第51話 繋がり

「……」


ボーッとしたまま私に付いて来るミナ、宰相の能力は解除したらしいが元には戻っていない。


「おいおいミゲアル、お前克服できてなかったのか?」

「そんなはずは無いのですが……まぁ、暫くすれば元に戻るとは思いますよ。」


宰相が言うには能力はもう掛けておらず、他の者に使用したときもこのような事は起きなかったらしく原因は不明。

もしかしたらミナにある程度の耐性があって、宰相の能力を変に防いでしまった影響かもしれないと言っていた。


「流石にカリルのパートナーとはいえ、大罪の話を聞かせる訳にはいかなかったのです。

すいませんでした。」

「いえ、仕方のない事だと理解しております。」


本当に仕方ない、それに私は宰相の言った耐性に心当たりがある。ミナを選んだ例のチャラいイヤリングだ。

いくら宿る人格がチャラくても嫉妬の神殿産の魔道具、同じ大罪の能力を完璧とまではいかなくても防ぐくらいは可能だろう。


まぁ最悪時間経過で元に戻らなくても、作った魔法薬を飲ませれば元に戻るはずだ。


「これはミゲアルもお詫びしないとダメじゃないか?

カリル、こいつになんでも要求してやれ。」

「えっ……」


要求?!


距離の縮め方がかなり早い2人だが、流石に自分の自由になにかを要求するほどの仲までは行ってないと思う。

それに純水結晶も貰っている。


「どうやらまだ遠慮があるようだ、では私が決めてやろう!」


悩んでいると国王がこれまた軽いノリでそう言った。


あぁ、はい。もうお願いします。


2人のノリの軽さで感じていた最初の驚愕が薄れ、この空気にも慣れたと思っていたのだが私はまだまだだったらしい。


「今度カリルと共にオークションに行き、カリルが気に入った物を落札してくるんだ。」

「なかなか良い案ですね。

ではカリル、予定の確認をした後に手紙を出すので楽しみにしていてください。」

「え、えぇ、楽しみにしています。」


この国の資金を自由に動かせる人達に連れられて行くオークションは少し怖いのと同時にワクワクする。


「では今度こそ戻りますね。」

「またなー。」


相変わらず心ここに在らず状態のミナに声を掛けて腕を組んで部屋を出る。

言えばその通りに動いてくれているが見る人が見れば正気じゃないのは丸わかり、ヤバイ事をしてるんじゃないかと誤解されないかだけ心配だ。


「……」


会場内では貴族同士の挨拶はすでに終了し、いくつかの派閥に固まり談笑していた。

予想はしていた状況ではあるが、今から貴族と関わりを持とうとするのは不可能ではないが難しいだろう。


そんな中、私は派閥で固まっている貴族ではなく、パートナーとだけ共に居る貴族を狙うつもりだ。


ある程度の地位を持つ貴族には当たり前のこと。

公爵家、侯爵家はもちろん、伯爵家の中でもトップクラスの家は派閥を持っている。


発表されていないだけで、国王から宮廷特別魔法薬師という役職を貰い、陞爵し伯爵から侯爵になる私は家を守るためにも派閥を作る必要がある。


有力な貴族家は既に派閥に入っているため、自らの派閥に引き込むのはかなり難しい。

引き抜く事もできるが、敵対と取られる可能性が高く、国王と宰相の後ろ盾があるとはいえ無闇矢鱈に敵を増やすのは良くない。


では有力な派閥のメンバーを集めるにはどうするか、


「初めまして。」

「……!は、初めまして。」

「急に話しかけてしまい申し訳ありません。

私はカリル・ディカマン、魔法薬を主に作っているディカマン伯爵家の当主です。よろしければお名前を教えていただけないでしょうか。」


それは弱い貴族家を支援して育てること。


私が話し掛けたのは会場の隅で少し俯いていた貴族令息。

近くにパートナーや親の姿は無く、ただ1人ポツンと立っていた。


「えっと、私はクルト・カルティ、新たな農作物の栽培方法を初代が発見しただけの、カルティ男爵家の当主です……」


このような場で初対面の場合は挨拶に我が家はなにをしているかを伝えるのが常識とされる。

新しい農作物の栽培方法はかなり凄いことだと思うが、口ぶりと様子からして初代の栽培方法を見つけて以来、大きな功績をあげられていないのだろう。


普通なら繋がりをつくろうなどとは思わないが、私の探していた条件をほぼ100点満点の存在だ。


クルトは私と環境が似ている、早くに親を亡くし未熟な身でありながら貴族家の当主となったのだ。


私と違うのは爵位、伯爵ともなれば話題になり支援もされるが、男爵程度ならそこまで話題にならないどころか、今後の見込み無しと繋がりのあった貴族が離れて行く。

それはクルトの服装からもわかり、苦労しているのが姿から伝わってくる。


「あの、こんな事を聞くのは失礼かもしれませんが、こんな没落寸前の男爵家の当主になにか御用があったのですか?」


卑屈になっているが、これも予想通り。

先程からクルトがチラチラと視線を送る先には大人も含めて5人で談笑している1人の令嬢、恐らくパートナーだったのだろうが令嬢はクルトを気にする素振りを一切見せない。


「……」


なんというか、あのクソ女に似ていて不快だな……


よし、


「私とビジネスの話をしましょう。」

「!!!」


恩を売って派閥に引き込むと同時に、クルト自身にも成長してもらう。

まぁクルトがどのような判断をするかで切り捨てる可能性もあるけど。

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