第92話 夕食(陛下付き)

太陽が沈み始め、屋台が片付けられ酒場が賑やかになり始めた頃。

私はディカマン家の馬車に乗り王城へと向かっていた。


理由は単純。

あの後、手紙に同封されていた予定表を全て細かく確認していたのだが、私が王都に到着していなかった日付にすら王城での雑談の予定が入っていた。

これには陛下の早く来るのだという強めの圧力を感じ、今日の夜に予定として書かれていた雑談夕食へと向かう事にしたのだ。


コンコン


あぁ、馬車の扉を叩かれる嫌な音だ。

御者が何も言わないと言うことは王城の警備をする騎士だろう、これから食事会が始まると思うと胃が痛い。


「ディカマン侯爵様。

この先は馬車の通行は禁止となっております、申し訳ありませんがこれは規則ですので特例は陛下の指令が無ければ認められません。」

「あぁ、了解した。」


少しでも外の空気を吸ってリラックス出来るしちょうど良いな。


「さて此処までご苦労、先に屋敷へ戻っていてくれ。」

「いえ、私はディカマン侯爵様が戻るまで待機しております。」


あの国王のことだ、かなりの高確率で朝まで雑談の可能性がある。

流石にそこまで待たせるのは罪悪感を覚える。


「いつまで掛かるか不明なんだ、もしかしたら一晩泊まる可能性もある。

それに最悪の場合は送ってもらうさ。」

「な、なるほど……

わかりました、では私は先に屋敷へと戻らさせていただきます。」


ディカマン家の御者が馬車を動かし始めたのを確認してから王城へと入る。


「この道を真っ直ぐ歩くと入り口になりますが、我々は此処から離れることが出来ないので、案内人を呼ぶ事になるのですが、いかがなさいますか?」


入るといってもまだ王城の中ではなく、王城を囲うように建てられている城壁の門を潜っただけだ。


「特に曲がったりせず真っ直ぐなのだろう?」

「はい、途中横にそれる道もありませんので真っ直ぐで問題ありません。」

「ならば1人で大丈夫だ。」

「かしこまりました。それでは私も失礼させていただきます。」


立場の違いというのも関係しているのだろうが、王城を守る騎士は物分かりがいい。

それに姿勢と歩き方を見ればそれなりの実力者なのもわかり、それなりに安心できる。


カサ…………


それはそれとして、貴族で一応は会食の予定が入っていたとはいえ、1人で王城の敷地を歩かせるのは不用心だとは思っていたが、隠密に長けた存在が監視しているのか、僅かに足音が聞こえた。

気付かないフリをしながら歩きつつ、位置を特定しようと五感を集中させて探してみる。


(人数すらわからない、か……)


1人かと思えば別々のところから足音が聞こえ、さっきまで居なかったはずの場所から薄らと気配を感じたりと、翻弄されている。


まぁ、戦う気は無いから特に魔法や能力に夜探知なんて真似はしないが私は純粋な人間では無いのに普通の人間に負けてしまい、少し悔しい。


城へと入ると入り口を守る騎士と複数の使用人がおり、そのうちの1人が近寄ってきた。


「ディカマン侯爵様ですね、お待ちおりました。

これからは私がディカマン侯爵様の王城での対応を任されておりますので、何かあれば遠慮なくご申し付けください。」

「あぁ、わかった。」

「ではこちらへ、陛下がお待ちです。」


この使用人は私の顔を一眼見て誰なのかを瞬時に理解した。

今の服装ですぐわかる場所には家紋は刻まれていない、大量の予定だけは入っている私の特徴を覚えて、いつ来るかわからない私を待っていたのだろう。


あの予定表では王都に着く1週間前から予定がびっしり、つまり目の前の案内をしてくれている使用人は、ほぼ毎日朝から晩までずっとこの場に立っていたということで……


なんか申し訳ないな……


「待たせてしまったか……」


そんな私の呟きを使用人は聞いていたようで、


「陛下方はディカマン侯爵様が来られるのをずっと楽しみにしておられました。

ディカマン侯爵様が王都に到着されていなくても明日は着くか?と、笑いながらとても楽しそうに話して、毎日毎日楽しみにされておりました。」


と、少し的外れな返答をしてきた。


「そうでしたか。」


そして、私はその返答にどことなく棘を感じたのは気のせいだと思いたい。


……気のせいではないとして、使用人から棘を感じる理由は国王との食事をする予定をすっぽかした事に怒っているのだろうが、私も王都で知ったのだから許して欲しい。


まぁ、ただの使用人視点では私と国王が話して決めた食事会だと思っているだろうから来ない私に憤りを感じてもおかしくはない。


だが現実は国王が私に教えず独断で決めた食事会だ。


長い間待たされたという事で少し苛ついているだろうし、これぐらいなら私は別に腹を立てたりはしない。


それに使用人の憤りは国王の忠誠心の表れでもある、ちゃんと仕事をしている限りは罰を求めることもしない。


「陛下はこの部屋でお待ちです。

ディカマン侯爵以外は通すなと言われておりますので私は此処までとなります、10分後料理をお持ちいたします。」

「案内ご苦労。」


そう言うと使用人は歩いて部屋から離れた壁際で待機している。


「ふぅ……」


私の屋敷で宰相と会った時と同じ緊張感だ。


コンコン


「陛下、ディカマン侯──」

「入れ。」

「失礼致します。」


入室の作法は最後まで行えなかったが、扉を開けて部屋へと入ると椅子に座る国王が威厳を感じるオーラを出していた。


だが、


「よぉ!久しぶりだなカリル!」


部屋に入り扉を閉じた瞬間、国王は王の威厳を全く感じさせなくなり、魔道具を起動させて動き易さを重視した服装に着替えた。




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