第90話 王都の屋敷
あれから辺境伯とは話す事は無かったが、多くの護衛を抱えている貴族家の馬車がお互いに視認できる距離で動いていたのもあって、変な輩に襲われることも無く王都に到着した。
「今日は屋敷で過ごして、明日に陛下へと謁見の予定だ。
マリアとの約束を果たすのは早くても2日後になってしまう、すまない。」
「大丈夫、うん……大丈夫……」
小窓が閉まっている馬車とはいえ外からの騒がしい多くの人々の声が聞こえるのが不安なのか、言葉が途切れ途切れになってしまっている。
『グゥゥゥ。』
「……」
おいフグ、お前は何で馬車の上の方でフワフワ舞ってるんだ。マリアのメンタルケアはどうした?大人しく腕に収まっておけ。
「ミナ、屋敷に着いたら取り敢えずマリアの休める部屋を作ってくれ、私は自分で行うからマリアを最優先で構わない。」
「はい!……かしこまりました。」
昨日に護衛達を引き締めたのが原因だろうか?
3人で過ごしている時のミナが半分真面目従者になってしまった。
どうしても距離を感じてしまうし、外は騒がしくて馬車の中で話す程度じゃ外には聞こえないから素で過ごしてほしい。
そんなマリアの不調から始まった不安定な空間は屋敷に到着したことで直ぐに終わった。
「カリル様、お屋敷に到着しました。
門の前に居た方が言うには、カリル様が門に触れれば開いて警報の鳴る魔道具が解除されるとの事です。」
「わかった。」
そうして馬車を降りた私の目に入って来たのは大勢の野次馬とディカマン領にある屋敷より少し小さい屋敷だった。
あの国王の事だし、とても広い屋敷を渡されると考えていたが予想より屋敷が狭いのは嬉しい誤算だ。元から使用人より魔法薬師達を多く抱えていたディカマン家には、本邸並みの屋敷を何個も管理するのは人数的に不可能だったのだ。
最悪外部から雇うといつう手もあったが、せっかくスパイを減らせたのにまた増える未来しか見えない。
それに今の私には守るべき秘密が多すぎる。
知識から再現した魔法薬、マリアの慈悲、ベルトナ家の2人、秘密の中でもこの3つは絶対に守らねばならないのだ、スパイの可能性がある者を仮とはいえ雇うなどあり得ない。
「ん?おぉ……」
などと考えても解決しない無駄な事を考えていた私は屋敷の中見て、あまりの綺麗さと何故か感じる神々しさに考えていた事がすっかり抜けていった。
「「「これは……」」」
さっそく屋敷を使える状態にしようと、仕事道具を持ったやる気に満ちている使用人達も屋敷に一歩踏み入れた瞬間に目を見開き固まってしまった。
確かに屋敷は綺麗だが固まるほどでは……
パン!
手を一度思いっきり叩き使用人達を現実に戻す。
「作業を始めてくれ。」
そう言うと各々気合を入れ直して散らばっていった。
「ディカマン侯爵様、ご案内は必要でしょうか?」
屋敷を私に渡すために国王が用意した者、おそらく案内には備え付けられた魔道具の説明も含まれているはずだ。
「いや、特に必要は無いな。
私より生活用の魔道具を使う頻度の高い使用人達へ教えてやってくれ。」
「かしこまりました。
今日一日の間、私は滞在させていただきますので、もし御用がございましたらこのベルを鳴らして下さい。」
渡されたのは見た目的にはなんの変哲もないベル、だが鳴らすと特定の人物に知らせる魔道具だ。
「最後に陛下からの手紙が書斎に置いてありますので確認をお願い致します。」
「……わかった。」
陛下の手紙を置きっぱなしにするなんて正気とは思えない。
誰かに盗まれたら、誰かに見られたらと不安だ。
「【シラス】
【
『『『ピッ!!!』』』
シラスが動き始めると同時に脳内へと屋敷の情報が送られてくる。
外見通りになかなか広く、元から置かれている装飾品で、無駄にデカくそして長い廊下を誤魔化してるのではと思う程の大きさだ。
「座ってしまうか。」
ちょっとした段差に座る。
シラスがバラけることで入ってくる情報が増えて、体力面で立っているのが難しい。
痛みは、まぁ少し痛むが我慢できないほどじゃない。
「地下に研究室と牢屋か……
実験には最適な環境だな。」
かなり良い環境だが、あまり表に出せない実験用としか思えない設備だ。
特に地下牢なんて自領ならともかく王都に作る物じゃない。
というか、ここは昔誰か住んでいたのだろうか?
仮に中古だったとしたらシラス達が発見した地下室は絶対に立ち入らないでおこう、なんなら地下を埋めてしまうのもいいかもしれない。
別に呪いなどは信じていないが、霊体の魔物が沸いたら面倒なのだ。
屋敷内で討伐できればいいが外に出ればとても厄介だ。
危ない実験をしていた、魔法薬の実験、人を使ってる、などなどの変な噂が囁かれる。それにここは貴族が多く住む区画、噂が立つのも一瞬だからな。
そのまま順調にシラスによる探索が進んでいき、そろそろ書斎に向かうかと立ち上がった時、
ブツ!
「……は?」
国王と宰相が用意したであろう屋敷、敵など絶対にいないはずのこの場所でシラスが1体狩られた。
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