第102話 貴方ですか
挨拶に来る順番は特に決まっていないようで、最初のうちは自己紹介と一言のみ、私と少し長く話したい者は後の方で少し会話する。
「是非とも我が家と事業を起こしませんか?」
「前向きに検討させていただきます。」
「それはそれは、っと私が結構時間をとってしまいました、今回はこれで失礼させていただきます。
ディカマン侯爵家の繁栄をこれからもお祈りしております。」
「えぇ、ありがとうございます。
また機会がありましたら話しましょう。」
このような順番になった訳は、勢いがあるとはいえ私が調子にる可能性を考えて様子見をしたい貴族と、そんなことどうでもいいから距離を縮めたい貴族が、ちょうど半分ぐらいずつだという事がわかっていたから。
聞いていたし、前者は多く話したい、後者は少し離れたところです様子見をするが顔合わせはしたい。
だがそんな考えの両者が入り乱れており、パーティーの場での定番である爵位が高い順からの挨拶を実行して仕舞えば、顔合わせができない者が出てしまう。
その対策になっている。
この対策によって、後半になるにつれて私の良い様に利用しやすい貴族になっていく、全く素晴らしい選別方法だ。
だがな?
「私はアラン・イーウェル、イーウェル公爵家当主です。
お久しぶり、ディカマン侯爵。」
「えぇ……久しぶりですね。」
最後の最後にお前が来るのは聞いてないし、お前程度挨拶の必要すらない。
王国に所属する全貴族に招待状を送ったのは知っていたが、挨拶が始まった初期辺りに軽く周囲を見渡した時には姿が見えなかったので油断した。
「その、ディカマン侯爵が元気そうで良かったよ。
それにとても出世したようで……」
そう話す公爵は逆に元気が無く、心なしが頬が細っそりした気もする。
まぁ、国王と宰相の無茶振りのせいだろうがな。
「カリ──ディカマン侯爵とはこれからも友好的な関係を築けられればよかった。
いや、今になっては結果論になってしまうな……」
「……」
「今日は娘は来ていない、何度か説得はしていたんだが逃げ出してしまった。
本当に迷惑をかけてしまって、すまない……」
疲れていると感じる雰囲気。
我がディカマン家からの支援も切られ、国王と宰相から追い詰めるように命令を下され、ギリギリのところで踏ん張っているのだろう。
「……」
だがそんな様子を見ても同情など微塵も感じないどころか、厳しい貴族社会を生き抜いてきた歴戦の当主達と会話できるという高揚感が消えていく。
不幸自慢がしたいのなら早く帰って欲しい、ただそれだけを強く念じている。
「謝罪は受け取りましょう。
ですが、イーウェル公爵がその様子ならば私達の関係は例の日で終わりそうですね。」
「……え、えぇ、そう、なってしまうでしょう。」
「「「!!!」」」
わざと周囲の注目を更に浴びるように大きな声でアピールする。
こうすれば噂でしかなかった、ディカマン家とイーウェル公爵家の不仲が真実に変わり、貴族家の中でどちらに近づくかを天秤にかけるだろう。
そして、
「そういえば、病の原因であるダンジョンは見つかったのですか?」
「……!
それらしき入口は数ヶ所、今は私兵で調査を行なっていますが……」
「それは良かったですね、もしかしたらイーウェル公爵が長年苦しめられた病の解決に近づくかもしれないのですから。」
それなりに考えの回る貴族ならイーウェル公爵家の状態が悪くなければ私兵では無く、冒険者を雇うはずだと気づくだろう。
今の公爵家は情報戦に関してかなり弱体化している。
だが資金面でもそうだが、ディカマン家のスパイだったメーナに呪いをかけていた呪術師を失ったとしても、流石は公爵家というべきか屋敷内の情報を取るのは難しい。
同等の貴族家でもそれは変わらずなんとか誤魔化せていたが、今の短い会話でわかるように予想以上に悪化しているのが広まった。
「そ、そうですね、解決の糸口が見えて少し安心できます。」
「私も我がディカマン家からの情報が役に立ったようで嬉しく思いますよ。」
「……ディカマン侯爵のおかげ、だよ。」
……抵抗すら見せず張り合いが無い。
つまらない、こんな男に私は気を遣っていたのかと思うと酷く陰鬱だ。
あの御二人が遊んでいるのはわかるが、こんな搾りカスで遊んで楽しいのだろうか。
とりあえず消えてもらうか、
「そろそ──
ん?どうなさいました?」
他の貴族の方と話す為に公爵を退かそうとしたら、肩に手を置かれてローロフに止められた。
「楽しそうなときにごめんなさい、陛下がいらっしゃいます。」
「ありがとうございます。」
国王が来るのに座ったまま迎えるわけには行かない。
「皆様、陛下がここにいらっしゃいますので挨拶は一時中断とさせて頂きます。」
この場にいる貴族達は各々身嗜みを整え、国王の入場に備えている。
私もその1人、椅子から立ち上がりローロフと不本意ながらも時間がないためイーウェル公爵の間に立つ。
「国王陛下、並びに宰相閣下のご入場です。」
警備の騎士による言葉。
貴族が頭を下げると同時に圧のある気配を纏った方々が入ってきた。
「顔を上げよ。」
言葉に従うと私の座っていた椅子は片付けられ、いつの間にか用意されていた玉座に座る国王が居た。
というか久しぶりに演技をしている姿を見たな。
「今日は良い日だ。
そんな良い日は皆で楽しむ必要がある、私の話など必要ない。」
誰だ貴方は。
普段と違いすぎる……
「だが1つだけ気になる事があってな。
ディカマン侯爵。」
「?!?!
は、はい。どうかなされましたか?」
何故私を……?
「横に居る男は誰だ?
我が国にはそんなに腑抜けた貴族は居ないはずだが、新しい従者か?」
「「「……?」」」
隣の男、片側はローロフだし、イーウェル公爵だよな?
事実、知っている貴族達は皆首を少し傾げている。
「……!」
あぁなるほど、
「国王陛下、私の隣に立っているのはイーウェル公爵ですよ。」
流石は陛下、この場でも笑い者にしようというのですね。
私には真似できないな。
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