第99話 纏まらない思考
魔法の影響で久しぶりに熟睡した私は、体の節々がまだ少し痛むものの普通に動ける程度にまで回復した。
だが、
「軽く食事を取られますか?」
「そうだな、少し貰おうか。」
目が覚めるまでどんなに声をかけても起きなくて使用人達が慌てていたことと、
「私の服は届いているか?」
「はい、一応は風通しをしてしっかりと管理をしておりましたので……
ですが、本当に行かれるのですか?医者に診てもらった方が……」
今日が国王の言っていたパーティーの日だということ、
「よかったよぉ……」
最後にマリアのメンタルが沈んでしまったこと、この3つの問題が発生した。
疲労を取り除けた代償としては大きすぎるし面倒くさすぎる、解決したらまた倒れるのではないだろうか。
私が起きていれば避けれたことだが、眠り続ける私を心配してか目を開いた瞬間から私の部屋に居て声を掛けてくれた使用人達。
起きてすぐの頃は凄かった。
……ん?
「そういえばミナの姿が見ないが、どこに居るんだ?」
「休憩をしないでカリル様に身体強化系の魔法を使い続けていたので、現在は自室で魔力切れで眠っております。」
今のミナの魔力が切れるなんて相当だ。
あのチャラい魔道具の効果で魔力量なら国でもトップクラス、扱いに関してはまだ粗があるがディカマン家での訓練で上手くなり魔法を使う時の消費は減ってきている。
その大量の魔力が尽きるほど魔法を使い続けるとは……それの影響で逆に体が重く感じるのでは?
「後で礼を言わなくてはな。」
脳裏によぎった疑問、正直身体強化をそれだけ長く続けたことがないからわからないが、あり得なくはない話だと思う。
眠りすぎたら体が重くなったり、マッサージを頻繁に受けていると疲れやすくなるように、身体能力を強化し続けた影響で体の節々が少し痛いのではと……
私のことを心配しての行動だろうから特に注意はする気は無い。
「よし、やるか……」
ミナの心配をしながらも、使用人の用意してくれたサンドイッチを食べて身嗜みを整えていく。
ついでに今日のパーティーの目標を建てる。
今までのパーティーは友好的な貴族家を作り家同士の関わりを強くするのが目的だった。
だが国王がわざわざ私の陞爵パーティーを主催し、派閥所属しているかもうかに関わらず招待状を送り、出席欠席を問わないという事は、おそらく今日のパーティーの目的は真の意味でのディカマン家派閥形成だろう。
国王がここまで御膳立てしてくれている、つまりは好きな者を引き込めということだろう。
今回の参加者は大半が友好的で利益をもたらしてくれる存在、一部は他派閥のトップ層、そして特に使える能力を持たない繋がることで私に不利益しかない存在。
まずはクルトが来ていればカルティ家との関係を周囲にアピールし、最近のパーティーで関係を深めた引き込みたい貴族家に声をかけよう。
だが問題もある。
逆に私を派閥に引き込もうとする者達への対応も考えなくちゃいけないし、来ていれば声を掛ける予定の貴族家は今の所中立の存在だが情報を売る即席のスパイが生まれる可能性があるのだ。
契約魔法で縛るのも1つの手だろう。
「馬車の準備が完了しました。」
「わかった、もう出るとしよう。」
まだ脳内で今日の流れをザックリと考えていたらあっという間に私自身の準備は終わり、商人に頼んでおいた馬車の用意も終わったようだ。
始まりにはまだ早いが、国王との準備の時間も必要だろう。
少し話せればなお良い、最悪何も出来なくても休憩時間と思えば悪いことじゃない。
「もう、行っちゃうのですか?」
「あぁ外せない用事だしな。」
私が起きてからそこそこ経ったのに未だに涙目で私を見つめてくるマリア。
多分パーティーに連れて行っても許されはするが、陰謀渦巻く貴族パーティーは凄まじいストレスになる。
ずっとマリアの側にいる訳にもいかないし、会場に1人になる時間もあるしな。
「大丈夫だ、ほらフーちゃんも居るだろう?」
『フッ?』
「う、うぅ……はい……」
最近マリアの腕に収まっておらず部屋の中を飛んでるフグを捕まえて手渡す。
全く、自分の役割を忘れるとは交換の時期かもしれない。
『フゥ〜〜。』
「……」
そういえば召喚した生物っていつ消えるんだ?
基本的に召喚した生物は使い終わったら消しているし知らなくても良いんだが、1番長い間召喚したままのフグとの繋がりが少し薄くなっている。
もしフグが強力な能力を付与した生物だったら、この繋がりが完全に消えたとき、フグは消えるか消えずに生命としてこの世界に誕生してしまい、暴走するかもしれない。
そうなっては危険だ──
「いや、今はそんなことどうでも良い。」
ダメだ、優先度の低い事ばかり考えてしまって目の前の重要なパーティーについての思考がうまく出来ない。
無意識で緊張しているのか?
わからない、だが私にとってもディカマン家にとっても今後の進退が掛かっている気持ちで当たらねば。
「今、何か……?」
「大丈夫だ。
良い子で待って居るんだ、何かお土産を買ってくる。」
一度深く深呼吸をして気持ちを切り替える。
「では、行ってくる。」
「行ってらっしゃい、待ってるね……」
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