり感じられず、目の前の少女は何も知らないとしか思えない慌てよう。
本当に何が起こっているのか意味がわからない。
カツン!カツン!
弓の軌道をみて方向と大体の射撃位置は把握できた。位置は城壁の上だろうが、向こうまで探知を伸ばしてしまうと周囲が手薄になり代償を払う時間も早くなる。
私1人なら能力を使って襲撃者を殺しに行くのだが、教会関係者がいる場で嫉妬の能力を使い情報を与えたく無い。
かと言って少女を放置するのは、仮に噂として出回った時の民からの印象が良くない。
……待てよ?別にその程度なら問題は無いか?
むしろ死んで学院での面倒事が1人分減ると考えれば利益しかない。
あとは捨てるタイミングだが……
「【神よ、我等を御守りください】
【神よ、我等が敵へ不幸を】」
「……神聖魔法。」
判断が遅かった。
少女の使った魔法は祈りの言葉を言う事で発動する魔法、知識でも発動の度に詠唱が変わっており効果は言葉の雰囲気から推測するしかない。
今回のは片方は守り、もう片方は相手へのデバフだろうか?
「これでぇ、大丈夫、だと思いましゅ……
少し、止まって……」
あまり体力が無いのか息を荒くしている少女、残念な事に矢が飛んでこないため反撃されて撤退したのだろう。
「大丈夫か?」
「つがれだぁ……」
「……そうか。」
今回、相手が何をしたいのか情報が足りなさすぎてわからない。
そもそもあの矢を撃ってきた相手が御者を眠らせた者と同じだとは限らないし、この少女が偶然私と遭遇した可能性もある。
「あの、ありがとうございました……」
「気にするな。」
こちらは手を離したのに何故か向こうから掴んできた、早く離れて欲しい。
走る時に手を掴んだのがいけなかったな、判断が遅くなり共に逃げてしまったが先程考えたように放置した方がよかった。
「えっと、多分私が巻き込んでしまったんです、それで……
あぁ、そんな事より名前を言わないとですね。」
軽く身嗜みを整え、私を真っ直ぐ見つめる少女。
同時に雲から顔を出した月の光が辺りを照らし、少女の顔がハッキリと見えるようになった。
「私はルリアと言います。」
長い銀髪で一部に虹色としか言えない不思議な色が混ざっており、一般的に見てもとても可愛らしい少女。
だがその少女は私が学院に入学するまで決して会うことはなく、会ったとしても最初から間違いなく敵対すると考えていた。
「セイクリード教の、人平派で聖女をやってます。
一応……」
主人公のヒロインの1人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます