第93話 気を抜く方法

前まで近づいてきた国王は私の肩をバンバン叩きながら笑っている。


「手紙で自領の教会幹部を処刑したと知った時は驚いたぞ!

いやぁ、流石は大罪だな!」

「あの時は急なご連絡で……」

「気にするな、俺も王都に違法な薬を持ち込もうとした罪で教会関係者を処刑したぞ?」


冤罪じゃないよな?

罰を与える罪が無ければ作ればいい、的な事じゃないことを祈る。


「ついでに邪魔な貴族も教会の協力者として片付けておいた。」


これは冤罪だな、まぁ国王が邪魔だと判断したなら暗殺かなんらかの手段で消したほうが国にっとて有益なのだろう。


「そういえばカリルの妹は何処にいるのだ?」

「あっ……」


国王の予定表に驚いてしまい、マリアを連れてくることを普通に忘れていた。

そもそも王都に連れてきたのは国王に会わせるためだったのに何をしているのだろうか……


「申し訳ありません、連れてくるのを忘れていました……」

「そうか!じゃあ明日だな!」

「……はい、そうなってしまいます。」


すまないマリア、お菓子作りは延期になる可能性が出てきた。


いや、なんとかして夕食に連れて行くということで了承してもらおう。


私が王城に向かう前に見たマリアの状態は、寝込むほどではないものの少しつらそうだった。

人が多く、人の話し声や動く音がマリアのストレスになっており、ディカマン邸のように時間をかけて慣れるのを待つしかないだろう。


「よし、ならば今日は面倒なことを先に片付けてしまおうか。」

「面倒なこと、ですか?」

「ゴミの子孫とゴミ公爵のことだ。」


なるほど、決まっている処罰とこれからの行動の確認だな。


「食事が来るまでに終わらせるぞ。」

「かしこまり──ん?」


食事が来るまでって、あと僅かじゃないか?そんな短い時間で話せるのだろうか。


「公爵、カリルが学院に入学すると同時に取り調べの程で拘束。ゴミの子孫、未定。

以上。」


そんな要所だけ纏められても……


「さて、続きはまた明日になりそうだな。」

「ですね……」


最初から今日は私と奴等の件で話すつもりは無かったのだろう、外から食事を運ぶ足音が聞こえると同時に話を切ってきた。

いや、そもそも話になっていなかったが……


コンコン


「お食事をお持ちいたしました。」

「入れ、食事を置いたら外で待機。」

「かしこまりました。」


メイド達により手際よく並べられていく料理、少し意外だったのがコースで出すのでは無く、一気に出したこと。


かなり珍しいな、国王の趣味だろうか。


「それでは何かあればお手元のベルでお知らせください。」

「うむ、下がれ。」

「失礼致します。」


扉が開いている間は外の音が聞こえていたが、閉まった瞬間に全く聞こえなくなる。

音を遮断する構造になっているか、魔道具の力だろう。


「なぁに、カリルの入学まで時間は沢山ある。今日は楽しもうじゃないか。

さぁ、グラスを。」


宰相とした乾杯を思い出しながらグラスを持ち国王の側へと近寄る。


「乾杯。」



ーーーーー



私と国王の食事は問題無く進み、食事を終えたあとも飲みながら話し続けていた。

会話はそこそこ盛り上がっているとは思うが、基本的に私が聴く側に徹している影響か、他国にバレたらそれなりにヤバい話がどんどん出てくる。


「それでな、ミゲアルの実験は失敗したんだよ。

人を杖にする発想は良かったのに実験で魔法が暴走しかけて国の所有する金鉱山を1つ消して、まぁそこそこの損害が出たわけだ。」


今は例の宰相の実験の裏話を語られている最中だ。

というか、金山1つでそこそこって……並みの貴族なら鉱山1つ失うだけで没落の危機である。


「ふぅ、それにしても楽しい時間はあっという間だな。いつの間にかこのボトルも空だ。」

「16本目ですね。」

「え?3本目じゃなかったか?」

「いいえ、あそこに積み上がっているのが陛下の飲んだ空のボトル、これで16本目ですよ。」


最初は綺麗に机の上に空のボトルを纏めていたのに、いつからか床に放り投げられ始めたグラスを私の召喚したクラゲに片付けさせている。


その本数はなんと15本。


今飲み終わったので16本目、それを3本目だと思い込むほどに国王は酔っているみたいだ。

酔いたい気分だったんだろうが、少し耐性を下げすぎじゃないだろうか?


「カリルは真面目だな。」

「陛下なら酒程度で体を壊すなどあり得ないことですが、飲み過ぎはよろしくないかと。」

「あぁ違う違う、そっちじゃない。」


さりげなく今日は酒を止めるように誘導していたのを嫌がったのかと思ったが、違ったのか?


「今後の事が気になりすぎて上手く楽しめていないだろう?食事中にも色々と考えていたろ?」

「……そうですね、かなり考えていました。」


正直言って知識の原作開始が近づいている現状は、どうしても緊張してしまう。

どのように立ち回るか、どのように奴を回避するか、そればかり考えている。


「全く、食事中まで考え事なんて、美徳の勤勉じゃないか、大罪なんだからもっと怠惰であれ。」


楽しむはずの食事会で相手が楽しんでいないのは不快だろう、私の悪いところでどうにか改善しないといけないな。


気を抜く方法、か……


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