第98話 なんか弱くね?
いきなりだが私が王都でどのような毎日を送っていたのか解説しよう。
起きて王城へ向かい国王と昼まで雑談
帰宅してマリアやミナ、使用人達と会話をしながら屋敷関連の仕入れ
そのあとの夜にはパーティー
過酷な予定の中にある僅かな隙間時間を見つけて、
魔法薬の研究をしながら、王都で魔法薬師のスカウトを行い
ディカマン領から3日に1回ほど送られてくる報告書を読み、返信を書く
最後は睡眠
……お気づきだろうか、ほぼほぼ休みの時間がないということに。
こんな生活を続けていると時間の進みが早く感じられ、あっという間に学院への入学日があと3日後に迫ってきていた。
そして、
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「兄様に私の風邪が移っちゃったのかも、ごめんなさい。」
「いや、普通に疲れているだけだから気にするな。」
私は疲労で寝込んでいた。
一昨日まで疲れかストレスのどちらかでマリアが寝込んでおり、国王にやっと明日連れて来ることが出来そうですと伝えたのに疲れすぎてベットから出たくない。
魔法薬を飲んで疲れを誤魔化してはいたが限界だったようで、全く動く気力がわからない。
「失礼します!リンゴを持ってきました!」
「あぁ、ありがとう。」
私が体調不良と知ったミナは他の使用人達に事情を共有し、ついでに軽く食べれる物を持ってきてくれたようだ。
「早速剥きま……あっ。」
……皮も何も剥かれていない1個のリンゴ、そして残念なことに、この部屋にはベットと椅子、そして羽ペンと紙しか置いていない。
つまり、
「あのミナちゃん、この部屋切るもの何も無いんじゃ……」
「……申し訳ありません、直ぐに持ってきます!」
ナイフが無いのだ。
自分で気づいたようだから、言わなくても良いかと思っていたらマリアが言ってしまった。
指摘されたミナは恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてリンゴを持ったまま再び部屋をあとにした。
「やっぱりミナちゃんって可愛いよね。」
王都の五月蝿い環境にだいぶ慣れてきたマリアは、ディカマン家の屋敷で過ごしていた時と同じように話せている。
調子も戻ってきたのか少しずつ笑顔が増えてきた。
「兄様?」
「ん?まぁ、そうだな。」
「認めましたね?」
最近では何故か私に対してミナの印象を言わせようとしている。
マリアは可愛い、好き、に近いの言葉を好んでおり、何を考えて何を求めているのか流石の私でも察してはいるのだが……
「あぁ、認めたよ。」
「おおぉぉぉ!」
恋から破滅に向かう事実がある以上、まだそんな気になる事は絶対にない。
「あれ?」
「ん?どうした?」
「なんか、変?静か?」
ニヤニヤ笑っていたマリアが急に辺りを見渡し始めた。
なんとなく既視感のある静けさ、前に体験した時も王都だったな。
コンコン
「ヒッ……」
「マリア、こっち側に居るといい。」
ミナならノックと同時に声を掛ける、別の人間だと気づいたマリアが怖がっている。
ベットの側、扉とは反対側に移動してもらう。
「入ってください。」
「失礼しますよ。」
扉が開き入ってきたのは宰相、やっぱりか。
「おいおいカリル、体調不良なんて珍しいな!」
「陛下あまり大きな声を出さないでください、そこにいる少女が怯えておりますよ。」
でも国王まで居るのは聞いていない。
「陛下に宰相閣下、こんな状態で申し訳ありません。」
「良い良い、そんな事より動けない理由は過労か?だからあれほど休めと言ったろ?」
休めなかったのは予定を入れまくった御二人の所為なのですがね。
という言葉をグッと飲み込み苦笑いで答える。
「それで、この少女が慈悲の能力を持つ者か?」
「えぇ、マリア自己紹介を。」
先程から怯えているのが見なくても気配でわかっていたマリアは、2人に対して不思議なモノを見る表情なのに顔色は青白くとても悪かった。
「わ、私はマリア・ディカマン、です。
国王陛下と、宰相閣下に挨拶、を申し上げます。」
「うむ。」
挨拶は途切れ途切れではあったが、怯え具合から考えて頑張った方だ。
「……ミゲアル。」
「はっ、【止まれ】」
国王の合図で宰相が魔法を使用する。
大罪の力を多く込めていたのか私には効かず、マリアだけが停止した。
「なぁカリル、この慈悲なんか弱くね?」
「このレベルは流石に拍子抜けですね〜、まぁ危険が無いだけマシですが。」
マリアの能力は視界に入った他人の心を読むだけであり、戦闘能力は今のところ皆無。
「マリアの持つ慈悲の能力は他人の心を読むだけですので、戦闘面では殆ど変わっていないですね。」
「汎用性低〜。」
「大罪にも通用するならともかく、私と陛下の心を読んでいるような反応は無かったですし、恐ろしいレベルの雑魚です。
慈悲には是非とも忠義を見習ってもらいたい。」
克服した大罪所持者にボロボロに言われる慈悲。
まぁ私も知識で慈悲が強くなるオッドアイを知らなければ雑魚だと思っていただろう。
「ですがこれから強くなるかもしれませんよ?」
「そうか?」
国王はこれが〜?と言いたそうな表情だ。
「カリルの言うことも一理ありますね。
慈悲がこんな能力しかないのなら、大罪と対をなす力の位として不合格です。なんらかの強化が残っているかと。」
宰相の言葉に目を瞑り考え込む様子の国王、そのうち結論を出したようで私達に向かって話し出す。
「取り敢えず慈悲の能力者はカリルに任せる、我々に逐一動向を報告する必要は無いが危険な行動は報告すること。
良いな?」
「かしこまりました。」
今のマリアは弱すぎて戦力に数えるのは不可能、かといって大罪の対である美徳なので暴走の危険はある。
現状のマリアに対して1番楽で安全な処置は処分だが、おそらく国王が私に気を遣ってくれて監視のみにしたのだろう。
「目的とお見舞いも終わったし今日は帰るかな、ゆっくり休んで入学に備えるんだぞ。」
「個人的な予定はキャンセルしておくのでゆっくり休んでください。」
「……ありがとうございます。」
休み、その2文字に顔がニヤケそうになるのを全力で抑えて答える。
「じゃ、またな。」
「それでは。」
「はい、わざわざ足を運んでくださり本当にありがとうございました。」
2人が扉から出るのを見送った私は目を閉じた。
魔法は暫くしたら解かれて時間の進みも正常になるはずだ。
「あっ、言い忘れてたが入学前日の夜は王家主催のカリルの陞爵パーティーがある。
それだけは出てくれ!じゃ!」
今度こそ足音が離れていった。
「……【
疲れを回復させなければ倒れると確信した私は自らに魔法をかけて深い眠りに落ちるのだった。
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