第54話 魅せる

会場の空気は一部の者達を除き最悪の一言、イーウェル公爵の派閥を含む大きな派閥を作っている者達は会場から消えた。


私も人が減った会場で公爵を筆頭とした面倒な相手に絡まれる可能性を考慮し、ミナと共に会場を後にした。

何故か宰相も居るが……


「何考えているかわかりますが、私もあんな場所に居たくは無いのです。」

「気持ちはわかりますが、陛下と宰相は最後まで会場にいる必要があったと……」

「ならカリルも共に戻りますか?」

「申し訳ありませんでした。」


私達の周囲には誰も居ないため丁寧寄りなタメ口でお互いに冗談を言いながら話している、その影響でミナが萎縮してしまっているが私を見る目は何故かキラキラしていた。


「それにしても王女が生き残るとは思いませんでした、陛下も後継者のことで頭が痛い事でしょう。」

「え?」

「あぁ、カリルにはまだ話していませんでしたね。

陛下は自らの子供のうちパーティーに出た2人のうち片方を後継者とするつもりだったのですよ。」


それはかなりの機密情報だ。


国王の子供は王子2人と王女3人の合計5人。

今日会場で国王に挨拶した2人より歳上が王子と王女の2人、歳下の王女が1人だ。


知識の中では王家の後継者争いについて軽くしか触れられていないが、かなりの苛烈な争いらしく暗殺や謀略での蹴落とし合いが裏で行われている。

後継者になれる者達で特に争っているのが上の2人、そんな2人が国王の判断で後継者になれないと知れば……


「我々に教えてもよかったのですか?」

「別に構いませんよ、他人を蹴落とすことしか考えていない奴にカリルが負けるとは思いませんので。」


違う、私が王子と王女の2人と戦う訳じゃない、認識がちょっとズレてる。


私が考えてたのは、秘密とはどこから漏れるかわからないということ。

絶対にやらないしやらせないが、仮に私かミナが外部にこの情報を漏らす可能性を考えれば、いくら大罪で身内だろうとも教えることの出来ない情報は多い。


つまり扱いによっては死に繋がる情報を軽く教えられてしまったのだ。


流石のミナも事の重大さを察しているのか顔色が悪くなっている。


「でも今回のことを考えれば後継者について考え直さなくちゃいけませんね。」

「それは王女を後継者から外すということですか?」

「いえ、考えていた2人ともです。」


2人とも?

私達からすればやらかしてくれた王女を外すのはわかるが、王子まで?


「王子は王になりたくない!などとほざく者ですので、私と陛下からすれば後継者は実質王女に決まっていたんです。

王子を候補に考えていた訳は王女への最終試験の為、陛下が最終候補者を発表したあとに王としての覚悟を決めさせるための道具だったんですよ。」

「……」


確かに身内を切るというのは重要な事ではあるが、知識でも仲が良さげな王族だったからな、国王と宰相の計画にちょっと引いてしまった。


「っと、私が一方的に話していてもつまらないので、今度はカリルがメインで話しましょうか。

議題は、あのゴミの子孫についてで。」


つまらなくはないので是非続けて欲しかった、知識だけでは得られない情報や事情を知るのに宰相の話はとても有意義な時間なのだ。


「私は奴との接点はありませんし、想像でしかないのですが、なんというか奴に対して都合が良かったと感じました。」

「そうですね。」

「それと──」


純粋に感じたことではあるが、国王と宰相に少しでも危機感を持って貰えればと知識を少し濁して伝えることにする。


「これは私の感覚なので上手く説明できないのですが、周りに奴を魅せている様に見えました。」

「魅せている?」

「はい、まるで物語の主人公の様に……」


こんな伝え方では宰相には伝わらないだろう、自らの生きる世界を物語に見立てるのは並の者には出来ない、だって生きているのだから。

自分が正義になるのか悪になるのか、私だって知識で得た物語では悪だが全く同じ道を歩むかと聞かれれば歩まない。


「奴が主人公だとすれば私を含む陛下とカリルは倒されるべき悪役だね。

いや、なるほど全てが繋がった。」


そんな予想を立てた私だが、宰相はいとも簡単に自分なりの答えを導き出したみたいだ。

その内容まではわからないが、おそらく当たっている事だろう。


「では私はここで、さっきも言いましたが手紙を送りますね。」

「今日はありがとうございました。

手紙の件、楽しみにしております。」

「それでは……」


私達も宿に戻ろう。

予想外の出来事が多くて疲れたし、1人で考えたい事も出来た。



ーーーーー


はい!


どうも貴族様達が沢山いるパーティーから帰還したミナです。

私もそうですがカリル様も流石に疲れたみたいで、宿に着いた時点で解散になり、メイド友達が待つ部屋に帰ってきました。


「ミナお疲れ!楽しかった?!料理とかどうだった?!」

「は、はぁ、その前に着替えを……」


起こさないように慎重に扉を開けたはずが、何故か友達は起きてました。

これは寝ずに朝までお喋りタイムかも知れません。


「自分で出来ますよ?」

「ダーメ。」


友達が言うには、ミナは今日一日お姫様というちょっと理解できない言い分により私は椅子に座らされて、貴族様の令嬢の様に服を着替えさせられてます。


「……透けてません?」

「大丈夫、これでカリル様もイチコロよ。」

「?」


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