第48話 使い潰す

国王と話しているとは思えないほど軽く進んでいく会話。


「ミゲアルはあの土地を──」

「要りませんよ、あんな不良物件。」


国のツートップと一応まだ娘の婚約者である私にあんな土地要らないと言われる、公爵がこの会話を聞いていたら泣いてもおかしくないな。


「前の栄えある公爵領まで戻すには、私か王のどっちかが公務をぶん投げて領地経営に集中しても5年は掛かりますよ。」


ここの全員が要らないと言ったし周辺の貴族に分け与える訳にもいかない。

領地経営にそこそこマトモな奴はもちろん、搾り取る事しか考えてない奴らも赤石病の危機がある土地なんて要らないと答えるだろう。


「イーウェルはカリルの報告書を読んで原因のダンジョンを探してるようだが、公爵領から逃げている者の数の情報を踏まえると発見には至っていないだろうな。」


ん?いまいち国王の能力がわからないな。


大罪に匹敵する能力を持つ者の情報が更新されないのはまだ理解できる。

だが英雄の子孫が王都に居る今なら、公爵領のダンジョンの場所を情報として得られるのではないだろうか。


英雄の子孫である主人公は現在この世界で産まれた時から大罪の能力を弾くことが出来る唯一の存在だが、公爵領から王都まで国王の傲慢の力を弾けるほど強力ではないはず……


「相変わらず不便な能力だ、無駄に広い土地をイーウェルに与えていた事を後悔しているよ。

まさか私の能力を弾ける者を身内に引き込むとは思っていなかったし、大罪ならともかくあのゴミの子孫だぞ?もっと賢い男だと思っていたのだがなぁ……」


無駄に広い土地を与えていた事を後悔……


あぁなるほど、つまり能力を弾ける存在が所属している組織や家の土地の情報が得られなくなるみたいだ。


「【リモーフィルム特定の場所を映せ

まぁ、この娘の姿を見る限りでは賢くはなかったのでしょう。」


宰相が魔法を使い、空中にパーティー会場を映した。

派閥の令息や令嬢に遠くからチラチラ見られるだけで明らかに避けられているノラ公爵令嬢と主人公、そして頭を痛そうにしながら自らの派閥の貴族に話しかけに行ってるイーウェル公爵が映っている。


「自らの家の利益を追い求める貴族が多い王国では、あそこまで無様を晒した公爵に見切りをつける者も多いだろう。

事実、背後に付き添っているのは借金まみれの男爵ぐらいだ。」

「終わってますねぇ。」


何度も言うが、ノリが軽すぎるだろう。


「カリルは何か良い案はないか?」


国王が私に話を振ってきた。


良い案か……

過去に作物ひとつ育たない土地を刑罰として貴族に与えていた事があったがそうするには公爵領は広すぎる。

そもそも刑罰として使うまで王家が管理する事になるだろう。


つまりあの土地は誰も管理したくない、元の所有者である公爵以外は。


「いっそのこと、土地や爵位は一時的にそのままに婚約者のパーティーでの行動を理由に公爵に罰金を課すのはどうでしょう?」

「ほう?続けてくれ。」

「莫大な罰金を毎月払わせる事によって公爵家の緩やかな弱体化を狙いつつ、あの土地を管理させるのです。

もしかしたら王家や周辺の貴族家に土地を売ろうとするかもしれませんが、断られるでしょう。」


少し私情が入ってしまっているが、かなり良い提案ではあると思う。


私の案で重要な部分は婚約者の行動に対する罰ということ、つまり英雄の子孫を匿っていた事に対する罰ではないためダンジョンを攻略し終えたタイミングで爵位剥奪、なんなら処刑まで持っていける。


「えげつない事を考えるな、憤怒か?克服はしていそうだが怒りは収まっていないようだ。」

「ですが良い案です。

罰としてあのヤバイ土地を管理させれば公爵は罰がこの程度で良かったと油断するでしょうし、ダンジョン攻略後の赤石病が解決した時に爵位剥奪しましょう。」


国王には能力まで教えていただけたし、憤怒ではないのはハッキリさせておくべきだろう。


「私は嫉妬ですよ?」

「「は?」」

「能力は生物を作り出す事です。」


私の罪は嫉妬だと伝えると2人は少しの間だけ固まった。


「カリルはアレに惚れたのか?」


宰相の魔法に映るノラ・イーウェルを指差して言う国王。それに対して私は後悔と羞恥心が入り混じった表情で頷いた。


「若かったのだな……」


国王と宰相に温かい目で見られながら、知識を得なかったらノラ・イーウェルに執着してしまっていたという、恐ろしい事実に気づいた。

自分のことで精一杯でそんなこと考える暇なかったが、私が嫉妬伯爵のまま歩んでいたらと、今更ながら恐ろしくなった。


「そんな嫌そうな顔をするな、私とて昔は婚約者に夢を見ていたものだ。」

「夢、ですか?」

「政略結婚とはいえ幸せにしようと努力していた。まぁ、国を乗っ取ろうとしていたから処刑したがな。」


処刑したのか……


少し気まずくなった空気を切り替えるためにか国王が手を一度鳴らし話し始めた。


「取り敢えず、公爵の処分はカリルの案を採用する事にし、私の能力を弾いた男に対しては公爵と同じタイミングで消すとしよう。」

「まだ問題が残ってますよ。

カリル、婚約はどうするのですか?」


そんなもの考えるまでも無く決まっている。


「もちろん破棄します。」


その言葉を聞いた国王がニヤリと笑った。


「なぁ、カリル。

少し面白い事をしよう。」




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