第49話 紹介しよう
最愛の娘がやらかした。
置き手紙には来ると書いてあったが、どのようにパーティーに来るかわかなかったのに加えて、パーティー開催までに結局見つけられず、探索は断念するしかなかった。
(まだなんとかなる)
そんな風に考えていた私だったが入場に娘の名前が出てきてから、その考えは捨てた。
どうやってパーティーに入ってきたのか、そんな事を考えている暇もなく、娘がパートナーとして連れてきた存在を見て頭が痛くなった。
状況は最悪と言っていい。
会場でディカマン伯爵が我々を断罪しようとしなかった事だけが救いで、公爵家の評判や娘の醜態、そして国王には英雄の子孫の事がバレてしまった。
燃えるような赤髪は忘れかけられている英雄の特徴、上位貴族にも知っている者がいるかもしれない。
国王の対応を見て不穏な物を感じた派閥の貴族達が距離を置こうとする動きが見え、何とか繋ぎ止めようと動いている。
だが殆どの貴族は様子見をしたいようで、会話は長続きしなかった。
「こんばんはイーウェル公爵。」
「……えぇ、こんばんはローロフ財務管理官。」
そんな私に1人の女性が近づいてきた。
この国で唯一の女性当主、国王に認められて特別にその地位を許された存在。爵位は侯爵だが権力の大きさで言えば国王と宰相を除きトップクラス。
「この素晴らしい場で仕事の話はなるべくしたくは無いのですが、状況を見るにイーウェル公爵が忙しくなると思うの。
機会が今しかなさそうだし話しましょう?」
「わかりました。」
ローロフ侯爵と共にテラスへと出る。
私の背後から着いてきていた男爵はローロフ侯爵に取り入ろうと話しかけ、扇子で殴られていた。
「さてと、王国から支給されていた赤石病の支援金についてなのだけど。」
やはりその話題か。
ディカマン伯爵のおかげで原因が判明、ダンジョンを探しているのだが全く見つからず公爵家から商人達に行っていた支援を削り、冒険者ギルドにも依頼して現在も探索が行われている。
「ディカマン伯爵のおかげで原因も判明したし、支援は完全に打ち切るわ。」
ディカマン伯爵家からの支援は私の判断ミスで打ち切り、それに加えて王国からの支援まで打ち切られては公爵家の大幅な弱体化は避けられない。
「いや、まだ待ってほしい。
確かに原因は判明したが対処が出来ていないんだ、資金面で困窮すればダンジョン攻略の戦力を集めることもできない。
せめてダンジョンを攻略するまで支援を続けてもらえないだろうか?」
この時、私は娘がパーティーに誰を連れてきたのかを失念していた。
「あら?貴方の娘さんのパートナーは英雄の子孫でしょう?戦力は十分ではなくて?」
「……!」
「原因究明、そして自らの家で節制してまで支援してくれた恩があるディカマン伯爵よりも優先した存在なのでしょう?」
言葉には怒りを感じた。
ローロフ侯爵は資金関係を管理している影響か、金銭が関わることに対する恩は強く、ディカマン伯爵に対する裏切り行為を許さないだろう。
つまり我々公爵家への支援は止まることが確定してしまった。
「話は以上ね。」
何も言えない私の方へと近づいてきた。
「今後の身の振り方を考えることね。」
私の代は後継に継ぐ時に負債をなるべく残さないようにすることで精一杯になってしまった。
国王達の不興を買わないよう慎重に動かなければいけない、娘とも今まで以上に話し合わなくてはいけなくなった。
「イーウェル公爵閣下ですね?」
「……君は、ディカマン伯爵を案内していた子だね。」
1人なったテラスでしばらく休もうと思っていたのだが、そうもいかないみたいだ。
「国王陛下がイーウェル公爵閣下をお呼びです。」
「君に着いていけばいいかな?」
「はい、ご案内させていただきます。」
私が公の場でディカマン伯爵に謝罪することで少しでも心情を良くしようと話しかけたのを間に入って止めたメイド。
もちろん本心からの謝罪をするつもりでもあったが、こうなった以上はディカマン伯爵との関係改善は不可能。
婚約も破棄するしか無い。
ディカマン伯爵が連れて行かれた所と同じ扉を開けて進む。
「私は扉を開ける権限はありません、この先へはお1人でよろしくお願い致します。」
「案内ご苦労。」
恐らくこの先には国王と宰相、そしてディカマン伯爵が待っている。
どんな話をされるのかはわからない、ただわかるのは私に拒否権などない事だけ、状況によっては言い訳ぐらいならさせてもらえるだろうが希望的観測すぎる。
「イーウェル公爵です、入室してもよろしいでしょうか。」
「入れ。」
「失礼致します。」
中には予想通りの人物達が待っていた。
「急な呼び出しにも関わらずよく来てくれた。」
「いえ、陛下に呼ばれれば直ぐにでも──」
「この場ではそんな言葉は必要無い、そんなどうでもいい事より紹介したい者がいる。」
紹介したい者?
この場には私が知らない者はディカマン伯爵のパートナーぐらいだが、その者は部屋の端っこでボーッとしている。
「紹介しよう、」
国王の合図と共に前に出てきたのはディカマン伯爵だった。
「宮廷特別魔法薬師ディカマン侯爵だ、そして我々の同志でもある。」
私はどうなるのだ……
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