第50話 合わせる
面白い事をする、話を合わせろと言われ、詳細は教えてもらえなかったがイーウェル公爵が部屋に呼び出された。
全て任せろとも言われていたし、私はただ堂々と立っていればいいと思っていた。
「宮廷特別魔法薬師ディカマン侯爵だ、そして我々の同志でもある。」
でも陞爵するのなら先に教えて欲しかった、しかも宮廷特別魔法薬師とかいう役職もついている。
まだ例の魔法薬は献上していないのだが……
「そ、それは──」
「カリル・ディカマン侯爵はこの国の宝となった。
つまりだ、恥をかかされた分には国王として罰を与えねばならない。」
この状況には流石の公爵も狼狽えている。
「だが、額についてはディカマン侯爵が決めること、我々は口を挟まないが既に格下では無いという事を忘れるな。」
助けを期待しているのか私の方へと視線を向けてくるが特に何もしない、大人しく罰金を払ってもらう。
しかし最後の最後で私に投げるのか……いや、確かに今回の行動に対する罰を与えるなら私が決めるのが筋ではあるか。
「では私がディカマン家の当主の地位に着いた時から、今まで公爵家に支援していた分の額を払っていただきます。」
「!」
正直考えるのが嫌なぐらいの金額になる。
もちろん一括で払える額では無いため、一定の額をまとめて払われた後は毎月の返済になるはず、公爵家が潰されるまでに半額回収できれば良い方だろう。
「ふむ、不貞の罰によるものなら妥当だろうがそれではただの返済だ、倍の額を払うのが良いだろう。
異議は無いな?イーウェル公爵。」
「……えぇ、もちろんです。」
こんな簡単に恐ろしい額の賠償が決まった。
「では次にディカマン侯爵の婚約関係の話をしましょうか。」
「!」
いつもの覇気が無くなり項垂れている公爵へ、宰相が更に追い討ちを始めた。
「罰は賠償金という形で受けているので関係はそのままです。」
「それは、なぜですか……?」
「貴族として、相手がどんなに嫌いな存在だとして婚約というものを結んだ場合、そう簡単に白紙にする事は出来ないのですよ。」
宰相の言っている事は全て建前、あの婚約者が態度を改めようと英雄の子孫を囲い込んだとして公爵家の取り潰しは決まっている。
つまり終わりが見えている関係だ。
「ディカマン侯爵は婚約関係を続けたくは無いらしいが、貴族として、白紙にはしないそうだ。」
「……!」
「だが、ここまで恥をかかされては流石に期限を設けたいそうだ。王都の学院の入学までに、関係の改善か歩み寄る姿勢を見せねば即白紙にする。」
だがそんな裏事情を知らない公爵は垂らされた希望の糸に飛びついた。
仮に婚約関係がうまくいけば、公爵家が次代に継ぐことができるのに加えて、新しく国王の同志となった宮廷特別魔法薬師のディカマン侯爵と良好な関係だとアピールできる。
公爵家の悪評と貴族に避けられている現状を打破することが可能になるのだ。
「恩を仇で返し続けてしまった公爵家にチャンスをくれて、本当に有り難う。」
私の顔を見てから頭を下げて感謝の言葉を述べる公爵を私は冷めた目で見ていた。
「うむ、話は終わったな?では我々はこれからディカマン侯爵と話をせねばならない、出て行け。」
「失礼致します。」
心なしか公爵から負のオーラが減っている気がした。
扉が閉まり、また大罪のみの会話が始まる。
「あの希望を見つけたという顔を見たか?!」
「えぇ、馬鹿みたいでしたね。」
私達3人は国のトップにあるまじき低俗な事を言いあっているが、正直私はかなりスッキリした。
わざわざ希望を与えるのは恐らく私を気遣ってのこと、軽い憂さ晴らしになればと思ってだろう。
まぁ、そんな事より陞爵した事といつの間にか決まっていた役職の事の方が重要だ。
「陛下。」
「ん?どうしたカリル。」
「この魔法薬を献上致します。」
国王と宰相の目の前でアイテムBOXから魔法薬を取り出す。
「効果はどんな毒でも完全に無効化する物です。
本来ならもっと早く渡す予定だったのですがタイミングが悪く、遅くなり申し訳ありません。」
「気にするなカリル、とても強力な魔法薬を作ることができ、アイテムBOXまで持っている。
そのような素晴らしい存在が国にいるという事は、王としても友としても心強いのだよ。」
認められるというのは、ここまで心地の良いものだったのか。
国王と宰相の2人と話してから私は全てにおいてかなり気が楽になった、心強い味方、頭が痛くなるような問題の解決、全てが良い方向へと変わっていた。
「さて、カリルの陞爵の発表は今回のパーティー中に行うか。」
パーティー中に発表してくれるのなら、きっと私の元には多くの貴族が足を運んでくる。
だが、
「いや、それは少しお待ち頂きたいです。」
「ん?何故だ?」
「有象無象に集られるのは嫌なので。」
しょうもない貴族との会話に時間を使いたくは無い。特にイーウェル公爵と繋がりが深い家には。
「ふむ、了解した。
本来ならもっと3人で語り合いたいところだったが、カリルは貴族の繋がりを作るべきだろうし今回は解散とするか。」
「そうですね、どうせまた語り合う機会はあるでしょう。少し残念ですが今日は楽しかったですよ。」
本気で惜しまれているのが伝わってくる。
「私も心強い味方ができて嬉しかったです。」
最後に2人と握手をする。
「ん?」
宰相との握手のとき、手のひらに硬い物が当たった感覚があった。
「プレゼントです、大切に使ってください。」
「ありがとうございます。」
プレゼントとして渡されたのは半透明な水色の結晶、これら純水結晶と呼ばれる水属性が宿る最高品質の鉱石。
この鉱石で剣を磨けば水の力が宿り、魔法の触媒にすれば水に関わる魔法が大幅に強化されるヤバイ物。
そしてとある装備の強化素材。
「待たせてすまなかった、戻ろう。」
「……」
「ミナ?」
何故かミナは動かなかった。
顔の前で手を振っても反応を示さない、そこで流石にボーッとしてる時間が長い事に気づいた。
「おいミゲアル、解除しろ。」
「あっ……」
……貴方達のせいでしたか。
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