第96話 無理難題

最高級服の袖口で涙を拭き取る王女、なんとかして泣き声を堪えようと頑張っている。


「うぇぇぇ……」

「……」


今更だがこの現状はかなりヤバイのではないだろうか、貴族である私の目の前で王族の1人である王女が声を抑えながら泣いている……

この現場を第三者に見られたらと考えると、落ち着くまで待とうと判断したのを後悔している。


というか後悔では済まない。

国王と宰相が味方してくれたとしても、変な噂は間違いなく流れる!


そして噂を聞いた王女と交流のあるクソ主人公が学院で出しゃばって来るだろう。


面倒だ!


仕方ない。

泣いている女性を泣き止ませる方法なんて私には到底思い付かない、だがまずは理由を聞かなくては始まらない。


「何か事情が有りそうですね、王女様の提案を断った私でよければですが話してみませんか?」


慣れないことをしたせいで、私の言葉が何処かの本で読んだ台詞と混ざって少し変になってしまった。


「迷惑かけたのに、いいのか……?」

「えぇ、王国の貴族として当然のことです。」


現在進行形で変な噂が立つ可能性を生み出すという迷惑を掛けられ続けているのだ。

早く落ち着かせるために動くのは当然のこと。


「陛下……父上に言われたんだ。

私を国王にするつもりだった、子供の中で私には1番期待していたのに……

失望した、と……」


話すことに集中しているからか涙が少し収まってきた王女の話を聞きながらも、近くにシラスを召喚して警戒させる。

内容に国王が出た時点であまり漏出して良い話では無いと気づき、警戒度をさらに上げていくことにしたのだ。


「呆然としてしまった私に父上が『お前が助けたのだ、お前が英雄の子孫の管理をしろ。』と言ってきた。

もし完全に制御できれば次期国王に指名する、これが最期のチャンスだと。」


なるほど、事情はなんとなく見えてきた。


それと同時に目の前の王女へ少し同情した。

イーウェル公爵の件から分かっていたが、国王と宰相は破滅が決まっている相手に薄い希望をわざと持たせるのが好きで、王女へのチャンスもやりかねない。


いや、私にどうしろと。


そもそも国王と宰相の意に反してまで先がない王女に協力する気持ちは全く無く、ここから早く帰りたい気持ちの方が強い。


「パーティーのあと少しレオンと話したが、自分が全て正しいといった考えで管理なんて到底不可能だった。

とても強い力を持っているレオンを抑えることの出来る猛者はこの国でも一握りだし、私の派閥にはそこまでの武闘派は居ない。

なら役割を与えて弱いながらも立場という腐りで縛り付け、ある程度は許容するしかなかったんだ……」


それであの破滅に一直線な提案を聞かせてきたのか。

王女が言ったように、国王に指定された条件の達成は至難の業、正義だと思い込んでいる自分のために動く奴は首輪をつけても大人しくならない。


「そもそも、あの場でレオンを助けたのは助けられたお礼のつもりだった。

今思えばあの場で助けなくても良かったと思うし、まさかこんな事になるなんて……」


哀れだなぁ……


「王になって、国全体の道を整備したり、国で衛兵を雇って街や村に派遣する政策を行いたくて、計画をずっと練ってたのに……」


そんな王女の国や民に対する想いがこもった大掛かりな政策は、王になれないため実行されない。


現状で王になったとしても、英雄の子孫という重過ぎる足枷のせいで貴族からの協力を得られはしないだろう。


仮の話だが英雄の子孫を魔法契約で縛られた奴隷にさえ出来てしまえば全て解決。

目の前で泣く王女が王になって、王女の人生を捧げた政策で国は更に発展していただろう。


まぁ、そんな未来は永遠に来ない。


「それは残念ですね……」

「あぁ、父上との関係も壊れてしまって、これ程までに後悔したことは無い……

私が未熟なせいでミスをしたり損害を出しそうになったこともあったけど、今回のように父上との会話が出来なくなることは無かった。

今では挨拶をしても無視されているよ……」


話しているうちに涙は止まっており、王女は憔悴しているような顔を私に向けた。


「時間を取ってくれて本当に感謝する、ありがとう。」

「いえ、王女様が少しでも楽になれたのなら幸いです。」


メルデナ王女との会話は情報を欲していた私にとって少しだけ良い物となった。


これは解散の流れに入ったと思った時、一気に疲れが襲ってきた。

別れの挨拶をしようと王女の方へ向く。


「夜も遅いです、そろそろ解散しませんか?」

「そうだな。

……1つ思ったのだが、ディカマン侯爵は不思議な感じがするな。目の前に居るはずなのに、何処か別の場所から見下ろされているような気がする。」


内心で哀れだと思っていたのがバレたか?


私の演技を王女に見破られるとは思わないが、ディカマン家が魔法薬の才能を受け継ぐように王家にも受け継がれている何かによってバレたかもしれない。


「そのようなつもりは無かったのですが、申し訳ありません、ご不快だったでしょうか?」

「逆だ。こう言うのは失礼かもしれないが、人では無いように感じて話しやすかった。」


今度国王に血筋で引き継いでる力があるかって聞いておこう。


「話を聞いてくれて本当に感謝する、お詫びとしてはなんだが私が馬車まで案内しよう。」

「ありがとうございます。」


心なしか距離を詰められた気がした。


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