第53話 台無し

しかし事情はどうであれ会場内でこれだけの騒ぎ、パーティーはこれで終わりだろう。


「一体彼が何をしたと?!」


反論するとしてもこの場で行うのは愚行だろう、後々が不利になるのと同時に追い詰められてる公爵家が更に苦しくなるだけだ。


よし、もっとやれ。

少しでも印象を良くしようと自らの派閥の貴族に諦めずに話しかけ、なんとか会話まで行って信頼関係を築こうと努力していた公爵に新たなストレスを掛け続けろ。


可哀想に、娘を放置したせいで努力は全て水の泡です。


「この者には王都内で衛兵を殴り、罪人を逃した容疑が掛けられております。」

「証拠は?!」

「逃した罪人に物を盗まれかけた貴族様の証言、フードで顔は見えなかったが鮮やかな赤色の髪、そして会場でこの男を見た時に奴だと確信し報告したそうです。」


会場の異変を察知した公爵が娘の前に出ようとしたが敵対派閥に妨害されてる。

前までなら無理矢理通っても問題は無かっただろうが今の公爵にはその様な行動を取れない。

敵対派閥のトップは侯爵なのだが影響力はそれなりの物、自らの派閥が解散の危機に晒されている今そのような行動を取り、身内から見限られればそれこそ終わりだ。


「あっ、あれか。」

「知っているのか?」

「はい。王都の散策中に見かけました。」


少し事情を知っていそうなミナが言うには、貴族が物取りに合いそうになって衛兵が犯人である子供捕まえてたのを主人公が衛兵を殴ったあとに抱えて逃げたらしい。


話を聞いた私が思ったのは、主人公ならやりかねないなという事と現実が見えてない馬鹿であるという事。


国王の意向により王都での犯罪は基本的に技術漏洩を防ぐため魔法契約で縛ったあと王都から追放される事が殆ど、だが貴族が関わっていると相手にもよるがどんなに軽い罪でも極刑になる可能性はある。


しかしここ王都では力が全て、それは貴族も例外で無く、ある意味では平等であり、極刑を求めた裁判で負けると自分が極刑になるため、前者の処置になる方が多い。


だがここでの問題は逃した罪人が犯した罪では無い、主人公が衛兵を殴った可能性があるということ。

流石に衛兵に暴力を振るい、衛兵の職務を妨害したとなると……


「陛下と話した事は無駄になるかもな……」


今の影響力が著しく落ちている公爵家では連行を止める事は不可能、このまま連行され身分を調べ上げられて極刑。流れで男を匿っていた公爵家はお取り潰し。


あぁ、短いやり返し期間だった……


「そんな物は証拠とは言えません!」

「ですが容疑がかかった時点で拘束はいたします。別室にて取り調べを行い、事実無根なら釈放、事実であるなら然るべき処置をとります。」


会場中の視線が集中している中、宰相がバレない様に会場内に入ってきた。国王は影武者が居るから入って来なかったのだろう。


「向こうに移動するぞ。」

「はい。」


宰相に来いと合図されたので目立たないように近づく。


「これ、どうしますか?」


盗み聞き防止の魔道具を使用しながら近づいた私が聞いたのはまさかの一言、国王と宰相がこの件を把握していないとわかる一言だった。


「……!」

「お恥ずかしながら、今回の件は陛下と私は全く知りませんでした、全て警備担当のラリメルの独断です。

通常の相手なら仕方のない行動なのですが、相手が我々の玩具でしたのでちょっと焦ってます。」


気になる言葉があったが取り敢えず置いておいて、2人が把握できていなかった原因は1箇所に国王の傲慢を防ぐ者が集まりすぎて国王が情報を手に入れられなかったのだろう。


まぁ起こってしまった事は仕方ない。


「成り行きを見ても良いのではないでしょうか?

ここまで来てはパーティーは中止、奴も無罪にはならないかと。」

「そうですね、遊べないのは残念ですが仕方ありませんね……

それにあの公爵領を管理するのは王族になりますし、我々は無理に止めなくてもいいでしょう。」


宰相は国王に全部投げるつもりらしい。

脳裏によぎるマジかという国王の表情。


「ですが、あまりにこれは──」

「この場には陛下は勿論、王国の重鎮が多くいらっしゃいます。罪人の可能性が僅かにでもある以上、拘束は速やかに行わなくてはなりません。

その者を地下へ。」

「「「かしこまりました。」」」


公爵は動けず、娘が助けようとしても無駄であった。


「そこの者達!一度止まりなさい!」


そのまま連れて行かれて終わりだと誰もが思った瞬間、会場に声が響き渡った。


声の主はこの国の王女、メルデナ・ヴェンガルテン、主人公のヒロインの1人。

知識の中での初登場は学園、その時の会話から面識があるのはわかっていたが、まさか庇うまでの仲とは……


「その者を離しなさい。」

「王女様、いくら貴方の命令といえど納得のいく説明をお願いします。」


貴族家の当主達は流石に王族の声は無視できない。


「その前に彼の犯した罪というのを説明していただけるでしょうか?」

「衛兵に対する暴力行為、王都内で罪人を逃した事、今回の拘束はこの二つの罪です。」

「なるほどなるほど、それの証拠は?」


流石は王族と言うべきか、どっかのクソ女とは口の回り方が段違いだ。

だがそこまでの技術と能力があるなら物事をちゃんと判断してほしい。


「被害に遭われた貴族の証言です。」

「たった1つなのね?少し弱いわ、そもそも容疑者の段階でここまで拘束する必要はあるのでしょうか?」

「ここには多くの重鎮がいらっしゃいます。

貴族でも無い、身分も我々は把握していない、それが罪人なら危険が及ぶ前に拘束するのが当たり前かと。」

「なるほど、ではこの方の事を教えてあげましょう。」


この流れは不味いかもしれない。

最初は楽しそうに見ていた宰相も表情を険しくしている。


「盗賊に襲われていた私を助けてくれた命の恩人で、王都に入る時には私が身元を保証した存在です。」

「……」

「王家からのお礼はまだ出来ておらず、仮に罪が真実だとしても今はこのような扱いを受ける方ではありません。」

「……拘束を解け。」


その程度で解くなと言ってやりたいが、罪が真実だと証明できなかった場合、王家の恩人の拘束に加担した全ての貴族に何らかのペナルティが発生してしまう。


「報告されていましたか?」

「いいえ、だが王女が襲われたのは事実です。」


宰相達も奴の存在を知らなかった。



──奴にとって都合が良すぎる──



立ち上がり王女にお礼を言う主人公を見て、私はそう思った。

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