第52話 拘束

それから、私なんかよりも、と卑屈になるクルトに取り敢えず聞けと私の考えていることを伝えた。


カルティ家が農作物の栽培方法を見つけた功績で貴族になった事を考え、クルトには私の魔法薬の材料を効率良く栽培する方法を研究してもらい、対価として金銭を支払うという物。


現在のディカマン家でも材料の栽培は行われているが、国に卸す魔法薬の全てを賄う事は出来ていない。


それに栽培には多く金が掛かる。


商人に依存して仕入れるだけで無く、ある程度を自領や良好な関係の貴族の領地で栽培してもらう事は栽培の件は元から考えていた。

クルトに声を掛けたのは偶然だが、条件的にカルティ家はかなりこの計画に適している。


「そんなことが、こんな私に出来るでしょうか……」

「さぁな、私にはわからない。だが出来なければ没落するだけだ。」

「……!」


会話と言うには一方的に話し続けた時間が終わった、クルトがどのような判断をするのかわからないが今日できる事は何も無い。


「後日手紙を送る、私の手を取るかは任せよう。」

「……はい。」


最後にそう言ってクルトの元から離れる。


「さてと、居ないな……」


条件に合う貴族が居ないか会場を見渡すが、クルトのように100%合う者は居ない。

さらに条件を軽くしても及第点の存在が2人……


予定を変更だ。


「いきなりすいません、今お時間よろしいでしょうか?」

「ん?君はディカマン伯爵かね。」

「えぇ、私はディカマン伯爵家当主、カリル・ディカマンと申します。」

「知っていると思うが私はガレス・メイピア、辺境伯だ、貴方の魔法薬には随分と助けられている。」


私が声を掛けたのは軍服のような正装を着た屈強な男、緊張状態が続いている帝国との境界を管理している貴族、ガレス・メイピア辺境伯。

ディカマン家が国に納めている魔法薬の3割は辺境伯のところへと行き、家同士の繋がりも少しある。


「いえ、我がディカマン家の義務であるのと同時に、国を守ってくれているメイピア辺境伯の力になれればと行っている事です。」

「それでもだ。帝国などの他国にも魔法薬を作れる者や組織はあるが、ディカマン伯爵家には遠く及ばない。

君の魔法薬のおかげで救われた兵士は数多い、戦況も何度も変わっているさ。」


特に遠いわけでも無いが近いとは言えない、この少しの繋がりを強化しておきたい。

同じ派閥とまではいかないが、私が敵対した存在に軽く牽制してくれる程度にまでは友好的になっていたいのだ。


「ん?」

「どうかされまし──うわ。」


会話を続ける流れだったのだが、急に私の後ろ側を見て疑問を浮かべた辺境伯に引っ張られ私も後ろを見る。


クソ婚約者と主人公が人目も気にせず談笑していた。


「あんなのと婚約者なんて、君も災難だな。」

「……そうですね、早く大人になってほしいものです。」

「それは無理であろう。」


辺境伯の言う通りそれは絶対に無理だ。


こんな人目につく場所で婚約者同士ならともかく、貴族位を持たないパートナーと談笑。

通常なんらかの事情で貴族では無いパートナーを連れてきた場合、他の貴族には紹介する事は無く、今のミナのように基本的に会話に口を挟まずパートナーと共に過ごす。


「淑女とは思えん。」


重要な意味を持つパーティー会場でのあの行動、そもそも貴族とは思えない。

不快なものを見た、と顔を歪める辺境伯は手に持つワインを一気に飲み干した。


「ディカマン伯爵、アレと婚約破棄をしたら娘と婚約しないか?」

「!」

「少し離れているが問題は無いだろう。」


少しって、辺境伯の子供で婚約者が居ない者は私と7歳ぐらい離れていた気が……


正直に言って辺境伯との縁はかなり有難いものではある。

魔法薬で繋がった縁ではあるが、婚約し更に強い繋がりを得ればお互いの家に対する利益は計り知れない。


だが、国王の事を考えれば今直ぐに答えを出す事は出来ない。


「出来れば少し時間を頂きたいです、あんなのでも婚約者でしたので少し距離を置きたいのです。」

「……ほう?

いや、すまなかった私は少し飲みすぎたようだ、忘れてくれ。」


周辺に居た辺境伯の派閥の者達は距離を取っているとはいえ万が一の場合がある、現状ではあまり密接な関係とは思われないよう辺境伯の機転で冗談へと昇華した。


「……ディカマン伯爵。」


和やかな雰囲気で続きそうだった私達の会話は、急に剣呑な気配を溢れさせた辺境伯により終わった。


「パートナーを連れて端によっておけ、貴殿が倒れると王国の損失だ。」

「かしこまりました。」


会場の様子がおかしい、辺りを見渡せば辺境伯以外にも数名が何かに警戒する様子を見せていた。

その殆どが武功によって貴族になった者達。


「ハッ…」

「起きたか。」

「え?あっ、ボーっとしてしまい申し訳ありません……」


なんとも気が抜けるタイミングでミナが目覚めたが、直ぐに動けるという意味ではよかったのかもしれない。


「直ぐに動けるようにしておいてくれ。」


平和ボケした貴族すらも会場の様子に気付き辺りを見渡している。


ガタン!


始まった。


この会場に響いた音は、ノラ・イーウェルと談笑していた主人公を床に叩きつけた音、主人公は2人がかりで拘束されていた。


「私のパートナーにいきなり何を?!」

「この男にはとある容疑が掛けられているため拘束する、邪魔をするなら公爵令嬢といえど貴方も拘束させていただきます。」

「なっ!」


奴は何をやったんだか。

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