第94話 優秀だった

「まぁ、カリルから真面目なところが急に消えたら誰だ!って言ってしまいそうな気がする。

無理に変える必要はないが休憩は大事だ。そうだミゲアルを見習うといい、あいつは好きあらばサボろうとするぞ。」

国王の言っている事はわかる。

確かに休憩は大事だが、体を動かしたり、何かしら考えていないと落ち着かない。


まさに悲しき研究者としての運命。


だが周囲から見れば悲しき運命でも、本人からすれば当たり前で普通のことだ。


「今日はこんなもんか、次はカリルの話を聞かせてくれな。

解散!」


次までに話題を考えておこう。

国王にもらった屋敷で何故か居たヌコに私の召喚したシラスが食べられた話なんてどうだろうか。


「今日は楽しかったです、ありがとうございます。」

「私と君の仲だ、人の目が無いのだしもっと軽くでいいぞ。」


もし此処で『じゃあな』と言っても国王は怒らないだろう。

でも私の性格的にそれは難しい、だけど国王は私に壁を少し薄くして欲しいと思っているはず、なら敬語を少し外してみよう。


もしかしたら気を抜くための1歩になるかもしれないしな。


「そうですか、では……

また明日。」

「おぉ!また明日な!」


親友のように軽い挨拶を交わし、部屋から出ようと立ち上がり扉へと向かう。


「話さずそのまま扉をゆっくり開けてくれ。」

「……」


ドアノブに手をかけた瞬間、国王が瞬間移動のような速度で私の後ろに立ち両肩へ手を置いた。


「この王都に厄介なのが入っている。

我が国と教会の仲が致命的に悪くなっている現状で、学院に入学するという判断をした狂っているとしか思えない聖女達だ。」


聖女、達?


知識の中で学院に入学する聖女は主人公と共に行動する1人しか居らず、学院内での聖女の立場は貴族でないため平民扱いだったはずだ。


平民は学院に入学した時点で寮に入る、寮はもちろん食堂や制服などは完全支給で金が掛からない。

だが生活の全てを自力で行う必要があり、付き人が居た聖女は困っていた所を主人公に助けられ……というのが知識にある聖女合流の流れ。


だけど国王は聖女達と言った。

私がキッカケの教会との敵対で、護衛か使用人が着くか、世話をする関係者が入学するのだろう。


「無駄に平民からの好感度の高い女でカリルのように民衆の前で罪を告白させない限り、冤罪を着せて処刑しては反乱が起きかねない。

入学までは私が完全に監視する体制を整えているが、一応警戒はしておいてくれ。」


無言で少しだけ頷き、扉を完全に開いて後ろを向く。


「今日は本当に良き日だった。」

「私もです陛下、それでは失礼致します。」

「うむ、また明日、楽しみにしている。

客人のお帰りだ!」


数人の使用人が近づき、その場で跪く。


「ディカマン卿を屋敷へと送るように、私は公務に戻る。」

「「かしこまりました。」」


最後に国王が私へ笑みを浮かべながら口パクで『またな』と言って扉を閉めた。


「ディカマン侯爵様どうぞコチラへ、馬車を用意させている場所に案内いたします。」

「あぁ、頼んだ。」


王城は夜中だというのにまだ大勢の使用人や騎士達が各々仕事をしていた。

だが私語は一切無く、物音も最小限に抑えている影響で人が居るはずなのにとても静かで不思議な感覚だった。


「こんな時間まで大勢が働いているのか……」

「王城の使用人というのは真の実力主義で皆勤勉なのです。」


私の言葉を拾った使用人が話し始める。


「この王城では毎月新しい者が5名入り、元から居た使用人が5名クビになります。

基準は陛下が直接見て決めてくださり、怠けた者、あり得ない失敗をした者、同じ失敗を繰り返す者、立場が上がったからといって威張る者、など様々ですが、使えない者からクビになります。」


なるほどな、切磋琢磨するための環境作りなのだろうが少し息苦しさを感じる。

脚の引っ張り合いも起こりそうだ。


「なかなか辛い環境に思えるのだが、実際のところはどうなんだ?」

「そうですね、おそらくディカマン侯爵様が考えているような使用人同志の争いはございません。」


瞳に見覚えのある怪しい色を浮かべた使用人が話を進める。


「陛下は私共1人1人をしっかり判断してくださっております。

卑劣な手を使った瞬間クビになる者もおり、我々は自らの技量を上げることに集中し、正々堂々と上に上がる事を目指し切磋琢磨できる環境でございます。」

「そうか。」

「それに──」


あぁ、この怪しい色はアレだ。


「陛下が私達1人1人をしっかりと見てくれている、1国の王が王城に働く平民も1人残らず……

そんな慈悲深い御方の近くで働ける、それ程までに幸せなことは御座いません。」


最近見たことがある、熱心な狂信者の眼に宿る色だ。


国王の策かはわからないが、使用人達に信仰心に近い気持ちを植え付けるのは裏切り者やスパイへの対策になる。

だがデメリットとして暴走する可能性もある。


「はぁ……」


あぁ、なんということだ……

女王を崇める場所から解放されたと思えば、今度は主人の為なら死にかねない使用人が大量にいる場所へと毎日通わねばならないのか……


屋敷でのシラス捕食事件から始まり、使用人達に誤解され、国王との食事……色々とあって疲れた。


「ディカマン侯爵、少し話をさせてくれないか?」


もう帰らせろ。


そんな気持ちで後ろから呼び止めて来た声の主へと振り返る。


「これはこれはメルデナ・ヴェンガルテン王女様、一体なんの御用でしょう。」


王城内で私を呼び止めるような相手はそう居ないし、軽くあしらって帰宅をと思ったが王族なら仕方ない。

しかしこんな時間まで起きているのは偶然とは思えない、私を呼び止めるために起きていたのか?


「場所を変えさせてもらえないか?」


さて国王と宰相から次期国王として期待され、とても優秀だったであろう王女様は一体何の用なのだろうか。



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