第101話 遅刻

「まぁとりあえずそこに座れ。

多分準備のために結構早く来てくれたんだろうが、準備は終わっているんだ。

という訳で、始まるまでの少しの間は一緒に茶でも飲もう。」


国王達のいる場所は大きめのテーブルと3つの椅子があり、テーブルの上には晩酌用のツマミっぽい料理が並び、2人はワインを飲んでいた。


空いてる椅子の前には、紅茶と軽食が置かれており、私が自主的に早く来たはずなのに狙っていたとしか思えない準備の良さに思わず真顔になる。


「どうした?」

「いえ特には……座らせていただきます。」


私が席に着くと国王と宰相がグラスを持ち近づかせてきた。乾杯待ちだろうが私1人だけティーカップで2人はワイングラス、なんとも不思議な乾杯となった。


その後は特に何も重要な話は無く。

魔法の研究が行き詰まっているとか、貴族を粛清したとか、他国へ宣戦布告したいとか、そんな雑談が進んでいた。


そんな雑談に参加している私も何回か話題を提供、新しい魔法薬の開発、貴族家からの止まらない娘を紹介する手紙。


2人は笑いながら聞き、あまりにも酷かったら粛清する?などと言っていた。


雑談はとても楽しく気がつけばパーティーが始まるまであと数分しかなかった。


「あぁぁぁ〜、楽しい時間はあっという間に終わるな。」

「そうですね、外から我々がまだ出てこないと焦る使用人達の気配がしますよ。」

「ついでにスーザンっぽい気配も無いか?

あの堂々として財政のためならなんでもやる真っ黒な女が慌ててるの面白すぎるだろ。」


2人の笑いがイマイチわからない。

明らかに怒られるのがわかりきってるのに笑えない。


「ディカマン侯爵だけでも……って言って慌ててますね。表情を見るにかなり怒っていますね。

面白いのでもう少し待たせますか。」

「ちょっと行ってきますね!」


流石は宰相、気配だけでなく表情に話していることまでわかるなんて凄いですね。

もっと早く教えてください。


「後で陛下と共に追いかけますね〜。」

「頑張れよ〜。」


楽しくて時間を忘れたのは自分のせい、だけどなんか納得いかない。

そんな気持ちの中、手を振る御2人へ軽く一礼して部屋から


「「「……!」」」

「ハハ……」


出た瞬間、離れたところにいる者達の鋭い視線が私を貫き、あまりの迫力に乾いた笑いがこぼれた。


そんな視線の1人、口元を扇子で隠しているので正確にはわからないが微笑んでいそうな1人の女性。

さっき宰相が言っていた怒っている表情とは正反対だったが、眼だけはギラギラとしていて笑っていないことがわかる。


「少し前のパーティー以来ですねディカマン侯爵。

今日のパーティーの責任者は私なの、よろしくお願いしますね?」

「はい、お待たせして申し訳ありませんでした。」

「……よろしくお願いしますね?」

「よろしく、お願い致します……」


怖いな。


目の前のローロフ家当主とは何度か会い軽く会話もしており、少し人柄は把握している。

役職柄、資金の動きに敏感で失敗を許さず馬鹿な貴族や商人がローロフ家と王国に損害を与えてしまえば最後、損害を取り返すために骨の髄まで金に変える。


私が知っている一件では、馬鹿な商人の1人息子がやらかして親はもちろん身内まで奴隷落ちで、内容はしないが保有していた特許をただ同然で買い取った。


希望のカケラも無い制裁。


ある意味では茶番で希望を与えた後で処刑で済ます国王よりも苛烈な制裁だろう。


「そういえば知っていますか?」

「な、何をでしょうか?」

「若い子なら性別を問わず、奴隷はそれなりの金持ちのところに需要があるのですよ。」

「なるほど……」


暗に奴隷にするぞって言われている?!


「ディカマン家の地位を飛躍的に上げた天才である貴方なら大丈でしょうが、もし資金に困ったら私が直接新しい事業を教えてあげましょう。」

「ありがとうございます……」


国王と宰相が言うには誤解されやすい奴だと聞いていたが、今のところあの国王に選ばれて当然だと思うレベルのヤバい人という印象だ。


歓迎はしてくれたが裏で何を考えているのかがわからない。


武力では知識より弱体化している私の方が上だろうが、実際敵対したら潰される未来が見える。

目の前の人間は金で傭兵を大量雇い私が休む暇もなく突撃させればいい、それで仕留められれば良し出来なくても資金面で敵わない私がディカマン家を守り切れるわけがない。


結論としては、絶対に怒らせてはならない相手ということ。


「さて、まずは私とディカマン侯爵で貴族共の挨拶を捌きます。メインは私じゃないけど正直面倒よ、まぁ頑張りましょう。」

「そう、ですね。」


軽く身嗜みを整えて会場へと向かう。


「最初は向こうから挨拶に来るわ。

参加者の挨拶が終わってから陛下と宰相閣下が来るから、それまでニコニコして適当にあしらいいなさい。」

「かしこまりました。」

「よろしい、では扉を開けなさい。」


そう言って会場の前に待機している使用人に扉を開けさせた。


「みなさま!大変長らくお待たせいたしました。

この度、国王陛下より王国に貢献し多大な利益をもたらしたディカマン侯爵。

宮廷特別魔法薬師カリル・ディカマン侯爵のご到着です!」


何とか場を繋いでいたであろう司会の言葉と共に私へと多くの視線が向けられる。

案内された位置に立つと、横に居たローロフが話し出す。


「これから陛下の御言葉の予定でしたか、少々予定を変更いたします。

陛下とディカマン侯爵の御言葉の前に、王国の未来とも言えるディカマン侯爵へと挨拶をする時間を設けます。」


予定を変更とは……

国王と宰相が普通に過ごしていたから平気だと思っていたが、かなり時間が押していたようだ。

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