第91話 なんだお前

倒されたシラスが探索していた場所は幸いな事に使用人やミナ達から離れている場所、なんらかの事故の可能性も考えて近くのシラスを向かわせ様子を見る。


ブツ!


向かわせたシラスとの繋がりも切れた。


「ふむ……」


戦闘力を全く持たせてないとはいえ、あの小さなシラスによる情報を共有をさせずに一瞬で倒せる相手、油断は出来ない。


イヤリング、指輪、ネックレス、嫉妬の神殿で手に入れた戦闘用の魔道具の装着を確認してシラスが倒された所へと向かう。


「【シラス】」

『ピィ……』


何かを察したのか、2体のシラスとの繋がりが切れた部屋の前で召喚したシラスが悲しそうに鳴いている。


「行け。」

『……』


ブツ!


無情にも部屋に入って数秒でシラスとの繋がりは消えた。

シラスを突入させてからずっと耳を澄ませていたが特に変な物音は聞こえずに繋がりが切れたことから、シラスは少しも抵抗出来ていないのがわかる。


この部屋で倒されたシラスの数は3。

情報の共有がされていないのを含めて考えると、同じ部屋に敵対者がずっと滞在するのは可笑しい。

つまり部屋の中には敵対的な存在では無く、なんらかの罠が仕掛けられていると考えるのが妥当だ。


どんな罠かはわからないが、魔道具のおかげで1度だけ怪我を負わない状態で確認すれば問題ない。


ガチャ……


ゆっくりと扉を開けていく。


この部屋の用途は決まっていないようで、机と4つの椅子が置かれているだけのシンプルな部屋。

そんな部屋のなかで異質な存在が1つある。


『ヌ〜〜』

「……」


丸々とした体、ヒゲ、四足歩行、ふわふわの毛、そんな謎の存在が扉から入って来た私を見上げていた。


『ヌ〜〜』


チリン


とりあえず危険は無さそうだが、この謎の生物をどうするか困った私は受け取った鈴を鳴らすのだった。


「お呼びでございますか?」


早いな。


「この生物も陛下からの贈り物だろうか?」

「生き物……いいえ、私は何も聞いておりませんね。」


ヌ〜、と鳴き続ける謎の生物に案内人が目を向けると少し驚いたようにそう答えた。


「この生き物はヌコですね。かなりの隠密能力に魔法耐性を持ち、基本的には無害の生き物です。

飼っているとネズモを筆頭に害獣や害虫の類を駆除してくれる、貴族の間でとても人気の生き物です。」

「……」


残念な事に私のシラスはヌコに害ある物と判断され、かなりの速度で駆除されたようだ。


いや待て、というか陛下方の贈り物でなければ何故ここに居る。


「野生が入り込んだのか?」

「いえ、先程の説明通りヌコはかなり人気で警戒心も高いので生き物で野生ではほぼ見つかりません。

少なくもこの王都では野生は存在しないはずです。」


それならば何故ここに居る。


「恐らくですが、誰かに飼われていたヌコが逃げ出したのかと。

首輪が付いていないので特定には時間が掛かるでしょうが、私が騎士団へと届けましょう。」

「なるほど、では頼んだ。」


お腹に腕を差し込みヌコを持ち上げる、特に抵抗しているようには見えず簡単に持ち上げている。

警戒心はどこにいった。


『ヌ〜〜』

「……」

『ヌ〜〜』


なんだお前。


案内人と話している間も私の事をジッと見ているのには気づいていた。

最終的には、外へと運ばれて私が見えなくなるまで視線を逸らさず鳴き続けていた。


「ふぅ……」


お騒がせな珍獣だったな。


予定がズレてしまったが安全確認できた事だし、陛下からの手紙を読みに行こう。


ヌコには危険が無いと判断し、ヌコの相手をしている間にシラスからの情報を再び受け入れたことによって、屋敷は完全に把握できた。


国王からの手紙が置いてあると言われた書斎は屋敷の3階の奥、何かしらの襲撃にあったとき籠城をする為の場所に位置している。

ヌコの居た部屋の前にある階段を登ればすぐに着く。


「さてと、手紙は……」


一目見ただけでも高級な家具ばかり揃っている書斎、書類や本を置く為の棚には何も入っておらず少し寂しさを感じる。


机の上に手紙は置いてあった。


『カリル、屋敷は気に入ってくれたか?

いきなり王都に呼び出してすまない、だが今後の事を話すためには必要だった、納得してもらいたい。


っと、私は手紙などでは無く直接話す方が好きでな、ここでの説明は省かせてもらうが今後カリルが参加必須のパーティーや集まりの場で話そうではないか。

同封されている紙にこれからの用事が入っている、確認しておいてくれ。


君の友 カリウス・ギヨーム・ヴェンガルテン』


相変わらず距離が近い手紙を読み、同封されていた物にも目を向ける。


「うわっ……」


思わず出てしまった声。

私が入学する迄の日付が刻まれたカレンダーには、毎日のように王城の文字が刻まれ、様々な予定が1日に2回のペースで入っていた。


それに、


「パーティーはまだ良い。だがこの雑談昼食タイムってなんだ。」


参加者は国王と宰相と私、絶対に喋りたいだけだろう。

あの御2人と食事なんて最高級料理でも緊張して味を楽しむ余裕なんてないな。


「雑談朝食、雑談夕食、雑談ティータイム……ほぼ雑談!」


休んだらダメだろうか……


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