第100話 2人との約束

パーティー準備の影響か少し警備が多くなっている王城、王城へ入るための門には貴族家の馬車が列をなしていた。


「ディカマン侯爵閣下ですね?

陛下から最優先でお通しせよとのご命令を受けています、此方へどうぞ。」


ディカマン家の馬車がその列の横を通り過ぎて行くと、外から大勢に見られているのを感じ取った。


見られていても見られていなくても変わらないような数が多いだけの有象無象達の視線から、相手に圧を与える存在感のある視線。


御者や護衛の視線も混ざっているだろうが品格のない雑魚貴族は前者の視線で、今日のパーティーでこれだけの人数と挨拶するのが憂鬱になる。

逆に後者の存在感のある視線、有象無象とは違う存在感を持つ視線の主は仮に敵対するとしても会って話すのが楽しみだ。


「ついにカリルも王城に自由に立ち入りが可能になりますね。」

「……そうですねミゲアル宰相。」


いつの間にか目の前に座っていた宰相、既に何回か同じことをやられていたから特に驚きもしなくなった。


ちなみにミゲアル宰相という呼び方は、呼び方が堅苦しい!と言った国王と宰相のお二人との話し合いで決まった呼び方だ。

プライベートの時は名前と役職で呼ぶことを約束している。


「もう驚かないなんて私はつまらないよ。」

「毎日同じことをやられていれば仕方のないことかと……」

「最初は本気で殺しにきてくれたのに、本当に寂しい……」


1番最初のとき、馬車の中で急に肩を触られた私は反射で嫉妬能力を発動し手の主を食い殺せと命令を出した。

幸いなことに宰相が御者や周囲の人間の意識を逸らす魔法を使っていた事でバレる事はなかったが、宰相の片腕を消し飛ばしてしまった。


「あの時は、本当に申し訳なく……」

「いや、あの時は久し振りに楽しかったから逆にお礼を言いたいほどでした。

まぁ、直ぐに召喚生物を消されてしまって物足りない感じはしましたが。」


すごく不満そうな表情で腕を生やしてましたからね……


「なぁカリル、一度本気で戦ってみませんか?」

「……正直嫌です。」

「わかった、勝利条件は相手が懐に入れたコインを取るまで、とかどうです?」


絶対に戦わない。


理由は色々あるが、1番の理由は知識の中で嫉妬伯爵と呼ばれている私ですら同時期の大罪としては最弱として扱われているのに、弱体化している私では相手にすらならない。


「全力の戦闘は体験しておくべきだと思いますが、一回だけどうですか?」

「えっ、と……」


確かに宰相の言う通りだ、格上相手の全力での戦闘は体験があるのと無いのとでは勝率が大きく変わる。


私の場合だと格下なら技術の欠片も無い物量でも勝てる。

しかし格上ともなると物量は圧倒的な力でねじ伏せられて体力と魔力を無駄に消耗するだけ、戦略を立てるにも経験が無ければ不可能。


宰相との戦闘は流石に命までは取らないがお互いに脚や腕の1本を覚悟してでの戦いになる。

格上との全力勝負、それが命までは関わらないのなら断る理由など本来なら無い。だが全力で戦ってもし弱すぎて失望されたらと思うと了承できない。


「あー、なるほど!

わかりました、私が嫌なら陛下にカリルと全力で戦うように頼みましょう。」

「辞めてください。」


何をやらせようとしてるんだ。


近接特化のフィジカル陛下と召喚メインの本体貧弱の私では3秒で沈められて終わりだ。

一瞬だけ私が陛下と戦う際の戦略を考えてみたが、召喚生物による全力の行動阻害と毒による弱体化を待ち、その間は魔法薬での回復か魔法での身体強化での逃走しか勝ち目がないだろう。


「ちなみにですが私と陛下は2-8の割合で私が負けます。

なので気軽にやりましょう?」

「考えておきます……」


最近の宰相が私に戦おうと言っているのには理由があると思っている。

それがただの興味なら良いが疑念からくるものなら断り続けるこの状況は良くない、そろそろ覚悟を決めるべきなのだろうが失望を恐れてどっち付かずの状態で決定を先延ばしにしてしまっているのだ。


コンコン


「ディカマン侯爵様、到着致しました。」


少し気まずい空気になってしまったとき、馬車が止まり外から声をかけられる。


「では私は先に王城に戻っている。

陛下も楽しみに待っているから、寄り道せずに来てもらえますか?」

「かしこまりました。」


軽く頭を下げると同時に宰相は煙のように消えた。

何度見ても宰相の使うこの魔法がどんな効果なのかわからない。


「私と話していたのが幻影なのか、それとも……」


ビックリさせてくるとはいえ、宰相の消えた魔法の正体を考えるのが楽しみになっていた。

今日も魔法の正体を考えながら馬車を降りて、待機しているメイドに案内をしてもらう。


「……」


何回も通っているうちに、初めての国王との雑談の日に感じていた使用人達の私に対する敵意は消えている。

どうやら私が王城に通うようになってから使用人達が敬愛する国王の機嫌が良く、主人が楽しんでいる、と私に感謝しているのだとか。


「此方の部屋で陛下方がお待ちです。

我々は本来の業務に戻れとの命令を受けておりますので、これにて失礼致します。」

「あぁ、案内ご苦労。」


去って行く使用人が見えなくなるまで待機し、周辺から完全に人の気配が消えたのを確認してから扉を開ける。


「入ります。」


「よく来た!」「先程ぶりですね。」


ノックをせずに入室、これもお二人と決めた約束だ。

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