第103話 動いたか?

「イーウェル公爵?

あぁ、そういえばそんな名前の後継者の教育に失敗した家があったな。」


ほとんど分かりきっていた事だが国王に明言された事により、イーウェル公爵が周囲の貴族達から嘲笑されている。

そんな憤慨してもおかしくない状況なのに、顔を青くして俯いている。


「公爵位の君がそんなになるなんて何があった?

この場で詳しく話してみろ、安心しろこの場には多くの貴族も居る、解決策も見えてくるはずだ。」


へ、陛下!それはトドメ刺してます!


「と、とある事情で資金面、産業面、軍事面での公爵家の力が落ちています。

その全てにおいて少なくない影響を及ぼしている赤石病、その原因であるダンジョンの攻略をどうするか日々試行錯誤していましたので、こんな無様な姿を陛下に見せてしまいました。

申し訳、ありません。」

「そうか、まぁイーウェル公爵家の事情なんてのは割とどうでも良くてだな。」


聞き出しておいてアッサリと話を流すとは……

私では真似できません、ありがとうございます!


「……」


っと、いけない、公爵があまりにも無様で変なテンションになってしまっていた。


周囲にバレない程度の深呼吸を何度かしたおかげで冷静さを取り戻した私とは対照的に、公爵は何をいえばいきのか分からず、口を閉じたり開いたりしている。


「この場は王国の未来であるディカマン侯爵との縁を作る場だ、今日のところはさっさと去れ。」

「……か、かしこまりました。」


貴族達のバカにする笑い声の中、俯きフラフラと危なっかしい歩きで会場を出る。

どうした公爵、貴族たるもの注目されてるのだから堂々と胸張って歩けよ。


「では皆の衆、少しのハプニングはあったもののパーティは続行する。

私からは一言だけ、ディカマン侯爵は未来の王国を背負う貴族達のリーダーとなる者だ、我が国の未来が明るくなることを祈って。」


宰相の魔法により貴族達全員の目の前にグラスが現れる。


「乾杯。」


空のグラスを皆が国王に向けて掲げる。

音が消え、一種の神聖さを感じる空間が出来上がった。


国を思う者、自らの欲を満たす者、利益のみを追い求める者、普段なら歪み合う者達ですら関係無くこの場にいる貴族の目には狂信者かと見間違う色が僅かに宿っていた。


そんな空間で狂信者の色が見えない貴族は私を含む国王の側近達だけだった。


「相変わらず気持ち悪い……」

「……!」


横から無意識に溢れたとしか言いようがない言葉に驚き、勢いよく聞こえた方向を向いてしまう。


「問題ないわよ、陛下が何が言わない限りあの状態の貴族共は陛下から目を逸らせない。

それに私は陛下と宰相閣下に直接目を合わせて笑いながら言ってるわ。」

「そうなのですか。」


だとしてもこの場では辞めてほしい、そういう事情を知らない私の心臓に悪い。


「皆、姿勢を楽にせよ。さてあとは自由に楽しみたまえ。

ディカマン侯爵、ローロフ侯爵、以上の2名にこの場は任せよう。」


そう言った陛下と宰相は我々にはやる事があると2人で会場から出ていった。


おそらく2人で酒を飲むのだろう。

主役である私を気遣ったとアピールしているが、あの方々は貴族の相手なんて面倒だと思っているに違いない。


そもそも重要なパーティーに影武者で来ていた国王が会場に来るとも思っていなかった、退出のタイミング的には公爵で遊ぶためだけに来たみたいだ。


「さぁ、出番ですよディカマン侯爵。」


国王と宰相が会場から去り、この場を仕切るのは私とローロフ侯爵になった。

会場はそれなりに温まっているが私の領民に対して行った時より緊張感が無い、やはり経験というのは大事だな。


「パーティー参加者の皆様、私はこの度陛下より特別宮廷魔法薬師に任命されたカリル・ディカマン侯爵です。」



ーーーーー


「ふぅ……」


公爵の退場後のパーティーは特に問題なく終了し、私は帰りの馬車で今回のパーティーを振り返っている。


体は疲れているが、多くの貴族と接して貴族としての格が上がったのを自覚できているからか、あまり疲労感は無い。


最近では感じていなかった満足感、不思議な感覚だ。


目標の派閥形成自体はほぼ達成と言っていい、創立メンバーとも言える貴族家は揃える事ができている。


ディカマン家、農地を共同開発する相手のカルティ家。そして、その他のマトモな共同事業を持ち掛けてきた貴族家達。


ゴミみたいなクソ事業を是非一緒に、と言ってきた貴族からは露骨に距離をとった。


そのおかげで最終的に私を含んで、侯爵1、伯爵1、子爵3、男爵2の派閥結成段階なら中々の規模と言える。


まぁ、厳密にはまだ派閥では無い。

お互いの利益により結ばれている関係に過ぎないが、共同事業が成功すれば繋がりは強化され、利益のみを考える存在ではなくなる。


国で貴族として生き残るための同盟。


お互いがお互いを失いたく無い、そう考える様になれば多少のリスクを承知で助け合う。

そんな理想的な派閥。


「そこまでにどれぐらい掛かるだろうか……」


もちろん今回のパーティーで引き込むことに決めた貴族家達への疑いは完全には消していない。

裏切りの可能性も考え、少しでも怪しい行動があれば切り捨てられるように慎重に行動しよう。


ガタン


「どうした?」


考え事に集中していると馬車が止まった。

王城の御者ではあり得ない乱暴な止まり方、声を掛けても反応が無い。


「生きてはいる、だが意識は無いか。」


此処は王都内、異常事態など起きないと思っていたが……


「これは、動いたか?」


国王に言われた面倒な連中の話を思い出した私は戦闘用の魔道具を素早く確認し、馬車を降りた。


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