第97話 誤解です
「で、ディカマン公爵を送る馬車は何処に置いてある?」
「こちらです。」
まだ少し潤んでいる瞳のまま離れた位置に待機していた使用人に話しかける王女、場所を知らないのに案内とか言ってたのか……
「ディカマン侯爵は何故か話しやすかった。
こんな初対面では無ければ仲を良くし、良好な関係を築きたいと思うほどだったよ。」
「それは良かったです。」
案内する使用人が近くにいるから、当たり障りの無い会話になっている。
そのまま歩いて前方に馬車が見えた頃、なんとなく嫌な予感した。
嫌な予感と言っても、虫の知らせのように悪い事ではなく、あまり知られたく無い事を知られた時のような苦い予感だ。
「ディカマン侯爵、今日は本当にすまなかった。
君と奴との関係は知っていたが、1番勢いのある貴方には声を掛ける方が良いと判断したんだ。
改めて本当にすまなかった。」
自分で言うのは変だが、今この国で1番貴族としての格が上がっているのは我がディカマン家、派閥を持つ者なら大多数な引き込みたいと思うだろう。
王女もその1人だったのだ。
だが私と英雄の子孫の関係は知っていたが、後がない焦りもあってか今回の勧誘を行うことにしたのだろう。
「いえ、もう気にしておりませんよ。」
気にしていないのは本当だ、警戒はしているが破滅一直線の奴等は監視対象としての価値しか見出せない。
だが目の前の謝罪をする王女からは私に対して罪悪感を持っていると感じた。
それに使用人の居る場での謝罪のために、英雄の子孫を奴とぼかす程度には冷静になれたようで安心した。
「ではなディカマン侯爵、また機会があれば話そう。」
「えぇ、また機会があれば是非。」
そんな機会は極力回避するつもりだがな!
最後に挨拶をし私は馬車へと乗り込む。
馬車の中は軽く魔法で拡張されており、横になって休めるベットもあった。
そして、
「手紙……?」
とても分かりやすい位置に見覚えのある封筒があり、一目見た瞬間に予感の正体が分かった。
屋敷に届いた時とと同じように震える手で封を開けて手紙の内容を確認する。
『え、夜に2人きりってまじ?まぁ俺の血筋だし容姿はいい方だな。
それはそれとして、あいつ欲しいなら奴隷落ちさせるよ?』
この軽さで残酷なことを当たり前のように書いてある手紙、間違いなく国王だ。
そして私は声を大にして言いたい。
「誤解です、陛下……」
今直ぐにでも国王の部屋に突撃したかったが無情にも馬車は動き始めていた。
ーーーーー
ディカマン家へと与えられた王都の屋敷では夜中なのにも関わらず一部明かりがついており、使用人達が屋敷で生活するための準備を進めているのが分かった。
「ディカマン侯爵様の御希望があれば明日の夕方お迎えにあがるようにと命令を受けておりますが、どういたしますか?」
「では頼もうか。」
御者は最後に頭を深く下げ王城へと戻っていった。
「あっ……」
休もうと屋敷の扉を開ける途中に1つの問題に気がついた。
私は何処の部屋で休めば良いのだろうか?
本来なら使用人に聞けば直ぐにわかるだろうが、夜遅くまで働いてくれている者に声を掛けるのは少し気まずい……
仕方ない、適当な部屋のソファか椅子で休もう。
「すー……」zzz
屋敷に入ったら寝ている者の姿が目に入った。
ディカマン家から持ってきた家具と王都で仕入れた家具はまだエントランス付近に置かれており、その中の1つのソファでミナが寝ていたのだ。
「寒くないのか?」
「さむぃ……」zzz
「?!?!」
寝てるのに喋った?!
「……」zzz
起きているのかと思ったが、ただ眠りが浅いから無意識で反応したのだろうか?
「たしかアイテムBOXに……」
私のアイテムBOXには貴重な魔道具以外に、貴重な素材も入っている。
そんな素材のうちの1つ。
「フェアリークロス。」
反対側が透けて見えるほど薄い布にも関わらず、外気の一切を遮断することのできる布。
国王の正妻が婚約発表時に着るドレスの一部にも使われ、貴族の娘なら一度はフェアリークロス製のドレスを着てみたいと夢を見る、そんな高級素材だ。
まぁ魔法薬には使い道は無い。
さて、フェアリークロスをミナにかけてあげて私は近くにあった大きな椅子に座った。
「はぁ、やっと休める。」
今日は本当に頭が痛くなることが多かった。
シラス捕食事件に、国王との食事会に、王女の呼び出しに、不名誉な誤解。
王都に来た初日からこれでは、いくら大罪で人の枠に収まらない身体になっているとはいえ、学院入学の日に過労で倒れていそうだな。
「……」
音の無いエントランスで椅子に深く座り少し目を閉じる。
私は寝る必要は無くても気分的に少し寝た方が、疲労感とダルさがある程度抜けるのだ。
「ふふ……」zzz
寝ているミナから微笑む声が聞こえる。
「ミナには苦労をかけるな……」
マリアと使用人達の間に立ち、使用人としての仕事も行いながら魔法の勉強……
最近ではそんな生活にも慣れてきたのか疲れの表情を見せる事は減ってはいるが、身体には疲れが溜まっているのかもしれない。
「ありがとう。」
そう言って目を閉じる。
こうして王都での1日目が終わった。
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